第2話 田原道地の訪問
目が覚めると、鉄筋コンクリートで作られたアパートの一室だった。体を起こすと、付けっぱなしの冷房に冷やされた毛布が腰までずり落ちる。いつの間にか寝ていたらしい。こめかみの汗が、冷たく頬まで伸びた。
今し方夢で見た何年も前の記憶を思い返して、あれほど不快な夢も見るもんだと我ながら感心してしまう。丁度そのとき、枕元に置いておいたスマートフォンのアラームが鳴った。今日は水曜日、時刻は九時を指していた。
札幌の僕の部屋はワンルームではあるが、大学時代に暮らしていた寮の部屋とは比べものにならない程自由なスペースがある。便利なスーパーや外食店、コンビニとは絶妙に重心になるような立地だからか、街中に近い割には安い値段で借りることが出来た。
シャワーで寝汗を流した後は、机の上のディスプレイを眺めて回る。四つの小さなディスプレイと一つの大きな――メインで使用している――ディスプレイはそれぞれが別個のデスクトップPCに接続されていて、さらに各PCからは沢山のルーター、IoTカメラ、タブレットなどのむき出しになった基板へケーブルが伸びている。画面上の解析状況には特に異常が見られない。
これらのPCを夜中から朝までフル稼働させると、室温は排熱によって夏場の昼くらいになってしまうのだ。だから、僕の部屋では冬を除く春夏秋で常に冷房を効かせている。
しかし、今日は随分と肌寒い。
カーテンを開いてみると、大粒の雨がマンション前の道路にぶつかっているのが見えた。七月も近づいて夏真っ盛りの筈なのだが、ここのところ続いている雨とくもりによって気温がぐっと下がっている。
インスタントのコーヒーを飲みながら雨の降る路上を眺めていると、タクシーが一台、マンションの前に停まった。中から、大きな紙袋を提げたスーツ姿の大柄な男が出てきて、右手で雨よけを作りながら真っ直ぐこちらを見上げる。そして、小走りでマンションのエントランスに入っていった。
そこで思い出した。今日は幼馴染の田原道地君が尋ねにくる約束があるんだった。
慌てて身支度をしていると、扉を叩く音が聞こえた。
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