慟哭

「どういうこと?僕が大学受験するまでは安心、って面談の時にも言ってたじゃないか」

「高校生になれば僕だってアルバイトできるし、そうすれば少しは・・・」

ドン!と芳子はテーブルに拳を落とした。

「・・・入学金とね、高校三年間くらいの学費経費を合わせたぐらいの分を、定期預金にしておいたの」

「それが、そっくり無くなったのよ」

無くなった? そっくり? と、瞬時に一真の記憶に閃いた光景があった。

「あ、父さん・・・?」

芳子が真っ赤な目をして一真の方を見上げながら話し始めた。

「あたしが失敗してたの、定期預金の口座名義を、あなたの、一真の名前で入れておいたから」

「あなたはまだ未成年なんで、お父さんが住民票一枚持っていくだけで…そう、実の親子ですと証明ができれば、解約や引き出しもできるのよ」

「カズの進学用途だ、って分かってたはずなのに・・・あの人は・・・」

芳子は髪をぐしゃりと掴みながら俯いたが、ふっと一真の方に向き直った。

「カズ、あなた先週父さんに会ったの?」

「・・・うん、チラッとだけどね」

言いながら、あの日か、あの時に、家に戻って「それ」をやらかした後だったのか・・・と思うとさすがに怒りが込み上げてくる。


「あの人と何か話した?」

「いや、どこでもいいから高校へ行け、って言ってたけど、どういうことなの?」


「カズ、公立の、都立校の工業ならなんとかする、学校の先生にもちゃんと話すから・・・」

芳子が懇願するような眼で言う。

「ここのマンションのローンと、お父さんの作った負債と、すり合わせなきゃやってけないのよ・・・せめて都立校だったら」

「・・・・・・」

一真はさっきまで思い描いていた「高校生活」の、様々な場面がコラージュされたような絵が一気に崩れていくような感覚に包まれていた。

そこへ、芳子がポロリとこぼしてしまう

「それに、どこにも進学しないんじゃ世間体もあるし」

これが耳に入った途端、一真は自らが慄くような大声で怒鳴っていた。

「もうやめてくれよ! いいかげんにして!」


言われることが分かっていたのか 芳子はさらに身を縮こませてしまう。


一真はもうそんな母を見ているのが耐えられなくなり、居間から出て、そのまま玄関から飛び出すように外に出た。

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