世界の正体について
世界の正体。私たちの生きるこの世界って結局何なのだろうか?
突拍子もなく、また途方もなく壮大なテーマであるが、たまーに妙に気になってしまうことがある。
かなり哲学的な話になってしまうが、今回はこれについて考えていきたいと思う。以下の3つのポイントで話していく。
①世界の広さについて
②世界の構造について
③世界の階層について
①世界の広さについて
かつて主流であった天動説では、世界は平面であり、端へ行くと奈落へ落っこちてしまうようなイメージが描かれていた。
現代人の標準的な認識はこうだ。
まず地球がある。丸く有限の星だ。地球を取り巻く太陽系があり、それは天の川銀河の一部であり、天の川銀河もさらに巨大銀河群の一部である。そうしたものが膨大な数、宇宙には含まれている。
世界の総体とは宇宙である、というのが現在では常識となっている。
宇宙はビッグバンによって始まった。137億年前のことらしいが、宇宙は光の速度よりもさらに速く広がっているようだ。計測可能な範囲だけでも1000億光年近くの広さがあり、その先どこまで広がっているのかもわからない。
1光年とは光が1年間に進む距離のことで、光はたった1秒で約30万キロも進む。これだけでもやばいのに、それが1000億年分以上ときたものだ。まったく途方もない話である。
有限の大きさなのか無限に広がっているのかも不明だが、とにかく宇宙というのは滅茶苦茶広いのだ。
そんな馬鹿でかい箱だから、よしこれが世界のすべてだ! と言ってしまいたいところなのだが……私はもう一段先があるのではないかと考えている。
実は私の作品群でも取り入れている概念だが、近年真面目に物理学の説として挙げられているものの一つに、多元宇宙(マルチユニバース)というものがある。
シンプルに、世界はたくさんの宇宙によって成り立っているという考え方だ。
なぜこうした説が出て来たのか、背景を説明しよう。
宇宙には4つの基本的な力があるとされている。
強い力、弱い力、電磁気力、そして重力だ。
このうち、斥力として働くものは電磁気力のみであり、残りはすべて引力として働く。
強い力と弱い力は素粒子レベルの短い距離でしか働かないので、マクロスケールでは、電磁気力と重力だけが問題となる。
実は4つの力で最も弱いのが重力であるが、質量のあるものは必ず重力をもっていて、しかもその有効射程は無限にある。
世界には莫大な質量を持つ星などがたくさんあるため、宇宙レベルの大きさで考えると重力が滅茶苦茶強い。
ということは、宇宙を支配するものは引力ということになる。すべての星も宇宙そのものも引き寄せられて、縮む方向に力は働いているのだ。
そうなると一つの疑問が生じる。
重力に打ち克って宇宙が広がっていく力とは、一体どうやって説明されるのだろうか。電磁気力では説明が付かないのだ。
単にビッグバンの爆発の勢いが、137億年もずっと続いているのだろうか? それとも4つの力以外の、第5の力があるのだろうか?
もちろん、そうだとする説もある。
しかし、ここで発想の転換をしてみる。
我々の暮らす宇宙の他にも別の宇宙がたくさんあり、それらによって外側から引っ張られているとしたら。だから宇宙は広がっているのだと、考えられはしないだろうか。
これが多元宇宙(マルチユニバース)説である。別の宇宙の存在を仮定すれば、光の速さをも超えるという宇宙の膨張を自然に説明することができるのだ。
当然の話であるが、物理学の予想や理論は、それが実験によって確かめられるまでは単なる仮説に過ぎない。我々のいる宇宙の広さすらわかっていないのに、外側の宇宙の証拠など何一つ見つかっていない。現状、多元宇宙(マルチユニバース)は妄想でしかないものではある。
だが、これは私個人の信仰でしかないけれど、私はやはり宇宙はたくさんあるのではないかと考えている。
だって、宇宙が一つしかないとすることの方が不自然ではないかと。
昔、天動説が主流だった頃、世界はこの空と海と大地だけであると決め付けていた。
結局は間違っていた。同じようなことが言えるのではないか。
どうして宇宙が一つしかないと言い切れるだろうか。その方が、よほど可能性として低いのではないかと思うのだ。
何より、宇宙がたくさんあると考えた方が夢がある。
別の宇宙では、まったく別の物理法則だとか、まったく別のルールが支配しているのかもしれない。まったく別の生命体や、生命をも超えた何かがいるのかもしれない。我々の地球とちょっとずつずれた、パラレルワールドのような宇宙もあるのかもしれない。魔法が使える宇宙があるのかもしれない。
人が想像できる程度のことはすべて、実際どこかで起きているという考え方がある。事実は小説よりも奇なりという言葉もある。
宇宙がたくさんあれば。そのどこかでは。
私の書いている小説や、誰かの書いている小説の舞台となるような宇宙があるのかもしれない。あなたの好きな作品の出来事が実際に起きている宇宙がどこかにあるかもしれない。
さらには、人間には想像も付かないようなことが起きているのかもしれない。きっとそうに違いない。
そう考えると、めっちゃわくわくするではないか。楽しいじゃないか。
ということで、私は多元宇宙(マルチユニバース)説、ものすごく信じているし、推しているのである。
