合否発表(結末)

市立第三中学の職員室では田原教諭と学年主任の二人に加え、教頭までも加わって

「どうするんだ、都立校はもう願書締め切っているだろう?」

「都立の工業なら(定員)割れてるだろうし、二次募集が・・・」

「いやでも矢沢くんはもっと偏差値が良いんですから」これは田原。


「休め」の姿勢で立ったままの一真はというと、

(俺の希望は全く尋ねようともしないんだなぁ)と、少々他人事のように「白けて」いた。

とにかく、私立校二つとも、そしていわば「滑り止め」だった最後の工大附属校まで不合格というのはどうやら誰も想定できていなかったようで、教師連中はかなり焦っている様子である。

そんな喧騒の中、ちょっと離れた席の方から声がした。

「田原先生、電話ですよ」

つかつか歩いていって受話器を取った田原が大きな声で「はい?なんですって?」

思わず皆、そして一真もつい視線を合わせて田原の方を見ると、田原が受け答えをしつつ一真の方に向けて「ちょっと待て」というように手のひらを向けている。

「かしこまりました、では、ご連絡をお待ちしております、お電話どうもありがとうございました」

早口で答え、その割にはゆっくりと受話器を戻し、大きく息を吐き出した田原が大股で一真の方に戻ってきた。

真剣な顔つきで一真に向かい「矢沢くん、工大附属校の方、補欠合格順位一位、だそうよ」

えっ、と思わず声が出た。後に見にいった、近い方の高校だ。

「おおおおお!」「いやぁ良かった、補欠一位ならまず入学できるだろう」

教頭も学年主任も心底安心した、という風で肩を叩き合って喜んでいる。

「教頭先生の言う通りよ、あそこなら必ず合格辞退者が毎年10人は出るから、補欠で受かっていれば、繰り上がり入学でまず間違いなく、よ。」

田原も少々怒らせていた肩をフッとおろし「良かったわね」と、きちんと一真の眼を見て言ってきた。

「はぁ、なんか先生に言われてやっと実感出来ました」

少し笑いながら田原が周りの教師にも

「補欠一位、っていわば当確ギリギリのボーダーライン、てことですよねぇ」と問い、

「我が校のエースも舐められたもんだな。矢沢、手応えは良かったんだろう?」と学年主任も軽口を叩く余裕ができたようだ。

「ええ、まぁ、でもちょっと 思い切りは足りなかったかもしれませんけど・・・」

教頭も「これでとにかく、一件落着、で良いんだろう?矢沢くん、よく頑張ったよ、おめでとうな」

「あ・・・はい、ありがとうございます」

と、学年主任が「そうだ、すぐ親御さんに連絡してあげないと」と田原に向き直って口を尖らせたが、田原が戸惑いつつ一真の方を見て(どうする?)と目で聞いてきた。

「先生、母の会社の方にもう一度電話するのもなんなので、今夜、僕が直接母に説明します」

「いいのか、直ぐじゃなくて・・?」

「はい、さっき電話した時もあっさりしてたんで、きっと仕事が忙しいんだと思います」

「年度末ですしねぇ、商社さんも」と田原がフォローをしてくれる。

そうか、じゃそれで。と学年主任も自分も忙しいんだったと言わんばかりにバタバタと席に戻るようだった。


これで決まったか、と一真も少しホッとした気分になった。

ただ、電話した時に本当に素っ気なく返答だけした母の芳子の様子が、ちょっと引っかかっていた。

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