五月十一日 夕刻(1)

 『今晩、6時15分に集合、場所は学校正門前』

 無機質な文字列がスマートフォンの画面に浮かび上がる。一度別れて登山・・の支度をしてから再集合ということになった。陽も沈まぬ内にとは言っていたが難しそうだ。心配になった俺はタンスを漁って懐中電灯を見つける。顔が戻ればどうなるのか……、そんな考えが頭の中でぐるぐる回る。戻って欲しいとは言うが、それは俺が千聖に押し付けるエゴなのだろうか。悩みが湧いて出てしまう。

 『俺は本当に被害者なのか?』

 厭な妄想が脳にびたっとこべりつく。加害妄想なんて言葉は知らない。そんなことをするやつは優しくも何ともない、ただの相手の罪に気づかない馬鹿な被害者だ。

 『千聖を追い込んだのは俺の存在』

 そんなおごりが胸を締め付ける。格好いいだとか、端正だとか、言われてもなんとも響かなかったからか。響けば、何か良い返事が心なくも言えたなら千聖のような存在の誕生を回避することが出来たのか。

 そんな思案はどんなにしても俺の傲りに立ち還るしかない、意味のないものだった。


 洲上たちとの約束を守り、学校の正門に6時15分に到着した。菩薩顔の少女と喪服のようにも見えるメイド姿に身を包んでいながらも、貴女の気質の溢れる、人の顔をしたクラスメイトが待ち構えていた。

「エリちゃんはそれで登るの?」

「丘みたいな山よ、なんとかなるでしょう」

 洲上は千聖の疑問を子どもからの問いかけの如く軽くあしらった。洲上の言うことはあながち間違ってはいない。俺たちがこれから登る十文字山は高さ500メートルにも満たない山だ。丘と言うには難しいが、軽い服装でも難なく登れる。が、メイド服で登るというのは前代未聞な気がする。長いスカート丈を両手でくいっと引き上げて、そそくさと洲上は登り始めてしまった。俺たちも彼女の背中を追って歩き始めた。

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