第023話 前日
期末試験は月曜からであり、最後の追い込みとなっていた。
今日は金曜であり、今日、そして、土日に最後の仕上げをする予定だ。
俺はこのままいけば、おそらく前回の中間テストよりも良い点を取れると思う。
それほどまでに頑張ってきた。
そして、今日は図書委員の仕事中も勉強し、図書館が閉まった後もみゆきちと共にファミレスで勉強をしている。
これは前回の中間テストでもやっていたことだ。
しかし、一つだけ違う点がある。
それはみゆきちは隣ではなく、正面に座っていることである。
そして、筆談ノートもカバンにしまっている。
「テストはいけそう?」
みゆきちが話しかけてくる。
「多分、結構いけると思う。あとは凡ミスとかを気を付けないとなー……」
なお、俺の声は非常に小さい。
「凡ミスはわかるなー。ちゃんと見直さないとだよ」
前回の中間テストもだったが、思ったより点数は良かったものの、凡ミスが目立っていた。
それを防げれば、もっと点数は上がると思う。
「だねー……」
見直しって、結構負担だけど、やった方がいいのは確かだ。
どうしてもテストは気力を使うから見直しをやる気がめっちゃ落ちるけど、それで点数が上がるのならやるべきだろう。
「来週がテストでその次が返却期間。それが終わったら夏休みだねー。小鳥遊君はどこかに行く予定とかあるの?」
「うーん、盆に田舎のじいちゃん、ばあちゃん家に行くくらいかなー……部活もないし、後は遊んでると思う……」
友達と遊び、家でゲームをする。
そして、みゆきちとデートする。(予定)
「へー。私も実家には帰るかなー。後は部活かー。まあ、好きでやってるんだけど」
みゆきちも特別用事があるというわけではなさそうだ。
「みゆきちさー……テスト終わったら一緒に遊びに行かない……?」
今日の最大の目的はこの誘いだったりする。
「いいよー。またテストお疲れ会だねー。どこ行く?」
みゆきちは俺の誘いに悩みもせずに承諾した。
「隣町にさー……アミューズメント施設があるじゃん……あそこに行こうよ……」
「あー、あるねー……うん、いいねー。ずっと座ってばっかだったし、軽く運動も出来るしねー。行こう、行こう!」
みゆきちは乗り気のようだ。
みゆきちはどちらかというと、大人しい方だが、バスケ部であり、体育会系なので食いつくと(妹が)予想した。
「うん……テスト頑張って、遊ぼうよ……」
「だねー。よーし! やるぞー!」
みゆきちは嬉しそうに勉強を再開した。
これだけ喜んでくれると嬉しいものだ。
俺も楽しみだなーという思いと、決めないとなーという緊張感の同時に襲われたが、まずは勉強だと思い、テスト勉強を再開した。
そして、8時を過ぎたあたりでお開きになり、みゆきちを家まで送っていった後、歩いて家に帰った。
俺は家に帰ると、勉強を再開し、土日もまた勉強をし続けた。
去年までの俺とはかけ離れた勉強量である。
俺はそれほどに頑張っていた。
というか、勉強をしていないと、テストお疲れ会という名のデートのことを考えてしまい、緊張してくるからだ。
俺はこのデートで勝負をかける。
どう考えても、夏休みまでがタイムリミットだと思う。
夏休みを超えてしまうと、多分、さらに期間が延びてしまうと思うのだ。
そうなれば、俺らだって忙しくなってくるし、下手をすると、進路というか、受験が見えてくる時期にまでなってしまう。
可能性は低いと信じているが、この夏休みにみゆきちに悪い虫が付く可能性だってある。
俺は次のデートで告白をする。
それもちゃんとみゆきちの目を見て、口頭で伝える。
そのためにみゆきち本人に協力してもらったし、告白の練習を妹相手にもした。
たどたどしくなるかもしれない。
どもるかもしれない。
声が小さいかもしれない。
それでもちゃんと伝えようと思う。
もし、フラれても、妹やアリア、田中さんに慰めてもらおう。
フラれる恐怖より、このままの関係性でい続ける方が怖い。
それくらいに俺はみゆきちの事が好きだった。
この想いはあの時からけっして変わらない。
◆◇◆
土日が明け、期末試験が始まった。
今回も俺は一夜漬けはしない。
ここまできたらあとは最後の確認だけだ。
俺は凡ミスを減らすために問題の見直しも行い、テストを順調に終えていった。
そして、テストも無事に終わり、金曜日となった。
俺はみゆきちと図書委員の仕事をしながら筆談をしていた。
さすがに図書委員の仕事中はあまり私語をするのも良くないし、筆談だ。
俺達はこの筆談で明日のデートの予定を詰めていっている。
【小鳥遊君さ、アミューズメント施設ってことはあまり携帯を構えないけど大丈夫なの?】
