第五章 ~ 火 ~
次の日、再び おじいさんに起こされた。
昨日は、一番短い蝋燭を凝視する訓練を、100回やった。
今日は、200回だ。
目と目の奥の芯が疲れる。
目を開けていると、時々勝手に視線がぶれる。
おじいさんが、火をともした大きな蝋燭と、200本の小さな蝋燭を持って来た。
部屋の真ん中に、キウが座ると、部屋の戸も雨戸も全て閉じた。
再び、耳を塞いだような静けさが訪れた。
キウは、大きな蝋燭の火に小さな蝋燭をかざして火をつけた。
ぷしゅ――――――! ばちっ!
大きな蝋燭の火から変な音がして、火花が散った。
キウは、少し驚いたが、気に留めない振りをした。
昨日と同じ様に蝋燭を見つめた・・・。
再び、冷たい風が左手の辺りにひらひら絡みつく・・。
そして、しばらくするとキウの後ろの方に移動して、カサカサと音を立てた。
キウは、音が聞こえない振りをした。
昨日より、その存在に慣れて来た気がする。
キウは、火に精神を集中させた。
火は、縦に伸びはじめた。
キウは、火が伸びているように見えるのは、目の錯覚だと思った。
しかし、火は、伸びて、伸びて今にも天井にまで届きそうになった。
目の錯覚と言うには、あまりにも伸び過ぎた。
『火が天井に届いて燃えてしまう・・・。 』
火は、天井に届いて、火の先の方が曲がってヒラヒラし始めた。
キウは、焦りを感じた。
再び、額を冷や汗が伝う。
『天井が燃えてしまう・・・。 』
ばん!
急に戸が開いて、おじいさんが入って来た。
「家を燃やす気か!? 」
「!? 」
「家を燃やす気かと聞いちおるんじゃ。 」
キウは、目をきょとんとさせながら、視線をおじいさんに移した。
キウには、訳が分からない。
おじいさんは、ため息をついた。
「お前は恐怖を火に転嫁しちおるんじゃ。 火は火じゃ。 火自体は何にもせん。 しかし、火は簡単に念の乗り物になるんじゃ。 」
キウには意味が分からない。
火を見ると、元に戻っていた。
「人は恐怖を生む。 そして、その恐怖は人を食っちしまう。 人ん中の恐怖は、『魔』よりも恐ろしいんじゃ。 」
キウには、よく分からなかったが何となく腑に落ちた。
おじいさんは、キウの瞳を覗いて、再び部屋を出て行った。
いつの間にか、部屋の隅の音は消えていた。
再び、火がふっと消えた。
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