第一章 ~ 波旬 ~

・・・どれくらい走っただろう。

そこには、黒い門が開かれていた。

両脇の門柱は 形を変える。


キウは、両脇の門柱を見ながら中へ入って行った。


「!!! 」


そこには、門柱の外とはまるで違う世界が広がっていた。

そこは、吹雪の中の田舎道ではなかった。

地面も、空も、全てが黒変してしまった世界だった。


暑い・・・。

あちらこちらで、地面が ぷすぷすと湯気を吐いている。

その湯気の硫黄の匂いが鼻につく。


「キウ!! 」


一瞬、かすかに、ハスミの呼ぶ声が聞こえた気がした。

しかし、姿は見えない・・。


「ハスミ!!! 」


キウは、ハスミの名前叫んだ。

しかし、地面の音しか聞こえなかった。


「! 」


突然、キウは自分の腰の辺りから光を感じた。

視線と手をやると、腰の小刀の鞘(さや)の中から光が漏れていた。

キウは、ゆっくりと鞘から小刀を抜いた・・。


キウは、金色に輝く小刀を見るのは生まれて初めてだ。

余りの美しさに、一瞬 キウの時が止まった。


しかし、小刀が金色に輝くという事は、ここに存在するのは・・波(は)旬(じゅん)。

波旬が居るのだ。


波旬は、『魔』の中の『魔』。

『魔』の中でも一番の牙を持つ。

キウは、今までは波旬と戦ったことが無い。

出会った事すら無い。

しかし、感じている余地は、もっと無かった。


キウは、小刀を掲げた。


「あけれ・・。 」


小刀は、更に光を増し、辺りが金色に輝きだした。

薄黒い空と地が、溶け始めた。


その時、真っ暗な何かが、かすかに姿を現した。

赤黒い目だけぎょろぎょろしている。

形が分からない。

ドロドロしている。


そして、その何かからただならぬ妖気が放たれていた。

キウは、体がこわばるのを感じた。

その何かがニヤッと笑った気がした。


突然、心の底から湧いて来た恐怖がキウを襲った。

一瞬、キウは怯んだ。


我(われ)を立て直し、その何かにとびかかった。

そして、その真っ暗な存在に小刀を突き刺した。


「!? 手ごたえが無い!! 」


気が付いた時には、吹き飛ばされていた。

続いて、大きな爆発音の始まりを聞いた気がした。


「!」


飛ばされながら、木の陰に人の影を見た気がした。

しかし、キウの記憶は、そこで途絶えてしまった。

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