4 理亜

 もともとほぼ無症状だった上に微熱も引いたので、もう一度PCR検査をした。結果陰性で、家族ももう一度受けて陰性だった。パンデミックが終わったわけでもないのに、抗体ができたからいいよねとか言って家族でショッピングに出かけた。

 その晩に、美亜が一緒に寝ようと言いだした。お姉ちゃんから言い出したのは何年ぶりかわからないくらいだったので、「おばけが怖くなった?」と茶化すと「妹が可愛くなったー」と言って抱きつかれた。なんだかわけわからないけれど、久しぶりに楽しい日だった。

 「ねえ」

 布団を敷いている美亜が、一瞬手を止める。理亜は口の中の歯磨き粉を落としそうになり、少し慌てた。

「かかって初日さ、夕飯食べなかったじゃん。あの時の私、怖かった?」

 いきなりの質問の意味を測りかねて、理亜が少し口ごもる。

「あー、うーん、えーとね、ちょっと態度が冷たくて、びっくりしたかな」

「泣いた?」

 理亜ははにかんで、美亜に抱きつく。

「泣いたよー」

「ごめんねー」

「いいよー」

 窓の外は、少し涼しい時期になってきた。昼間のセミに代わって、涼し気な虫の音がさあさあと聞こえる。窓の外は暗くて、蛍光灯に照らされた白い布団のシーツは明るかった。濃い茶色の木のドアは、二人を部屋の中にピッタリと閉じ込めている。

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ドア一枚隔てて 雨乃よるる @yrrurainy

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