訪問

 東が言うにオリビアに魔法のようなモノを使われて絞められたというのを小車から聞いたらしい。東はそんなオカルトを根っこから信じない人物だから、オリビアに言ったそうだ。

『オリビア様、魔法を持ってるんでしょう? 社員に白状すればどうですか。このまま言われっぱなしは嫌でしょう』

 サンライズジェネレーション社長のオリビアの父はアンドロイドだということは分かっていても、魔法を使えるというのは根っこから信じていない。というよりは、まずまず知らない。


「このまま、どうすればいいの。パパに打ち明けるのは怖いし、だからって、このまま社員にバカにされっぱなしも嫌だし・・・・・」

 オリビアは苦悩していた。

 婚約者として、この危機を見過ごせるものではないだろう。

「あ、そうだ」

 その時、リアンはアイデアを思い付いた。


「みなさん、初めまして。次期社長の夫、リアン・L・バーンズです。父が英国人、母が日本人のハーフです。僕も力いっぱい支えるので、オリビアをみなさんよろしくお願いします。後ほど、各部長様にはご挨拶に伺おうと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします」

 リアンは淡々と挨拶を終えた。


 そう、今日は年に三度あるかないかの社員みんなで行う朝会である。

 仕事始め、仕事納めと、もう一回あるかないか。

 という朝会で、オリビアの婚約者として挨拶をした。

 オリビアは次期社長なのだから、リアンもしっかりやっていかないといけない。

 そして、これから主要な部長に挨拶に行くのだが、その時を狙って小車、そして東に話を付けてやるつもりなのだ。


「こんにちは、社長・・・・・えっと、社長夫人の反対ってなんでしょう? とりあえず、私は商品開発本部長、小車俊志おぐるまとしゆきでございます。以下、お見知りおきをよろしくお願いいたします」

 小車は表向きは敬意を表しているが、裏では黒い感情を秘めているように見える。

「ええ、こんにちは。私はオリビアの夫、リアン・L・バーンズです。コチラこそよろしくお願いします」

 同じくリアンも、警戒心を持っている。

 それからは、部の紹介やちょっとした歓迎を受けて、商品開発本部を出る。

 が、その前に一つだけ言うことがあった。

「オリビアをこれ以上いじめたら、制裁がありますからね」

 小声で小車にささやくと、彼の反応も水に部屋を出た。


 そこから、人事部、法務部、総務部、営業第一部、営業第二部を見に行って、次は経理部、つまり東千馬あずませんまがいるところへ向かう。

 ガチャッ

 ドアを開けると、そこは経理部の部室だった。

「おや、こんにちはリアン様。経理部部長の東千馬でございます。以下、お見知りおきを」

 立っていたのは、黒縁の四角形のメガネをかけたスラっとした人物。目先が鋭く、リアンに対して何かの敵対心を持っているのがすぐに分かった。

「これは、こんにちは。リアンです。これからどうぞよろしくお願いします」

 それに返しに、リアンも相手を睨みつける。


 それから、少し部の仕組みを話すと、東は行動を起こしてきた。


「社長にしっかり話しましたか?」

 早速、東が小声で話しかけてきた。

「話しているわけがない」

 リアンも小声で答える。

「なぜ話さないのですか。面白いことじゃあないですか。サンライズジェネレーションが色々おかしくなって。はぁ、俺がオリビア様の夫だったら上手く行ったのでしょうけど」

 何、東がオリビアの夫?

 そうだったら、オリビアは毎日泣いて過ごすことになるんじゃないのか。

 そういうと、東はクスッと笑った。

「まあ、そうかもしれませんが。ただ、俺もある程度なら使えますからね。似た者同士ですよ。ほら」

 東がリアンの鼻にこつんと指を触れた瞬間、僕は動けなくなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る