1章第11話 異世界猟兵と冒険者試験
「──とりあえず、ではありますが、ディゼル様の強さはわかりました。いえ、正直信じがたいという思いが、いまだぬぐえぬのですが、ディゼル様は我が冒険者ギルド期待の新人となることも事実。であるならば、ディゼル様には今すぐにでも試験を受けていただきたい」
「試験、ですか……?」
どうやら冒険者になるためにはなにかしらの試験を受けなければならないらしい。
「はい。といっても、そこまで難しい試験ではありません。試験官──この場合は私ですね。その前で実際の戦闘能力を見せてほしいのです」
「はあ。まあ、それはかまいませんけど……」
それだけでいいのか、という思いが表情に出たのだろう。
アイウィック氏はにっこりと笑いそんな俺へとこう告げてきた。
「ご安心ください。冒険者というのは基本腕っぷしが必要となる職業です。まあもちろん〝星持ち〟の上位冒険者となるにはそこから人柄や実績なども必要となりますが、下級の、それも新人であれば、最低限レベル7以上の魔物を倒せればそれで十分なのです」
「なる、ほど……?」
冒険者ギルドの職員であるアイウィック氏がそういうのならば、そうなのだろうと、とりあえず俺が納得を浮かべていた時、横合いから凛とした声が響いた。
「アイウィックさん。ミコトには魔物討伐系の限定解除試験を受けさせてはどうでしょう?」
唐突にそう告げたディアだが、アイウィック氏はそのような言葉にも驚いた様子はなく、むしろ委細承知している、というように頷く。
「もちろん、そのつもりです。現在は我が冒険者ギルドも人手不足ですからね。ディゼル様ほどのお強さを持つ方ならば限定解除試験を受けるのは当然かと」
「は、はあ……?」
なにやら氏とディアの間で話がまとまったらしく、そのまま席を立ちあがったアイウィック氏が「試験場に案内します」というので俺も立ち上がってその背についていく。
同時に俺は、やはりというかついてくるらしいディアへ、質問を向けていた。
「なあ、ディア。さっきからこの冒険者ギルドは人手不足だなんだって、言ってたけど、それってどういう意味なんだ?」
「……そのままの意味ですよ。現在この王都リブプール冒険者ギルドは深刻な人手不足に悩まされているのです」
「……? いったいなぜそんなことに……?」
「詳しい事情は私もわかりませんが、なんでも遠方で災害級の魔物が発生したとかで〝黄の勇者様〟が〝勇者軍〟を召集しまして、それに王都ギルドの上級冒険者が派遣されたとか」
……黄の勇者に勇者軍、それと上級冒険者。
また、知らない単語が出たが、それを俺が問いかけるよりも目的地に付く方が早かった。
「こちらが、試験場ともなる当ギルドの訓練場です」
言ってアイウィック氏が手を差し伸ばした先。
そこには円形をした室内運動場のような場所が広がっており、訓練場と言うだけあって、そこではいまも、せい! やあ! という威勢のいい叫び声をあげて冒険者達が木製の模造剣を打ち合わせたり、走ったりしている姿が見える。
「──すみません! ただいまより臨時の冒険者試験を行うため、訓練場を空けてくださいませんでしょうか!」
そんな冒険者達へと振り向き声を張り上げたアイウィック氏に訓練していた冒険者達は、ちらりと振り向いて、そして俺達の姿を認めると、なにか面白そうなものが始まったといわんばかりにそそくさと訓練場の外周部へ。
外周部にはすり鉢状になった立見席のようなものがあり、訓練を中断した冒険者達は試験をでばがめする気満々の表情で柵により区切られたそこを飛び越えていく。
そんな冒険者達にやや苦笑気味な表情を浮かべたアイウィック氏。
「それでは試験の準備をしてきますので、ディゼル様もご準備のほどをお願いします」
こちらへと振り向いて、アイウィック氏はそれだけ告げると訓練場の奥へと消えていく。
俺はそんな氏の背中を見送りながら、やはり隣にたたずんでいるディアを見やって、
「なあ。試験の準備ってなにをすればいいんだ?」
「あなたの場合は、ただいつでも戦えるよう構えていれば十分ですよ」
端的にそう告げてきたディアは、そのまま他の冒険者達と同じように立見席のほうへと向かってしまい、そんな彼女を俺が見送るのとアイウィック氏が帰ってくるのは同時だった。
「お待たせしました。それではミコト・ディゼル冒険者候補生による冒険者採用試験を行います。試験形式は魔物討伐系限定解除。ディゼル候補生に行ってもらうのは当ギルドが用意した魔物の討伐。合否はその立ち回り及び戦闘の結果でもって判断するものとします」
そう高らかに宣言するアイウィック氏に、ディアを除く周囲の冒険者からどよめきが走る。
「おいおい、あんな、なよっちいガキが魔物討伐系の限定解除試験を受けるのかよ?」
「俺だってまだ、そこまでは至ってないのに? いくら王都ギルドが人手不足だからってさすがに無茶があるだろ」
「いや、でもわからないわよ。あの子、なかなかたたずまいがしっかりしているし、意外とやるんじゃないかしら?」
なにやら大事になっているらしい、周囲の様子を俺が見やっていると、訓練場の奥。
そこにあるやたらと仰々しい鉄の扉が金切り音を立てて開く。
そうして出てきたのは、複数人の職員が押す巨大な鉄の檻だ。
