レコードを買った帰り道はいつもそうだ。

急ぎ足で大股で歩き、エレベーターではなくマンションの階段を一段飛ばしで駆け上がって、鍵を開けて急いでスニーカーを蹴っ飛ばして・・・ 

っと、

「!」

玄関にくたびれた黒い革靴が「ドスン」という感じで脱ぎ捨ててあって、一真は固まった。


父の達也が帰っているのだ。

玄関の物音が気になったのか、居間のドアが開いて達也が 玄関に向けてヌッと顔を見せた。

「なんだ、お前か」「そろそろ受験の本番じゃないのか? 第一志望の国立の試験はいつだ?」

「もうとっくに終わってますよ、今日発表で見事に 不合格でした」

一真はつとめて冷静に、淡々と喋った。


仏頂面で後頭部を掻きながら居間に戻っていった達也は短くため息をつき、

「そうか、まぁ試験なんて水ものだからな、仕方ないな」

(俺と同じこと言うのかよ!)と一真はつい笑いそうになったが堪えた。


「それで、もう気が緩んで そんなもん買ってきたのか?」

一真は(しまった)と左手に持っていたレコード袋をだらりと下げた。


それより一真には父に聞きたい事があった。

それを思い出し、改めてソファに座る達也を見つめ直して(結構痩せたみたいだな・・・)と感じたところで、無精髭の残る達也が内ポケットからセブンスターを取り出すのが見えた。

「やめなよ、匂いで母さんにバレるよ」

うっ、と固まって達也はタバコの箱をテーブルに投げた。

今、かな、と思い一真は口を開いた。

「父さん、ジョンが う、撃たれてさ、亡くなったの 知って…」

と、遮るように達也が太い声を出した。

「知ってるさ! まだ40だったんだぞ、まだまだ歌えたし、曲作りだって出来たんだ!」

一真は自分がやんわりと思っていた事を、はっきり大きな声で言葉にする達也にびっくりした。


「知ってたんだね、まぁ、そりゃそうか、大ニュースだったもんね」

「カズ、あのな」

「えっ?」

「オレはな、見てるんだ」

「見たって、何を?」

「ジョンだよ、というか 言ってなかったが、オレは武道館でビートルズを見てるんだ」

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