9 漢詩


先週につづいて、山気分の詩を。



 蒼蒼嫩葉誘南風

 鬱鬱深山蔵玄蘊

 乃知靡夏不摂緑

 登行峻嶮如践雲


<読み下し>

蒼蒼たり嫩葉どんよう南風なんぷういざな

鬱鬱たり深山、玄蘊げんうんを蔵す

すなわち知る、夏として緑をやしなわざるはしと

峻嶮を登行すれば雲をむが如し


<現代語訳>

なんと青々とした嫩葉わかばだろう。南風を誘っている。

なんと緑深い奥山だろう。人智の及ばぬものを懐に蔵している。

っていま思い知るのだ、緑を育まない夏などはないのだと。

険しい山を踏みわけ登れば、まるで雲の上を歩む心地がする。




第3聯は、「夏」より「春」とした方が収まりがよいかとも思えたのですが、迷った末に、夏にしました。

山は夏! という個人的な思いこみがまずひとつ。それと、春が緑をやしなうのは自然な共有認識で、「いま知った」感が乏しいかな、、ということで。

春のパステルカラーの、やさしい自然もいいですが、夏の原色の、猛々しい自然にも強く惹かれてしまうのです。


第1聯と第2聯の頭は「鬱蒼」を崩したものなので、蒼蒼より先に鬱鬱を持ってきた方が素直ですが、ここは敢えて逆。



※ 「玄蘊」は造語です。「玄」「蘊」ともに道家の好む字で、合わせると「奥深い気があつまったもの」ぐらいの意味に読めるでしょうか。そういえば仏教にも「五蘊」という語がありますね。ともかく、字書を引いてもたぶんこの語は出てきません。


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