第024話 待ち合わせは1時間前集合がデフォ


 俺はちゅんちゅんと鳴くスズメの声で目が覚めた。

 そして、時計を見る。


 時刻は朝の6時だった。

 目覚ましは7時にセットしてあるが、それより前に起きてしまった。


 俺が土曜にこんなに早く起きる事はまずないが、今日はしょうがない。

 今日は特別な日になるのだから。


 俺はベッドから起きると、1階に降り、シャワーを浴びる。

 そして、朝ご飯を食べると、自室に戻り、前日に決めておいた服に着替えた。


 時刻はまだ8時前だが、出発の準備を終えてしまった。


 こうなってしまうと、居ても立っても居られなくなる。

 自室に一人でいると、心臓の高鳴りがやばいし、余計なことを考えてしまうのだ。


 告白は今度でいいんじゃないか?

 夏休み期間中でもいいし、夏休み明けでもいい。

 もう少し関係性を深め、秋のセンチメンタルの時期に告白した方が成功率が上がるんじゃないか?


 ダメだ……部屋にいると、くだらないことを考えてしまう。

 多少、早いが、出るか……

 みゆきち家の近所をブラブラしていれば、そのうち時間になるだろう。


 俺は出かけることにし、携帯と財布を持ち、自室を出る。

 そして、リビングにいる両親に出かけることを伝え、家を出た。


 家を出ると、外は快晴であり、まだ8時だというのにかなり暑い。


 外でなく、施設の中でのデートを提案したのはよかったかもしれない。

 もう7月だし、かなり暑い。

 みゆきちは女子だから日に焼けるのも嫌だろうし、これは熱中症も気を付けないといけない。

 今後はちょっと考えないといけないな。


 俺は太陽を見て、うんうんと頷きながらもバス停に向けて歩き出した。


 バス停に到着すると、ちょうどバスが来ていたので乗り込む。

 バスの中は冷房が効いており、かなり快適だった。


 そのままバスに乗っていると、すぐにみゆきち家最寄りのバス停に到着した。

 俺はバスを降り、これからどうしようかと悩む。


 家にいられないから来たけど、まだ8時半にもなっていない。

 約束の時間が10時なことを考えると、まだ1時間30分もある。

 正直、この暑さの中、そんな時間も外にはいられない。


 俺はコンビニで時間をつぶそうと思い、近くのコンビニに向かう。

 コンビニはみゆきちの家があるマンションの前を通る必要があるため、みゆきちの家の方に向かって歩いていった。

 そして、みゆきちのマンションの前を通ると、みゆきちのお母さんがマンションの前で知らないおばさんと話しているのが見えた。


「おはよーございまーす」


 俺はそんな2人に挨拶をする。


「あ、はい。おはようございます」

「おはよー…………って、え? 小鳥遊君!?」


 知らないおばさんは普通に挨拶を返したが、みゆきちのお母さんはびっくりしたようだ。


「でーす。朝から暑いですねー」

「そうだねー…………って、何でいるの!? 10時からじゃなかったっけ!?」

「遅刻しないようにですねー。あ、コンビニで時間をつぶしてきますんで、10時にミユキさんを迎えにいきまーす」


 俺はみゆきちのお母さんにそう告げて、頭を下げると、コンビニに行こうとする。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


