第4話 変化はいらない



 目覚ましが鳴る5分前に目が覚めた。いつもそうだ。私は目覚ましに起こされる事はあまりない。大抵はその前に目が覚めてしまう。心配性なのか、気が小さいのか良く分からない。


 就寝するのが早いのかと言われるとそうでもない。1時間半かけて帰宅する頃には午後6時を過ぎている。夕食はお父さんが帰って来るまで待って3人で一緒に取る。学校の話はなるべくしない。イジメられている訳じゃないけれど、孤立気味と言う事を知られるのは嫌だ。


 夕食後は課題と復習をする。テレビは見ない。部屋に無い。


 お風呂から出ると、とりあえずスマホを開く。LINEに通知が1つ来ている。いつものメール。


 高校から最寄り駅までの間にお母さんに、


『終わったよ。今から帰るね』に対する、

『気を付けてね』の返信だ。


 私のLINEはこのためだけにある。


 ひとみちゃんは携帯を持っていない。彼女との連絡はもっぱら家電だ。


 既読を付けて通知1のアイコンを消す。


 その後、ベッドに横になり、小説投稿サイトの気に入った小説を読む。3時間くらい読書をする。毎日毎日読む。

 休日も課題と復習を終えるとほとんどスマホで小説を読んでいる。1週間で50万文字くらいは軽く行く。

 それでもタダで読める。この量を書籍で買っていたら膨大な金額になろうものだけど、タダで読める。本当に有難い。

 それだけ読んでもサイトの小説は尽きない。どんどんどんどん更新される。毎日幾つもの小説が更新され尽きる事が無い。こんなにもタダで読ませて貰って作者様には感謝の気持ちしかない。




 ベッドから抜け出し、寝ている両親を起こさないように静かに階段を降りてキッチンへ向かう。朝食を食べる前にお弁当を作る。

 卵を焼き、ウインナーを炒め、冷凍食品のクリームコロッケをお弁当箱に詰める。卵焼きとウインナーは必ずおかずに入れる。残りの一品はストックしてある冷凍食品から一品日替わりで変えている。

 水筒に氷と麦茶を入れてお昼の準備は完了。その後、トーストを焼き朝食を食べる。


 歯を磨き、洗顔をし、髪を整え、制服に着替える頃お母さんが起きて来る。挨拶を交わしロクに会話もせず家を出る。


 意識して空を見てみた。思いやりの無い程薄暗い曇り空が小さな街を覆う。今にも降って来そうなのに隣の家のおばさんが花の植えてあるプランターに水をやっている。私に気付く事は無い。私も進んで声をかけない。

 ゴミ捨て場にカラスが群がっている。私がそばを通っても逃げる事は無い。「邪魔だ。はやくどっか行け」という目つきで睨んでくる。カラスにまで嫌われているようだ。


 最寄り駅まで歩いて5分。割と恵まれた立地に家はある。JRでターミナル駅まで行き、私鉄に乗り換えて高校の最寄り駅まで行く。高校まで駅から10分歩く。



 毎日同じ繰り返し。


 季節と天気くらいしか変化の無い毎日。


 同じルートを歩く。


 楽しそうに友達と登校する生徒達。


 肩身の狭い想いをしながら黙々と歩く。


 昇降口で靴を履きかえる。


 スニーカーを下駄箱へ入れ代わりに上履きを取り出す。


 上履きが無くなる事は無い。画鋲が入っていることも無い。


 そんなあからさまなイジメをする生徒はいない。


 4階まで重い身体をせっせと運ぶ。


 身を縮めて教室へ入る。


 いつものヒソヒソ話。


 明るい宮田君の挨拶。


 遮って来る清香ちゃん。去り際に睨まれる。


 肩を落として席に着く。机に落書きはされていない。


 時間ギリギリで登校してくるひとみちゃん。


 お昼休みはひとみちゃんと一緒にお弁当を食べる。あまり食欲は無い。だけれど、体重は減らない。


 6限目が終わり、与えられた持ち場の掃除をする。独りでする。楽しそうにおしゃべりしながら掃除をするクラスメイト達を尻目に一心不乱に掃除をする。


 帰りのHRが終わり校門を出る。


 今日も、ひとみちゃんとしか話さなかったな……と、物思いに耽る。


 お母さんに今から帰る旨のLINEを送る。


 毎日同じ繰り返し。


 変化なんかいらない。悪化さえしなければいい。


 友達はひとみちゃんだけでいい。友達じゃなくなるのが怖いから。


 優しさはそんなにいらない。裏切られるのが怖いから。


 優しさと言う蜘蛛の糸を手繰ってみたって、どうせ私の体重じゃあ切れてしまう。


 味方は一人でいい。敵に変化するのが怖いから。


 何も変わらなくていい。このままでいい……







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