4 自由詩
ガラスの海に指を浸すと九年分の記憶にぬくめられた漣がちいさくそよいだ。
眸の波紋が応じて揺れた。
それは同じ根に発したものかも知れず、
とは夜をわたる梟たちの見立てだったが、
千載の仇敵たるかれらの声などもとより聴く耳もたぬ。
月は今宵も凍って欠片を森に降らせる。
おなじ毒を浴びてあの子は泣いていたのだと、
いまさらながらに悔いて戻らぬ月夜を想う。
眸の波紋はいまだおさまらず、
ガラスは月の寒気に触れ生命をうしなった。
最初は定型詩だけでいいと思っていたのです。自由詩なら、散文を書いた方が話がはやいじゃないかって。
ところがそれは考え違いでした。書いてみると、散文とはまったく違うおもしろさがある。
なにがいいって、思いついたまま書きっぱなしでいい。
いやいや、こちとら魂を削るぐらいの覚悟で詩を錬っとるんじゃあっ、て方もきっといる。それはそうだと思うのです。私だって推敲はしてるし、むしろ推敲こそが詩作のおもしろさかもしれない、って思うことも。
雑念なく、より言葉そのものに向き合える、という方が近いかな。
物語はどうしても、筋を前にすすめなきゃ、と思ってしまうので。
整合性だとか、論理的だとか、世界の構造だとか。そんなものを、詩だと忘れていられるのです。
散文を縛るものたちから自由でいられるのが詩なんだなと思いました。
そして、その自由を散文のなかに持ちこめたらいいなと思ったのでした。
※ 千載とは千年、則ち永久ほどにも永い時、のことです。
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