合否発表(1)

「・・・やっぱりダメだったか」

一真は第一志望、国立高校の合否発表を確認して、溜息をつく。

(一番最初にここが発表なのは、ちょっと酷いよなぁ)と首を傾げつつ、次の私学の二校の発表はいつだったかな?と考えていた。

「私立校は力試しの確認受験」と割り切っていたものの、二つとも全力で受験できたか、というと実はそうでもない。

どちらの試験の時も頭の隅に「何か」が引っかかってボンヤリすることが何度もあったし、どうやら少し風邪気味だったこともあり、手応え充分というのには程遠かった。

第一志望は一真の成績を持ってしても、学年主任教諭からは「五分五分だな!」と斬られていたので落ちても納得だったが、私立工業高校の二校は「どっちかに引っかかって欲しい」のが教師達、一真本人、双方の希望でもある。


中学に戻ると、ちょうど昼休みの時間で、職員室に入ったら田原陽子がガタン!と音を立てて立ち上がった。

「!どうだった?矢沢くん・・・?」

「はい、ダメでした。倍率も一番高い科を選んじゃったし」

「ハァ~、そっかぁ。受かったら我が校の快挙でもあったんだけどなぁ~」

ギシィ、と音を立てて田原は事務椅子に落ちた。

「そんなこと言ったって、試験は水ものですから。でも、回答冊子貰いましたけど、数学は満点取れてたんですけどね・・・」

「試験時間120分の試験ね、まぁ、それだけでも快挙かな」

「私立の二校は週明けの発表だそうです、同じ日なんですよね」

「矢沢くん、普通科高校は受けなかったんだものね、よくまぁ割り切ったもんよ」

くだけた感じで話してくれる田原に合わせ、一真も少し明るい声を張って

「先生は数字ダメですもんね、物理とか電子工学とか~」

「あああ~やめてやめて!聞くだけで頭がクラクラするから!」

こうやって軽くふざけてくれる田原が正直、有り難かった。


「今日は午後はこのまま帰っていいからね」

「え、そうなんですか?」

「うん、今日が試験の生徒も多いしね」

そして小声になった田原が(お母さんには?連絡した?)

「ええ、駅から会社に電話しました。もともと五分五分、って言ってあったし」

頷いた田原は

「じゃあ、明日は普通に登校してね、一年生の英語のロールプレイングの準備でも手伝ってもらおうかな?」

「はい、それは喜んで引き受けますよ」


不合格の「揺れ」から少し気が楽になり、学校を後にした一真だったが、まっすぐ家に帰る気にもなれず、ついつい駅ビルのレコード店にとって返してレコード棚をストストと掘り返していた。

無心に「輸入盤新入荷セール」を順に眺めていったが、ふと手が止まったのは「妙に分厚い?」と感じたからか。

(二枚組?)しかし派手なジャケットだなぁ、ライブ盤?「Strangers in the Night」がタイトルか。「UFO」って、ラジオから録音したのが何曲かあったなぁ)

「へぇ、新品二枚組なのにセールで1500円か・・・」

どうしよう、と一真はもう一枚選び出していたビリー・ジョエルの「ストレンジャー」900円と並べて少し考えた。

二枚組のライブ盤をいきなり買うのは結構冒険である。

「ストレンジャー」はやはりFMから録音した2,3曲があるだけで、前から欲しかったLPでもあった。

「ジャケット買い」という言葉はまだそれほど浸透していなかったが、一真はけっこう「それはアリ」と常々思っていたし、何度か「当たり」を引いた実績もある、正月に思ったよりも臨時収入があったことだし。

「よし、こっちだな」

黒っぽいジャケットのビリー・ジョエルは棚にストン、と戻され、一真は「派手な色合いの二枚組」を掴んでレジへと向かった。

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