宇宙はたくさんあるし、ありそうだ。世界は想像を遥かに超えて、あり得ないくらい広いのかもしれない。
②世界の構造について
途方もない世界の広さに想いを馳せたところで、次に世界の構造について考えてみよう。
私たちの身体や身の回りのすべてのものは原子からできており、さらに細かく見ると素粒子に分けることができる。
現在の物理学では素粒子が最小単位ということにはなっているが、私はこれも怪しいのではないかと思っている。
もっと科学は発展すれば、さらに細かい世界の素が見つかり、そういったことが繰り返されるのではないかという気がしているのだ。
ここで私は、マクロ方向に世界が無限に広がっているとすれば、ミクロ方向にも世界は無限に広がっているのではないか、という大胆な仮説を立ててみる。
再び、宇宙レベルの話に戻ろう。
天体望遠鏡から見ることができる宇宙の姿は、真っ暗な空間に、銀河系がまるで泡のように浮かんでいるものだ。もし見たことがない方は、一度画像検索でもかけてみるとよいだろう。
実はこの巨大な構造と似たような構造が、人体の中に現れる。
人間の脳の神経の繋がりが、まるでそっくりと言うのだ。
面白い話だと思う。
だから宇宙って実は神様の脳なんじゃないかとか、誰かの頭の中なんじゃないかとか言われることがある。
自然界には、自己相似性(部分が全体と相似な形を有している)を有しているものがたくさんあり、これをフラクタル構造という。
例を挙げると、木の枝の伸び方は、部分をとってきても全体とそっくりな形をしている。リアス式海岸というものは、細かい部分を取り出してもやはりリアス式海岸のようになっている。人間の神経回路もそのようになっている。
だとすれば――ここからはとんでもな仮説だが――宇宙の小さな部分を取り出してきても、そこにより小さな宇宙が収まっているのではないだろうか。
宇宙が神様の頭の中だと言うのなら、私の頭の中やあなたの頭の中に――たとえそうだと人間には知り得ないとしても――ミクロな宇宙が広がっていることを否定できないのではないか?
その中に見えない無数の星があって、生命が生きていたとしても、人間の脳という宇宙に比べればあまりにも小さくて、人間には決してわからないけれど、確かにそこにあるということはないだろうか?
さらに踏み込もう。原子の一つ一つ、さらに素粒子の一つ一つ、(あるとすれば)もっとどんなに細かくわけていっても。そこに宇宙が存在するのではないか。
これは本当に理論的根拠のない話であるし、多元宇宙(マルチユニバース)に比べても現実味がない。オカルトのような話だが、世界をどんどん細かく見ていっても、そこに新しい世界があって終わりがないのではないか、ということを真面目に考えてしまうのである。
至る部分に全体がある。あらゆるところに宇宙はある、のかもしれない。
③世界の階層について
ここまで、私は宇宙の広さとか構造とかを語ってきたが、あくまですべて現実のものとして話してきた。
実はそれすらもかなり疑わしい、と私は考えている。
ニック・ボストロムという哲学者の提唱した説を紹介しよう。
私たちの生きている世界は、本当は極めて高度なシミュレーテッドリアリティ(仮想現実)に過ぎないのではないか、というものである。
これをそのままシンプルに、シミュレーション仮説という。
概要を説明しよう。
極めて高度に発展した文明は、現実と区別が付かないほど高度なシミュレーション世界を構築できるかもしれない。
すると、シミュレーション内の個体は、自分がシミュレーションの存在であると気付かない。彼らは「実世界」と思い込んで、仮想世界で過ごすことになる。
ここで問題となるのは、そのようなシミュレーション世界の数なのだ。
①の宇宙の話と同じことである。仮想現実がたった一つしかないと考えることの方が不自然だ。
私たちが小説をたくさん刷り、ゲームをたくさん創るように、現実と区別が付かないほど高度なシミュレーション世界も――もしたった一つでも創り得たならば――用途に応じて無数に創り出されると考える方が自然なのだ。
もしくは、そのようなシミュレーション世界は、どんな文明にとっても絶対に創り得ないものかもしれない。
ニック・ボストロムは、以下の3つの可能性を考えた。
1.知的種族は、現実と区別がつかないほど高度なシミュレーションを開発できるほどの技術レベルには到達できない。
2.そのレベルに達した種族は、そのようなシミュレーションを(倫理的、もしくは様々な理由で)実行しようとしない。
3.我々は、ほぼ確実にそのようなシミュレーションの中で生きている。
1.や2.であれば、仮想世界は決して創られず、私たちは現実を生きていることになる。
だが恐ろしいことに、3.である可能性が非常に高いのだ。
なぜか。簡単なことだ。
私たちは、たった一つの現実の存在であることよりも、無数に創られたシミュレーション世界の一つの存在であることの方が、遥かに確率が高いからである。
逆説的だが、我々がいつか宇宙そのものをシミュレーションできるほど科学技術を発展させることに成功したならば、我々自身もまたより上位存在のシミュレーションの産物である可能性が極めて高いのである!