「ディゼル候補生によって討伐していただくのは、ギルドが捕獲した【
「ほう──」
スッ、と俺は目を細めた。
あの〝緑の人〟こと【
相も変わらず汚い鳴き声で【ぎゃっぎゃっ】と叫んでいるが、どうやら冒険者ギルドは、あれを討伐しろ、と言っているらしい。
それに猟兵としての習性で、よし、やるか、と俺が気合いを入れた──まさにその時。
「おいおい、無茶だろ! 【
外周で立ち見している冒険者の一人がそんな叫び声をあげる。
俺を侮ってそのようなことを言った──というよりも本気で無茶だ、と思っているような悲鳴混じりの声に周囲の冒険者達も同意するように頷いて、
「やめさせろ、試験官! さすがに若者を殺すのは間違ってる!」
「そうだ、そうだ! いくら人手不足だからって無茶振りにもほどがあるぞ⁉」
どうやら周囲の人間は本気の善意でそう言ってくれているらしくて、俺としてはなんとも対応に困る反応だ。
「──おだまりなさい」
だが、そんな彼らをディアがたった一言で黙らせる。
決して、声を張り上げたわけでもないのに、彼女の凛とした声音は非難の叫びをあげていた冒険者達を一瞬にして黙らせ、そうしてディアは押し黙った冒険者を睥睨して一言。
「ギルドが定めた試験に当事者でもないあなた達が口を挟むなど言語道断です。ここは試験の場。いまはおとなしく見ているのが一端の冒険者としての礼儀では?」
「でもなあ……」
ディアの言葉に、それでもなお言い募ろうとした冒険者をしかしディアは一睨みで黙らせて、彼女の眼差しに気圧されてしまったその冒険者あえなく舌打ちを漏らした。
「知らねえぞ、あのガキが死んでも!」
負け惜しみじみたその一言を最後に、冒険者達は誰一人としてなにも言わなくなる。
それを見やって苦笑を浮かべるアイウィック氏。
「さて。いまの反応をご覧になったように、少し難易度の高い討伐となりますが、お覚悟はよろしいですか?」
「お覚悟? いや、別にそういうのはいらないんで、さっさとそこの害獣を放ってください」
俺の言葉が意外だったのかアイウィック氏は鼻白んだような表情をした。
いまの俺はすでに猟兵としての精神に移行している。
駆除をさせるなら早くしてくれ、と無言で促す俺に、氏は神妙な表情で頷き、自身も立見席にむかってそして氏が合図を出すとおもむろに檻の封が解かれた。
【ぎゃ──】
解放された喜びに【
──面倒くさいので、さっさと接近してとりあえず一匹ぶっ飛ばした。
轟音。
それと同時に宙を舞うのは俺がぶん殴った【
檻から一歩出ると同時に【情報強化】で増強された脚力任せに一瞬で肉薄した俺が、接近と同時に放った拳により【
そのまま砲弾じみた勢いで上空へと吹っ飛んでいき──そして天井に激突してその生命活動を停止させた。
頭上にて霧散する黒い靄。
しかし俺はそれを見やることもなく目の前で固まる残り四体の【
【ぎゃ……?】
いや、どうやら彼らはいま目の前でなにが起こったのかわかっていないらしい。
首をかしげて、なんか仲間が消えたぞ? とでも言いたげな【
裏拳。
無造作と言えるその動作で殴りつけられた【
だが、それもある一点を超えると木の枝でも折れたような感触と共に一切消える。
どうやら首の骨が折れたらしい。
ただの一撃で絶命した【
【───】
今度の今度こそ、仲間が目の前で死に絶える姿を見たからか、残り三匹の【
【ぎゃ──‼】
【ぎゃぎゃ──!】
【ぎゃっ、ぎゃっぎゃ──!】
ほとんど狂ったような勢いで、踵を返し走り出す【
背後に走っても、そこにはいままで自分達を閉じ込めていた檻しかないと忘れている。
ガンッ、と音を立ててその禿げ上がった額から、檻の鉄柵に激突する【
さらにその向こうにある訓練場の出口へと必死に走ろうとして、なおも全身を鉄柵に打ち付け続ける【
代わりに淡々とした動作で片腕を上げ、その指を拳銃の形にして魔力を熾す。
「バン」
適当な合図とともに術式を三連で発動。
【雷撃】が走り、それが三つとも残り三体の【
爆散する【
体に突っ込まれた【電撃】の膨大な熱量により体内で生じた熱膨張に耐えらず、【
粉みじんとなって、その後に黒い靄ともいえない欠片と化した【
「な、んだ、あれ……?」
そこには、しかし絶句したまま固まる冒険者達がいた。
ディアですらも顔を引きつらせ、アイウィック氏に至っては唖然としたまま立ち尽くしていたので、俺は頭を掻きながら氏へと振り返り、えーと、と呟く。
「あの【
俺が告げると、ようやく我に返ったらしい氏が頭を振りながら、いやはや、と言って。
「……お見事です。なるほど、これがレベル……」
最後の言葉は口の中だけで呟かれて、シンッと静まり返った訓練場の中でも響き渡らなかったが、その代わりざわざわとした空気が周囲を覆った。
「おい、見たかいまの……?」
「見た。見たけど、なにが起こったのかわからなかった……」
「えっと【
ざわざわ、ざわざわ、と周囲で驚きの声があがり、ようやっと遅れて俺が【
信じがたい、でも現実として起こったことも否定しがたい。
そんな相反する感情に飲まれていた彼らは。
だが、
「──インチキだ! いまのは、絶対インチキだ‼」
そんな、叫び声が訓練場に響き渡る。
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