第十二章 ~ 川の水 ~
洞穴の中での初めての蝋燭の修行は、思っていたよりも集中出来ていた。
もっと、不安感でソワソワするのかと想像していたが。
とても気持ちがいい。
時々、遠くで風の通る音が聞こえる。
その音が聞こえると、しばらく間を置いて、その大広間の中の空気が少し動いた。
いつの間にか、提灯の中の蝋燭が着えそうな程に小さくなっていた。
キウは、風呂敷の中から替えの蝋燭をだして、提灯の蓋を開けて中の蝋燭の火を、新しい蝋燭に移した。
小さくなった蝋燭の火を消して、ランタンから取り出して、真新しく火のついた蝋燭を提灯に入れた。
キウは、今、提灯から出した蝋燭を左手に持ち、右手に提灯を持って川に向かって歩き出した。
燃え残りの蝋燭は、川に流さなければならない。
おじいさんに、自分が生きて、提灯の火を守っていることを知らせなければならない。
キウは、川に降りる坂道の手前に提灯を置いて川に降りた。
清水川の水は想像していたよりも冷たく、流れが速い。
キウは、蝋燭を両手に水に浸けて、しばらく見つめた。
そして、おじいさんへの温かい気持ちを蝋燭に移して、川の流れに蝋燭を預けた。
しばらく、小さな坂道を上がって、提灯の火の明かりで何となく、ゆらゆらキラキラする川をしばらく見つめた。
キウは、何故、自分が怖くて正気を失わないのか分からなかった。
おじいさんから、言われるままに付いて来たのだが、考えてみれば、今、自分は、岩の中に閉じ込められている状態なのだ。
死に装束を着せられて送り出されたことから察するに、多分、出口は無い。
おまけに、食べ物は無い。
でも、石清水は飲んで良いと言っていた・・。
キウは、再び川に降りた。
お腹は空いてなかったが、川の水を両手ですくって飲んでみた。
「甘い・・。 」
なんだか不思議な感じのする水だ。
飲むと、一瞬で体中に染み渡る感じがする。
水は冷たいのに、何となく、手足の指先まで温かくなって来る。
何だか気持ちが良い。
「まさか、酒じゃないよな・・・。 」
キウは、つぶやいて一人笑いをした。
キウは、何となく、よたよたしながら、提灯を持って荷物の所に戻って来た。
敷布の上に、ドスッと座り込んで胡坐(あぐら)をかいた。
「すこぶる気持ち良い! 」
キウは、独り言を言うと、満足した。
風呂敷から修行用の蝋燭を取り出し、提灯の蝋燭から火を点けた。
その時、川の水が微かに水色に光り始めたことは、知る由も無かった。
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