第四章 ~ 蝋燭 ~

明け方、まだ外は真っ暗な時。


おじいさんは、蝋燭を持ってキウの寝床にやって来た。


「起きろ! 起きろ!!

今日から修業じゃ!

先ずは、毎朝三時から『蝋燭(ろうそく)の行』。

『蝋燭の行』とは、ただただ蠟燭の炎を見つめる、凝視する。

小さいのが 一本、燃え終わるまで瞬きをせんでも平気になるまで、これを続ける。

ただし、夕刻になったら直ぐに止める。『魔』が入って来るきね・・。 

夕方からは、今まで通りじゃ。 」


『燃える蝋燭をただ見つめる・・・。

それで、強くなれるのだろうか・・・。』


今のキウ、おじいさんを信じて言われることを全力でやるしかなかった。


おじいさんは、小さな蝋燭を一本、キウに渡した。


「これは、一番小さい蝋燭じゃ。 まず、これが一本燃え尽きるまで、じっと火を見ていられるようになること。 そして、目を開けていられるようになること。 」


そう言うと、おじいさんは、キウを部屋の真ん中にあぐら座りにさせた。

火をともした女竹の太さの蝋燭を、キウの前に置いた。

おじいさんは、部屋の明かりを消して、部屋を出て行った。


キウは、おじいさんからもらった小さな蝋燭の芯を、置いて行った方の蝋燭の火に近づけた。

蝋燭と一緒に渡された小さな白いお皿の上に、溶けた蝋を少し垂らしてその上に小さな蝋燭を固定した。


キウは、火をじっと見つめた。

火は不思議なもので、色々と形を変える。

膨らんだり、縦に長く伸びたり、たなびいたり。

いつの間にか、ハスミのこと、婆ちゃんのこと、戦って来た『魔』のこと・・・。


ふっと風が吹いた気がした。

その部屋は、雨戸を閉めて風が入る隙間が無い。

何か、冷たい物が左手の辺りでゆらゆらしている気がする。


ふっと、蝋燭の火が丸くなった。


『何かいる・・・。 』


キウは、火を見つめたまま、体中の感覚に集中した。

視線を日から動かしてはならない。


「これは何だ!? 」


おでこを冷や汗が伝う。

その、何かは、ふっとキウの後ろの方に移動した。

後ろの壁の方から、カサカサ音がする。


「ねずみ!? 」


また、音が急に消えた。

とたんに、しーんと耳をふさがれたような静けさが訪れた。


その時、ふっと一本目の蝋燭の火が消えた。

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