 お母さんが俺の肩を掴んだ。


「はい?」

「ちょっとここで待ってなさい」


 みゆきちのお母さんは俺を止めると、慌ててマンションに入っていった。


「どうしたんですかね?」


 俺は知らないおばさんに聞いてみる。


「10時に春野さんのところのミユキちゃんと待ち合わせてるの?」

「ですねー。出かけるんですよー」

「早くない?」

「6時に起きたんですよー。待ちきれなくて家を出たのでコンビニで立ち読みでもしようかと…………」


 俺がそう言うと、おばさんは満面の笑顔になる。


「わかるわー! 私も昔はそうだったわー! 1時間前に着いたら雨で最悪だった記憶があるわ」

「あらら。それはついてないですねー」

「ホントよー。それでその日の初デートは失敗。でも、結局、その人と結婚したんだからわからないものよねー」


 旦那の話だったのか……


「良かったじゃないですかー。雨降って地が固まったんですよー」

「あら、あなた、良いこと言うわねー」


 俺とおばさんが会話をしていると、携帯が鳴った。

 俺はおばさんにすみませんと謝り、携帯を見る。


【おはー。来るの早いよー(笑) 家で待ってていいから上がってー】


 みゆきちからであり、家で待っててもいいそうだ。


「家で待つことになりましたー。行ってきます」

「あらそう? 頑張りなさいよ。おばさんがそうであったように失敗しても上手くいくときは上手くいくものだから。ダメなのは失敗を恐れて行動しないことよ」

「あざーす! 肝に免じておきます!」


 俺はおばさんにとてもためになるアドバイスを頂き、マンションに入った。

 そして、エレベーターに乗り、みゆきち家の部屋の前まで来ると、インターホンを押す。


『どうぞー』


 中からみゆきちのお母さんの声が聞こえたので、ドアを開ける。


「お邪魔しまーす!」


 俺が玄関に入ると、みゆきちのお母さんが立っていた。


「ごめんなさいね。ミユキはまだ準備をしているの」

「いえ! 僕が1時間半前に来たのが悪いので!」

「まあ、中で待ってて」

「はーい」


 俺はみゆきちのお母さんの案内でリビングに通された。

 そして、みゆきちのお母さんがコーヒーを飲みながらみゆきちを待つ。


「あのー、お父さんは? ご挨拶を……」


 俺は礼儀を重んじるのだ。


「主人は仕事でいないわ」


 そうか……

 土曜なのに大変だなー。


「ですかー……しゃーないっすね」

「ミユキの父親に会うのが嫌じゃないの?」


 俺がしょうがないかーと思っていると、お母さんが聞いてくる。


「なんでです?」


 挨拶するだけじゃん。


「いや、いいならいいんだけど……」

「コーヒー、美味しいですねー」

「小鳥遊君って、マイペースだね」


 よく言われますねー。

 人の話を聞かないっていうのは言わないでー。


「お待たせー!」


 俺がコーヒーを飲んでいると、みゆきちが準備を終えたらしく、リビングにやってきた。


「おはよー……」


 いつもようにみゆきちのお母さんには普通だけど、みゆきちの前だと声が小さくなる俺であった。

 とはいえ、どもったり、キョドったりすることは本当に少なくなった。

 本人を使った訓練のおかげだろう。


「うん、おはよー。小鳥遊君、早いよー。どうせ早く来るんだろうなーって思ってたけど、早すぎ」


 みゆきちが笑いながら俺が座っているテーブルの対面に座る。


「ごめん。コンビニで待ってようかと思っててねー」

「1時間半もコンビニで待てる?」

「まあ、適当にぶらつくつもりだった」

「ふーん……まあ、この前は私も待ち合わせ場所にちょっと早く来たし、気持ちはわかるよー」


 ちょっと?

 1時間前に来た俺よりも早く来てたじゃん。

 まあ、ツッコむのは野暮だからスルーするけど。


「楽しみだったから6時に起きたしねー」

「おー! 奇遇! 私も6時!」


 一緒だねー。


「テスト終わったし、遊べるしね」

「そうそう! どうする? まだ9時だけど行く?」


 うーん、ここにいてに仕方がないし、準備が出来たのなら早めに行くかなー。

 この前の映画も結局、1時間前には出発したし……


「もう出れるの?」

「うん。大丈夫だよー」

「じゃあ、行こうかー」

「はーい。お母さん、出てくるねー」


 みゆきちが立ち上がったので、俺も残っているコーヒーを飲み干し、立ち上がった。


「いってらっしゃーい。気を付けてねー」

「はーい」


 俺は手を挙げて答えた。


「絶対に小鳥遊君が答えると思ったよ…………」


 みゆきちが俺の行動を読み始めている!?




 ◆◇◆




 みゆきちの家を出た俺達はバス停まで歩いていき、バス停でしばらく待っていると、バスが来たので乗り込んだ。


「ふえー……外は暑いねー」


 席に着いたみゆきちがかわいい声で息をついた。


「ホントだよねー」

「部活やだなー」


 夏の運動部はねー。

 暑いもん。


「汗で…………昔、夏休みの部活終わりにプールに忍び込んで怒られたなー…………三島が」

「ツッコミどころが多いよ……」


 俺は怒られていない。

 何故なら俺はプールに入る前に更衣室で別の友達とふざけていたからだ。

 なお、プールに誘ったのはキャプテンの俺!


「懐かしい思い出だよ」

「ちなみに汗で……は?」

「え? き、聞く?」


 聞かない方がいいよー……


「いや、やっぱ、この前聞いたからいいや」


 今度は汗で濡れた髪がいいねだったのになー。

 まあ、一緒か……


 俺とみゆきちは筆談や携帯のメッセージアプリを使用せずに口頭で話をしながら隣町にあるアミューズメント施設を目指した。


 しかし、みゆきちと隣同士で座ってるけど、みゆきち、めっちゃいい匂いがするんだけど!


 俺がみゆきちのいい匂いに動揺しながらもそのまま、バスに揺られること30分。

 俺達が乗ったバスはアミューズメント施設近くに到着した。


 俺とみゆきちはバスを降り、アミューズメント施設に歩いて向かう。

 そして、少し歩くと、大きな建物が見えてきた。


「大きいねー」

「だねー。初めて来たわ」

「私もー」


 俺達はそのままアミューズメント施設に入ると、施設内を見て回り、遊び始めた。

 ここはゲーセン、スポーツ施設、カラオケなどの多種多様な遊べるものがあるため、2人であれやこれやと話しながら楽しむ。


 ゲーセンでみゆきちに頼まれ、ぬいぐるみを取り、スポーツ施設で軽い運動をしていった。

 そして、昼になったのでフードコートで昼食を取り始めた。


「久しぶりに体を動かすと楽しいねー。あー、部活したくなった」


 みゆきちがバス内とは真逆な事を言っている。


「どっちだよー……さっきと意見が変わっているし」

「体を動かし始めると、なんかしたくなるしねー」


 まあ、わからないでもないなー。


「午後からどうする? また体を動かす?」

「うーん、ちょっと休憩したいなー。カラオケでも行こうよー」


 そういえば、女子とカラオケに行ったことないなー。

 昔、田中さんとヒトカラに行ったことはあるけど……

 一緒に行って、別々の部屋に入るという高等プレイだ。

 まあ、あれはあれで楽しかった。


「いいよー。行ってみよー」


 俺達は昼食を取り終えると、カラオケに向かった。

 それにしても、ぬいぐるみを取るのを後にすればよかったな。

 ぬいぐるみを持って歩くみゆきちもかわいいけどさ。

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