21話 死闘!野球ゲーム②

 2回表、エデンチームの攻手である。


ピッチャー…ユーキ

キャッチャー…モンペン


 4番、アルマ。


「にゃ、にゃあ…」


超絶不器用な猫アルマはバットを持つのに大変苦労していた。手で持とうとしても口で咥えようとしてもうまくいかず落としてしまう。


「にゃう!」


『変身』


アルマは魔法を唱え少女ユリの姿に変身した。人間の姿なら持ちやすいだろうと考えてのことである。かくして、目論見通りバットを手に持つことができ投手ユーキに向けて得意げに鳴く。


「にゃあ!」


「……。」


ユーキはふわっと投球した。


『だからあなたは甘いんですよおおおー!!』


ユリはタイムを出しユーキに詰め寄る。


『その中途半端な優しさが命取りになるんです!結局あなたも誰にでも優しくするただのたらしだったんですね!幻滅しました!』


「お、落ち着け。あれを見ろ。」


ユーキに頭を掴まれくるっと後ろを向けられる。


その先には自分の両手を見て固まっているアルマがいた。アルマはふわっとボールに対して変なバットの振り方をしてしまい10本全ての指の爪を折ってしまっていたのである。


「にゃーんっ!」


「わぁ、アルマ。」


アルマがベンチに座るエデンに泣きつく。


「にゃーん、にゃーん!」


「よしよし、痛いねぇ。早く回復の魔法唱えようね。というか、ちょっと離れてもらってもいい?その、胸が…」


ユーキは投球した。


エデンの頭にヒット。(反則行為によりエデンチーム+1 、又、負傷によりアルマ棄権)


「…どこ投げてんのさ。超痛いんだけど。」


「スマンテガスベッタ。」


「「……。」」


以降、ユーキとエデンは互いに死球を激しく投げ合うこととなる。


その後、エデンチームは、マイが投球と同時にバットを振りヒット、ボドーが3ストライク前にバッターボックスにいることにやっと気づいてヒット、エデンが死球にヒットするなどして点数を稼いでいった。


対し、ユリチームもモンペンの乱れ打ちによる奇跡的なヒットやユーキの危険球をひたすら避けたフォアボールなどで点数を稼ぎ食らいついていった。


ユリはいつまでもバントを当てられずアウトを製造しまくった。



 9回裏、ユリチームの攻手である。


点数は下記の通りである。


ユリチーム 20 - 22 エデンチーム


「ここを押さえれば僕らの勝ちだ。頑張ろうね。」


『なんとしても3点取りますよ!ユーキ、モンペン、ホームラン期待してます!』


終盤にて、エデンチームとユリチームは双方気合いを入れ直していた。


そこにチアガール姿のアヴァロンの王女シロナがワゴンを押しながら優雅にやってきた。


「皆様、ご機嫌よう。」


『シロナさん、どうしてここに?』


「あなた達が野球をしてると聞いて応援しに来たのよ。飲み物とサンドイッチも持ってきたから少し休憩したら?あ、そういえば、兄様から手紙を預かってきたわ。」


ユリはグレイの手紙を受け取った。


『親愛なる友人達へ


 たのしく野球をやっているか?

 すこし驚かせてしまうと思う。

 けっこんすることになった。

 てがみで伝える形となってすまん。

 くるならいつでも歓迎する。

 れんじつ式はする予定だ。


 アヴァロンの城にて待つ。

        お前達の心の友グレイ』


パクッ

『あっ』


読み終える前にモンペンに手紙を食われてしまった。女王クロノスと帰ったきり音沙汰がなく心配していたがとりあえずは無事そうである。


シロナが手作りのサンドイッチと飲み物を振舞ってくれる。飲み物はスポーツドリンクだけではなく各種酒類もあった。シロナがエデンの隣に座る。


「エデン様は何を飲まれますか?」


「僕は投手だからね、程々にしとくよ。ウイスキーピッチャーで。」


「ふふ、そう仰ると思って準備していましたよ。」


シロナがピッチャーにウイスキーと透明な液体とを1:1で割っていく。


「水割り?僕ロックがいいんだけど。」


「大丈夫です。ただのスピリタス(アルコール度数96度)でございます。」


「ちょっと待てぃ!」とマイが勢いよく2人の間に割って入った。


「シロナ王女!そんな強いアルコールを飲ませて、さてはエデンを酔わせるつもりだな!?応援すると言いながら本当は負けさせるつもりなんじゃないのか!?」


「あら怖い。私は皆様の役に立ちたいだけなのに。ひどいですわ。うっうっ。」


シロナは泣き真似をしながら影でニヤリと笑う。それでマイは悟った。シロナはエデンを応援などしていない。酔わせ負けさせるつもりなのだ。そして、多額な借金に困り果てたところを「その程度我が国アヴァロンで工面しますわ。大丈夫です、エデン様が家族になってくだされば」と結婚を強行するつもりなのである。


「いくらなんでも強引すぎるだろう!」


「あら、あなたのような腰抜けより何倍もマシですわ。」


「だからといってお前のような者にエデンを任せられるか!」


「別にいいですー。勝手に奪いますからー。」


マイとシロナの間で盛大な火花が弾ける。その間にエデンはピッチャーを空にしていた。




「一番僕、脱ぎまーす!」


唐突にエデンは服を脱ぎ捨てパンツ一丁となった。




微笑ましく眺めていたユリはスポーツドリンクを一気に噴き出した。


『ぶえええええええ!?』


「きゃあああああああエデン!?何をしているんだああああ!!」


マイが悲鳴を上げながら手で顔を覆う。シロナはその場に平伏し「ご馳走様でした」と金貨の袋を差し出していた。


「マイ!いつも僕を支えてくれてありがとう!大好きだよ!」


「あ゛。」


裸族がマイに抱きつく。マイは爆発した。(マイ棄権)


エデンは顔を赤くしながらにっこにこ笑っている。普段ちょっとやそっとでは酔っぱらわないエデンもウイスキースピリタス割一気には流石に酔ってしまったようだ。


ボドーがパンツまで脱ごうとする手を素早く止める。


「エデン!?一体どうした!?何をしている!?捕まりたいのか!?」


「二番僕、モノマネしまーす!」


「何故」「何の」とツッコミを入れる間もなく、エデンは物真似を実行した。エデンから表情というものが消える。


「…さて、いつまでもこのような戯れに興じている暇はない。即刻始末をつけてやろう。」


『え!?』


ユリは驚く。威圧的な口ぶりも高慢な佇まいも全てが本人そっくりだった。


『す、すごい!まるで魔王本人みたいです!』


「何?魔王本人″みたい″だと?」


『えっ、いやいや、…え!?』


ボドーが泣きそうな顔で首を横に振る。


最終局面にて魔王は降臨したのだった。


 

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