22話 死闘!野球ゲーム③

 酔っ払ったエデンがパンツ一丁の姿で本格的な魔王の物真似を始めてしまった。そんな混沌とした状態で、9回裏のゲームが再開することとなった。


点数は以下の通りである。


ユリチーム 20 - 22 エデンチーム


ピッチャー…エデン

キャッチャー…ボドー


 2番、ユーキ。


ユーキがふらふらな足取りでバッターボックスに立つ。ユリはすぐにタイムを唱えた。


『ちょっとユーキ、大事な局面なのになんで貴方まで酔っ払ってるんですか!?さてはさっきの休憩でお酒飲みましたね!?』


「のんでない。」


ユーキが赤い顔で否定する。エデンが死球前提で投球した。ボールは懐狙いと見せかけ寸前で変化し顔面へと向かった。


「うっ!?」


ユーキが素早く体勢を低くしそれを避ける。


「あっ、やばい、吐く…」


ユーキは近くの草原に消えた。そして、戻ってくることはなかった。(ユーキ棄権、又、途中棄権により1アウト)


 3番、モンペン。


--金髪勇者!よくも弟をやってくれたな!俺が相手をしてやるぜ!


「ん?あれはあの男の自業自得ではないのか?」


--そうかもな!アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!


モンペンがこれまでと同様に乱れ打ちをする。エデンが投球した。


ボールは『風』の魔法の力が強く込められており巨大な竜巻を纏いながらゆっくり飛翔した。モンペンがバットに当てることに成功(ヒット+1)したものの、ボールと共に竜巻に巻き込まれ飛ばされそうになる。


--ありー!?俺ひょっとして空飛べちゃう!?俺空飛べるちゃう!??


「大丈夫かモンペン!?」


モンペンの足が地より離れた瞬間、キャッチャーボドーが抱き止めた。竜巻は力を増していき、体格の良い二人と言えど凄まじい暴風に飛ばされそうになる。


--ボドー、お前何をする!手を離せ…!


「大丈夫だからなモンペン!?お前を置いて逃げたりなどしないからな!?オオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


程なくして竜巻は爆散した。その風圧によりモンペンの羽毛とボドーの服が弾け飛んだ。モンペンとボドーは全裸になった。


--え…空…は…?


「…俺が…何をした…?」


(モンペンとボドー棄権)


ほぼ全てのメンバーが脱落し、雑魚なユリと魔王なエデンだけが残されることとなった。


『こ、これはもうゲーム続行不可ではないですか?』


「何故だ?続行だろう。」


『いやいやいや無理ですよ。そもそもキャッチャーがいないじゃないですか。』


「あの男が言っていたではないか。」


『ま、まさか…』


ピッチャー…エデン

キャッチャー…エデン


 1番、ユリ。


エデンが投球し、転がった球をエデンが拾いにいく。ローカルルールにより振り逃げは無い。ユリは相変わらずバントを当てられず2ストライクとなった。


(さっきから全然当てられない…!なんで雑魚な私だけが残ってしまったのでしょう。ユーキとモンペンが離脱してしまった時点で勝負は決まったようなものだったのですね…)


早くも諦め気味のユリのペンギンの頭に小人の精霊フィオが乗った。


『わっ、フィオさん、何ですか?』


フィオが小さいメモを見せてくれる。


『助太刀する。自分を精霊に進化させてくれた恩返しがしたい。ユリに一時的に精霊の力を使おうと思う。』


『あ、ありがたいです。それで、フィオの精霊の力とは何なのですか…?』


『対象を雑魚化する力だよ。』


『だから雑魚にしてどうすんですか!?』


フィオが真剣な眼差しで首を振る。


マイナスとマイナスをかけたらプラスになるように、裏の裏は表であるように。そう、雑魚の雑魚化は強者となる可能性を秘めているとフィオは言いたいのである。


『なるほど!よーし、やってみてください!』


フィオは強く頷き『雑魚化』の能力を使用した。


結果、ユリは10cm台の小さいペンギンになった。絶望の表情で立ち尽くす。


『……雑魚の雑魚化は…』


『雑魚だった』とフィオがメモで語る。その後、父バルバトスの肩へ避難していった。


SSサイズの雑魚なペンギンがバッターボックスに死んだように立った。バットはそこらへんに落ちていた木の枝に替えている。


エデンが投球する。外郭低めな変化球が通過するものの何故かボールが続いた。


(…?何故ストライクにならないんでしょう。)


怪訝な顔でボールを取りに行くエデン。それにユリはあることに気づかされた。


ユリの体が小さくなったためにストライクゾーンがコイン台のサイズに狭まったのだ。元よりペンギンの姿であるためわかりにくい。


つまりユリはただ立っているだけでフォアボールにより勝てるかもしれないのだ。戦わずして勝つ。まさに雑魚の流儀に適ったやり方である。


「…むう。」


大変面白くないのはエデンであった。キャッチャーボドーがいないならばどこがストライクゾーンなのかエデンにはわからない。実は知らないのだ。野球のルールを。相手は棒立ちだし自分はただただボールを投げ拾いに行く作業の繰り返し。


「これが野球か…」


ちょっと飽きてきたから何かを壊したい。エデンはため息を吐きながらフラストレーションをぶつける対象を探した。


ユリと目が合った。


「…ほう。そこの弱者、随分脆いと見える。何の取り柄もない貴様が我の役に立てるのだ。光栄に思うがいい。」


エデンがニヤリと笑う。ユーキの時同様、死球を狙うつもりなのだ。


(雑魚な私がエデンさんの球に衝突したら大怪我をしてしまう!なんとかやめさせないと!)


命がかかっているのである。気合いでは負けられない。ユリは両手を上に掲げ自分を大きく見せるように威嚇した。


『シィィーーー!』


「ほう、雑魚の分際でなかなかやるではないか。ではこちらも応じるとしよう。」


エデンがパンツ姿で右腕、左腕、両腕を順に羽ばたかせた後、片足を上げ白鳥のポーズを猛々しく取る。上に拳を二度突き、そして吠えた。


「フォーーーーーーーーー!!!」


『ぎゃーごめんなさいー!出過ぎた真似をしました!私はしがない雑魚です!見逃してください!どうもすみませんでしたー!』


ユリは気合いで大敗北しひたすら土下座を繰り返す。エデンからの返答はない。


(痛いのくる!?痛いのくる!?ぎゃー!ぎゃー!)


土下座のまま体を丸くしガクガクと衝撃に怯える。しかしいつまで経っても訪れない。


『…?』


疑問に思いながら恐る恐る顔を上げると、エデンが「スカー」と爽快な寝息を立ててマウンドで寝てしまっていた。(エデン棄権)


『……た、助かったぁ…良かった…あれ、でもちょっと待ってください?』


エデンチーム全滅によりゲーム続行不可。現時点での点数で決着となった。


ユリチーム 21 - 22 エデンチーム win!

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