録音

一真が自室に戻る前に、達也はその辺りに散らばっていたものをかき集めてバッグに詰め込み、「じゃあ、待ってるからな」とだけ言って大股でサッサッと居間から出ていった。

自室に入った一真は、左手に提げっぱなしだったレコード・バッグを机の上に置き、レコード棚からダブル・ファンタジーを抜き出し、ステレオのアンプの電源を入れ、ターンテーブル、カセットデッキの順に電源ボタンを押して、達也から受け取ったカセットテープのパッケージを丁寧に開けた。

(ドルビーは、オフでいいんだったな、父さんは)

盤をセットし、カセットの頭出しもやり、レベルチェックをしようとして「そういえば、最後に録音したのもこの盤だったか」と思い出してそのままスタートさせ、一曲目のイントロが聞こえた所で


ふと、モニタースイッチをオフにしてしまった。


(何故だろう、聴きたくない、というか、何かアタマが拒否してるんだよな)

ゆったり回っている盤をしばらく見つめていたが、どうせ動作音でA面終わりなどわかるのだ、と思い勉強机の上のレコード・バッグから購入したばかりのレコード、「UFO/Strangers in the night」を取り出してみた。

「居間のステレオで聴くのもなぁ」と呟いてとりあえずシュリンクのパッケージに爪を当ててスーっとさばき、見開きになっている派手なジャケットを開いてみた。

輸入盤なので解説や歌詞など一切入っていない。

1979年、というのはすぐに分かったので、本棚の音楽誌を順に開いて「新譜情報」のページを繰ってみた。

と、いきなり、1月号に新譜紹介が載っていた。しかも、結構大きな扱いである。

(知ってる曲は、なんだったか)もう一度ジャケットをひっくり返し、曲名を見てみる。

「Only you can rock me」「Too hot to handle」この二曲はFMからエアチェックしたもので聴いたと分かった。

雑誌の解説には「非業ひごうの天才ギタリスト」という見出しが踊っている。

え、死んでるんだっけ?という嫌な予感が頭をかすめたが、解説を読み進むと「バンド不仲による脱退劇」などと書かれており、なるほど居なくなってからレコードがリリースされる、というよくあるお話か、と納得した所で ターンテーブルアームが動いてホームポジションに戻った音がした。

達也が持ってきたテープは60分テープだったので結構残りが余っていたが、一真はすぐに停止させてカセットを取り出し、巻き戻し、頭出しを再度行ってセットし直してから、LP盤を裏返してセットしてすぐにまた録音を開始した。

なんとなく「Woman」だけは脳内で再生されたが、やっぱり何故か、今はジョンの声を耳や身体が受け付けてくれないような気持ちがゆっくりとわきあがり、一真はUFOのライブ盤を手に持ちながら、ターンテーブル上で回るジョンのダブル・ファンタジーを見つめ、何かソワソワしている自分にも気づいていた。

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