第11話

呪い返しグッズを作った日以来、おれの前から黒い人影はいなくなり、平穏な日々が戻ってきた。


家族のまわりでも何も変な事は起こらないし、蛇も出てこない。


あれは一体何だったのだろう。


アサヒいわく「呪い返しが効いたんだ」と言って自慢げにしていたが、果たして本当なのだろうか。もしそれが本当なら、呪いなんか何のきっかけで誰からもらうかわからないし、かけられた本人にもその自覚はない。

呪いを返すための方法だって焼き塩を一回作っただけ。


あんな簡単なもので、何だかあっけない。

これまでのことは、何だか長いようで短い夢のようだ。


もうすぐ夏休みで、いつの間にか母親が勝手に申し込んだ夏期講習がはじまる。


夏休みは遊びつくす予定だったのに…とアサヒにこぼすと、彼も一応高校のことは心配らしく「おれも行く」と言って一緒に通うことになった。


今回のことで、アサヒは自分の不思議な話を少し教えてくれた。

霊のことは見えるし神様や妖怪のことなんかも知っているらしいが、除霊もできないし黒い影に襲われても手の打ちようがないと言っていた。


「なんだそれ、てんで役に立たねえじゃん」

「うーん、だから言うの嫌だったんだ…。知ってるっていうだけで、どうにかできるんだろうと思われると困るし」

「なんだ、あんまりおれと変わんねえのな」

「そうだよ」

「…そういえば、黒い影ってなんなの?」

「わかんない。おれ、黒い影の存在は知ってるし、何かを求めて人間を襲いに来るのも知ってる。でも何が欲しいとか、狙われる人間の特徴とかはわからない。あ、でも今回のお前のことで、もしかしたら呪いに関係するのかもとは思ったんだ。呪い返ししたら、お前のところに来なくなったみたいだから」


こいつおれのこと実験台にしたのか…という思いがよぎったが黙っていた。


「じゃあ、お前もこの間のやつ試してみればいいじゃん」

「試したよ。試したけど、変わらなかった。呪いの種類が違うのかな」

「…やっぱり効かないんじゃね?」


よくわからないが、やはり呪いとか霊とかっていうのは、おれの理解の範疇を超えてるなと思う。


だが、おれの理解よりもはるかに想像を超えた出来事がこれから起こるのを、当時おれはおろかアサヒも、そしてこれから巻き込まれていく数多くの人たちもまだ知る由もなかった。

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