魔法

 ドタドタと床を踏み鳴らす足音を、リアンとオリビアは追った。

「出てきなさい!」

 その時、オリビアが何かを出した。

 竹ぼうきだ。

「とりゃー!」

 なにかを叩いた・・・・・のかと思ったが、そうではない。

 竹ぼうきからビームのようなモノが飛び出したのだ。

「ぐあぁぁぁ?!」

 どっかから、男性の声がする。

「てやー!」

 男性の声の方にオリビアがほうきを向ける。今度はビームが出なかったが?


「・・・・・体が・・・・・なんなんだ、こいつ・・・・・!」

 小太りのおじさんがオリビアに拘束されているが。

 そして、なんなんだって聞きたいのは僕たちの方だから。分かってる?

「あれ、あなたもしや・・・・・」

 オリビアが言った。

 この人、僕らが知っている人物なのだろうか。リアンは考え込む。

 うーむ、頭の中にこんな人物のデータはない。

「あんた、サンライズジェネレーションの開発部部長の・・・・・何だっけ」

「忘れないでください、オリビア様。私はサンライズジェネレーション商品開発部本部長・小車俊志おぐるまとしゆきですよ」

「ああ、そうか。伯父さんね。久しぶり」

「久しぶり、じゃねえんだ。とっとと教えろ」

 どういうことだろう。何かあったのだろうか。


「えっとね、リアン。この伯父さんはサンライズジェネレーション商品開発部本部長なの。つまり、サンライズジェネレーションの離乳食やら抱っこ紐やらおしゃぶりやら色んな商品を開発する部のトップなわけ。特許のこととかを管理するところね。伯父さんは私のお母さんのお兄さんっていう関係なの。だから、苗字は違うけど、親戚」

「ふんふん・・・・・でも、お前のお母さんはカナダ人じゃなかったのか?」

「えっとね、色々複雑だったんだけど、元々お母さんも伯父さんもカナダに住んでいる日系人で、伯父さんは日本人のお嫁さんと結婚してから、日本に来たの」

 ふんふん・・・・・なるほど・・・・・難しいな、この家。


「ところで・・・・・体が動かないのだが」

 あっちに行こうとしても、こっちに来ている。

 確かに、何か見えないものに固定されているように見える。

「ところで、オリビア。何か秘密があるって話してたな? アンドロイド? 魔法? 何を言ってたか教えるんだな」

「ええ? そんなわけないじゃない。社長の娘がそんなんだったら会社おわりでしょう。パパはそんなことしない」

「いや、この小僧に言ってただろう。アンドロイドで魔法使いとかどうとか・・・・・。聞こえていた。さっさと白状しろ! 俺は次期社長の候補の一人だ。社長になるために、これぐらい知っておかないとなぁ。さっさと・・・・・」

 そこまで言った時に、小車は口を閉ざした。いや、閉ざされたと言われた方が正しい。


 ―—わかったわ、白状するわよ。私は魔法が使える。


 恐ろしい彼女の声が聞こえると、リアンは震えた。

「社内で絶対に広めないこと。そして、次期社長を諦めること。いいね。守らなかったらどうなるか、分かってますね?」

「ヴーヴーヴヴッヴヴヴ、ヴヴヴー!」

 ええっと、うーうー、わかったから、はなせー!

 って。

「この様子だったら、社内にまき散らしそうね。それじゃあ、一つ魔法をかけておきましょうか。ね、リアン」

 これは、どうしようもない。

 こんなこと、同意できるはずがない。

 ベチン!

 オリビアは竹ぼうきで小車を叩く。すると、彼は静かになった。

「解放してあげるわ」

 小車は、何も言えずにしょぼしょぼと出て行った。

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