五月十日 昼刻
なんて居心地よい日常なのだろう。◼一つなくなるだけで、世界がこんなにも軽くなるだなんて。どうして人はこんな重荷を背負っていたのだろう。私は楽しくて、今にもこの菩薩姿の私を映す窓を開けて飛び出したい気分になっていた。
朝起きた瞬間に気がついた。◼がないって。直感的に体の異変に気がつくことはよくあるだろう。私の場合ひどい寝癖の日はもう鏡を見る前からでドライヤーが頭に浮かんでいる。そして頭が重く感じているのだ。それと同じように、私は体が軽くなっているのに気がついたのだ。
イタチ様、なんて素敵な神様だろう。エリちゃんに早く会いたい。会って話してあげたい。イタチ様はいたんだよって。願いも叶えてくれたんだよって。
私は自分がどうしようもない人間であると自覚している。夢を見ていることも解っている。しかし現実になって……その光景は私の目の前に映っている。イタチ様が伸ばしてくれたのはまやかしの手なんかじゃない。救いの手に違いないと思えたのだ。
昼休みになった。菩薩ママが作ってくれたお弁当。こう、気分が上がっていると何でも美味しく感じる。この世界の暮らしの不便なところは服装に気を付けなければならないこと。それだけなのだ。お部屋のクローゼットを開けた時、びっくりするぐらい面白い服に溢れていた時は我を忘れて大爆笑してしまった。菩薩和馬のあの冷ややかな視線は少し痛かったが、クローゼットが急に正装まみれになっていたら誰でも笑うだろう。
私はドレスで学校に来た。スタイルに自信があるわけでもないので特段挑戦的ではないエンパイアのドレス。軽く羽織るものを上に着ている。
この世界ではどんな服を着たって構わないのだ。むしろ個性を追求するべきなのだ。この世界では基本的に服装でしか人は判別できない。ピンクのフリフリは〇〇ちゃん、ゴスロリは△△ちゃん。そんな程度の識別が人を分かつ。不便だろうが、この世界の人はそれで上手くやっている。私もいずれ慣れるだろう。
◼は私達から自由を奪っていた。
さあ、エリちゃんを探そう。きっと今日も学校の隅にひっそりと待ってくれているでしょう。
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