第十章 ~ 蝋燭の火 ~

キウが再び目覚めたころには、日が少し陰りはじめていた。


「痛っ! 」


キウは、下っ腹の差し込むような痛みで目覚めた。


ごーきゅるるる・・・


キウは、雪隠(せっちん)に駆け込んだ。

腹の中の物が全不出て来たような気がした。

最後に、あのねっとりとした緑色の液体の、強烈な海の匂いが雪隠(せっちん)に充満して、腹の痛みが落ち着いた。


キウは、ゆっくりと雪隠(せっちん)から出て来た。


「もう少し休んでろ。 」


おじいさんが、出て来て言った。

キウは、寝床に入って休んだ。


「キウ、キウ! 」


おじいさんの呼び声に、キウは目を覚ました。


「時間じゃ。 」


『そうか。 今日から新しい修行だ。 』


キウは、そう思いながら、強烈な海の匂いものせいであろう怠さを振り切って起き上がった。


おじいさんは、風呂敷に山の様な量の蝋燭を包み、火のついた蝋燭を入れたガラスの提灯を持った。

キウは、おじいさんが用意してくれた、真っ白な服に着替えた。


「行くぞ。 」


おじいさんは、蝋燭と提灯を持って歩き、その後をキウが付いて行った。

川に出て、川沿いの道を行き、山の梺で草を分けて奥に入った。

そこには、うっそうとした木々の間を獣道が伸びていた。

山の梺の辺りは、キウが良く来た場所だった。

しかし、そこに、こんな道があったとは全く気が付かなかった。


しばらく歩いて行くと、大きな岩山の梺に突き当たった。

おじいさんは、岩に向かって呪文を唱えた。

すると、山の奥から。ゴーと低い音が聞こえた。

地が軽く揺れたと思ったら、岩にパかっと、丁度、1人、人が屈んで入れるくらいの穴が開いた。


おじいさんは、振り返って提灯を掲げながらキウの瞳を見た。


「これから、21日間の間、おまえはここぢ修行をする。 一旦、この岩ば閉じたら、何があってん、21日間、ここに穴が開くことは無い。 」


「食べ物は? どうするの? 」


「食べ物は、この奥に流れちおる石清水じゃ。 」


「! 」


「蝋燭が燃え尽きかけちから、次ん蝋燭に火ばつけるんじゃ。 何があってん、火ば絶やしたらならん。 燃えかすは石清水ん川に流せ。 それが、家の川に流れ着いち、お前が生きちおるんが分かる。 燃えかすん数を数えち、蝋燭が足りんようになったら、山から流しちやる。 」


「・・・。 」


「いいか! 火だけは絶やすなよ! 火が消えたら『魔』に食われるき。 燃えかすを流すんも忘れんなよ! 」


「はい! 」


キウは、自分が何故白い服に着替えさせられたか分かった。

婆ちゃんに昔、聞いたことがあった。


「・・・一番、過酷な訓練の時には、白い死に装束を着せられて修行に入った。 出て来ち、直ぐ葬式が出せるように。 それに、そん白装束は、灯りがあれば『魔』が入らんのじゃ・・・。 」


「婆ちゃん・・。 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る