これがシミュレーション仮説であるが……あまり言われてないのだけど、私はこの仮説をもう一歩推し進めて考えてみたいと思う。
すなわち――『無限階層世界仮説』を提唱する。
仮にこの世界が誰かの創り上げたシミュレーションだったとしよう。では、この世界をその創った誰かは果たして現実の存在だろうか?
同じように考えることはできないだろうか。
つまり、その誰かは、さらに上位存在のシミュレーションである可能性が極めて高いのではないか。
この状況は、ちょっと考えてみればわかることだが、無限に同様に繰り返されることになる。
私たちの世界が仮想現実だとすれば、その上位世界もまた仮想現実であり、さらにその上位世界も仮想現実である。このようなことが、ほぼ確実に無限に繋がっていくのである。
図に表すと、以下のような状況となる。
……→仮想現実→仮想現実→仮想現実→……
この果てしない無限鎖、無限階層構造のどこかに、我々の生きる世界があると考えるのが自然だろう。
私たちの世界全体は、より上位世界のごく小さな一部に過ぎないのかもしれない。そしてその上位世界すら、さらなる上位世界の、例えばPC一台に収まっているかもしれないのだ。
こうして、シミュレーションという道具立てによって、世界そのものが自己相似性を持つ。
フラクタルチェインと呼ぶべき連鎖的階層世界構造が、形成される。
ここで繰り返すが、もちろん私たちには、今生きている世界がシミュレーションであることを知り得ない。そしてそれは、どの上位存在にとっても同じことである。
そう考えると、仮想現実ということすらおこがましい。各々の世界は、もはや現実と等価のものとして考えてしまってよいのではないか。
いっそ仮想であるという枕を取っ払ってしまって、この状況を改めて書き起こすと、
……→第n階層世界→第n+1階層世界→第n+2階層世界→……
①や②で議論したような、一つの世界の広さや構造だけではない。
世界の階層、その奥行きですら無限に広がっていると考えることができる。
もっと言えば、世界の階層は上図のように直列的ではない。一つの超高度文明世界があれば、そこにシミュレーションが無数に存在し得ることは述べた通りだ。下手すれば、もしも上位階層世界の個人個人がシミュレーション世界を気軽に創造できるほど発展しているとすれば、星の数ほど下位世界がある可能性があるのだ。
図で表すと、こうなる。
……→第n階層世界→第n+1階層α世界
→第n+1階層β世界
→第n+1階層γ世界
→……
さらに一つ一つの第n+1階層世界から、さらに無数の第n+2階層世界が伸びている。
この無数に枝分かれしながら伸びていく無限世界階層の、そのどこか片隅に私たちの宇宙はあるのではないだろうか。
……これが、私の考える『無限階層世界仮説』である。
ふと、こんな想像をする。
私たちは自分の人生を生きて死んでいくわけだが、死後はもしかしたら天国や地獄にも行かないかもしれない。
実は人生そのものが何かの壮大なアトラクションであって、人生が終わった後、一個上の階層世界で、係員さんに「お疲れ様でした。人生、楽しめましたでしょうか?」だなんて言われる可能性をまったく否定できないのである。
人生にまっとうして死んだその先が、新たな誰かの人生の始まりかもしれないのだ。それは生まれ変わりと言ってよいのだろうか。
あるいは悲観的に考えるなら、データの一個に過ぎない私たちは、死とともにデリートされて永遠の無に向かうのかもしれない。
私たちは何のために生きて、どこへ行くのだろうか。
果たしてここは現実なのだろうか。現実でないとしたら、今、どの階層の『どこにいる』のだろうか。
誰によって動かされ、生かされているのだろうか。
すべては他愛のない妄想かもしれない。ここまで聞いて、皆さんはどう思っただろうか。
世界って結局何なのだろう。考えれば考えるほどドツボに嵌って、本当にわからなくなってくるのである。
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