まあ、そこを気にするよね。
でも、俺はだからこそアミューズメント施設を選んだのだ。
【基本的にしゃべるつもり。聞こえにくいかもしれないけど、その時はごめん】
【おー! 頑張るねー。わかった。ちゃんと聞くから任しておいて!】
みゆきちは優しいなー。
もっとも、俺が携帯を使わずにしゃべるのはラストのための準備運動のつもりだけどね。
【じゃあ、明日は10時くらいに迎えに行くから】
【うん。わかったー】
俺はみゆきちの家に迎えに行くことにしていた。
だって、待ち合わせにすると、この人、何時に来るかわからないんだもん。
人の事は言えないんだけどね。
俺達はその後も明日の事を話しながら図書委員の仕事を終えた。
そして、いつものように片づけを行い、鍵を職員室に返し、バスに乗った。
バスではしゃべりによる会話を行っていると、バスが俺が降りる予定のバス停に到着した。
俺は立ち上がり、数歩、前に出た後に振り返り、みゆきちを見る。
みゆきちは座ったまま、顔を上げ、ニコニコと笑っている。
本当に笑顔がかわいい子だと思う。
「じゃあ、また明日ね。良い日になるといいねー」
俺は珍しく、いつものように普通にしゃべれた気がした。
「絶対に良い日になるよ。楽しみにしてる。今日は寝れるかなー」
「早めに寝ようよ。俺もそうする」
「だねー。じゃあ、また明日。待ってるからね」
俺が明日、告白すると決めているからか、みゆきちの『待っているからね』がそういう意味に聞こえる。
実際は迎えにくるのを待ってるからね、だろうが、今の俺にはそうとしか聞こえなかった。
「うん。明日ね」
俺はみゆきちに手を振り、別れた。
そして、そのまま家に帰ると、まっすぐ、母親がいるキッチンに行く。
「おかーさーん! お金ー!」
俺は母親にデート代をせびる。
「ん? あー、明日、ミユキちゃんと出かけるんだっけ?」
母親は晩御飯を作りながら聞いてくる。
「そそ。隣町にさー。アミューズメント施設があるじゃん。あそこに行く。そんでもって、コクってくるー!」
「…………あー、あったね。というか、告白するの?」
「テストが終わった解放感と夏休み前のドキドキ感を利用するー」
吊り橋効果じゃないが、似たようなもんだろう。
「あんた達はバカのくせに、そういうところがあるわよね…………誰に似たのかしら?」
よくそれを言われるけど、黒いのはほぼヒカリちゃんだと思うんだけどなー。
「夏休み前に付き合いたいんだよー。夏休みに入ると、会えなくなるかもしれないじゃん」
「うーん…………その辺はよくわからないけど、学生らしいお付き合いをしなさいよー」
「オッケーをもらったらねー」
「…………あんた、フラれたらどうすんの?」
母親が手を止め、神妙な顔で聞いてくる。
「そんなのわかんない。告白する前からフラれることなんか考えないよ」
有名なプロレスラーも似たようなことを言ってた!
「そう…………思いつめちゃダメよ」
こいつ、フラれると思ってんな。
「大丈夫だから。上手くいくから」
「ごめんね。もうちょっとかっこいい子に生んであげればよかったんだけど。お父さんとお母さんだからその程度になっちゃった」
誰がその程度じゃい!
「男は中身さ、フッ」
「それが一番、ごめんね」
ひっで。
まあ、中身がよろしくないのは俺もわかってるけどね。
「謝んなや。その謝罪の気持ちはデート代にしてくれ。言ってた通り、多分、平均80点近くはある思う」
今回の期末テストは前回の中間テストよりも遥かに手ごたえがあった。
謙遜して80点近くって言っているが、余裕で平均80点は超えていると思う。
こう言っておくと、テストの点を見た時に親の財布のひもが緩むのだ。
そして、夏休みのデート代をもらう寸法である。
「本当に頑張ったのねー。ちょっと待ちなさい」
母親は料理中の火を止め、リビングに向かう。
俺はその後ろをついていった。
「はい」
母親は俺に5000円札をくれる。
「わーい」
「ハァ……ヒカリも好きな人が出来たら勉強を頑張るのかしら?」
母親はもう一人の不出来な子供を心配しているようだ。
「あいつはしないと思う。好きな人が出来たらもっとしなくなると思う」
「やっぱそう思う?」
「そらね」
「ハァ…………」
母親がため息をつきながらキッチンに戻っていったので、俺は5000円札を握りしめ、自室に戻っていった。
そして、明日のデートと告白のシミュレーションを開始した。
明日は頑張るぞー!
えいえいおー!
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