19話 破壊後
『終末の剣』により跡形もなく破壊された魔法学校を前に、グレイは膝を折り力無く伏していた。
「詰んだ…か…。」
これであの精霊が解き放たれる。あの時空の女王クロノスが。
だが絶望するのはまだ早い。あれ程の威力の魔法であれば、精霊時空の女王といえど無事ではないかもしれない。その可能性を一縷の望みをかけて願った。
「クソアニガシネエエエエ!!」
「シロナっ!?やべっ…」
バグった妹に殺される可能性も大いにあることを失念していた。気が緩んだところを『雷』の魔法で狙われる。
『空間操作』
シロナとの間の空間がぐにゃりと歪み、雷の魔法が巻き込まれる。渦のように回転した後、シロナの方に向かって雷が返された。
シロナはそれを交わした後、自分の後ろに目を剥いている。
……。
後ろを見るのが怖い。
真後ろにソレの気配と生暖かい吐息を感じるのだ。
『ハァ…ハァ…愛してるわぁ…ダ〜リン♡』
全身に痛い程の寒気が走る。逃げようとしたところを後ろから抱きしめられた。時空の女王クロノスである。
「ひぃぃぃでたあああああ!」
『ああああああんアタシをあんなに必死に守ってくれるなんてぇ〜!感動しちゃったワァ〜ダ〜リン!カッコよかったワヨ〜!』
10mを超える魔人クロノスに猛烈に頬擦りされる。クロノスは何故か白いドレスに身を包んでいた。
◆
クロノスと精霊の契約していたバルバトスは「長年協力してもらっていた手前、死なせるのは流石に悪い」と判断し学校を破壊される寸前に契約を解除していた。それによりクロノスは学校から解放され難を逃れていたのである。
エデンとユリが魔法学校の破壊を存外にやり過ぎたために、グレイが魔法学校を死守しようとする姿はクロノスには自分を必死に守ろうとしているように見えたのだった。
◆
「ち、違う…!俺はお前を守ろうとしたんじゃない!」
『ウゥンわかってるわ〜。あなたは当然のことをしただけなのよね〜?そんな慎ましいところも素敵ヨォ〜!』
「お、俺が好きなのは、女なんだ…!」
『万事問題ないじゃない。あたし誰よりも乙女ですモノ♡』
何を言っても動じないクロノス。グレイは妹や友人達に助けを求めようとした。
妹シロナは薄ら笑いを浮かべながらただ見ており、友人であるユーキ、マイ、ボドーは自分が雷属性の魔法を与えたために麻痺してしまい、動けずに倒れていた。
「お前らぁぁぁ!それくらい自力で解除しろよぉぉぉ!やる気あんのかぁぁぁ!?」
ユーキが「ねぇよ」と吐き捨てた。
『さぁ、行きましょう、アタシ達の国に!』
「いやだ…いやだああああああ!!」
『転移♡』
王子グレイは花嫁クロノスと共にアヴァロンの国へ強制帰還することになったのだった。
◆
ユリはエデンに正座させ「よく考えてひとりを選びます」と誓わせた後、魔法学校が綺麗に消え去っていることに気づいた。
『あれ、ひょっとしてうまくいっちゃいました?』
「うん、魔力もいい感じに漂ってるよ。ユリちゃん、未精霊の卵を掲げてみて。」
フィオの卵を掲げてみると、卵に魔力が収束されていき、卵が強い光を放ち始める。未精霊フィオが精霊に孵るのである。
(どんな姿の精霊なんでしょう!)
美しい竜か、雄雄しい魔人か、はたまた可愛らしい天使のような姿か。楽しみである。
パカン!
上下に割れた卵から現れたのは卵のサイズとなった小人姿のフィオだった。
『しょぼっ!』
「
エデンがつんと突っつくとフィオはドテっと尻餅をついた。大変雑魚なようである。
フィオとバルバトスの目が合う。
「フィオ…なのか?」
フィオは雑魚過ぎて言葉が発せられないのか、小さい体で一生懸命地面に字を書く。
『仕事しろ』
バルバトスが「フィオ!」と呼びながら駆け寄り、フィオを抱き上げる。娘が一生懸命書いた字は踏んでいた。
『校長、申し訳ありません。魔法学校を壊してしまって…』
「構うものか。娘に代えられるものなどない。礼を言う、勇者達よ。」
『え、勇者達?』
誰のことを言ってるのか咄嗟にわからなかった。
エデンが手を差し出してくる。どうやら自分も含まれた言葉だったらしい。ユリは誇らしく思いながらエデンの手を握る。
「なかなかなお手前だったよ。雑魚な勇者さん。」
『あなたこそ、結構な破壊ぶりでした。魔王な勇者さん。』
2人で笑い合う。魔法学校は破壊してしまったが誰の犠牲もなくバルバトスとフィオを再会させられた。何はともあれ大成功である。
「さて、弁償してもらおうか。」
バルバトスが唐突に言ったことに思考が一瞬停止した。
『…破壊してもいいと許可は頂きました。』
「だからといって免除される訳がないだろ。大地の修復と外装内装含めて金貨50万枚(50億円)といったところか。」
『ぐは!?』
あまりの金額に卒倒しそうになる。何故ならユリ一行は旅先で単発な依頼をこなす程度の稼ぎしかなく、にも関わらず宿代だけではなく、酒代、スイーツ代、巨大ペンギン二匹の飼育代に相当金がかかっており、慢性的に金欠状態なのだ。それなのに、そんな金額払える訳がない。
バルバトスはエデンではなく自分に向けて言っている。以前のように器用な自分の監督不行が原因であるというように。
脂汗が止まらない自分と対照に事の根源であるエデンはしれっとしている。無関係だと言わんばかりだ。そんなエデンに苛立ちを感じた。
『エデンさん、ここは一つ、今回の弁償をかけてゲームでもしませんか?』
「いいけど。」
エデンは好戦的に笑った。
こうして、ユリ一行とエデン一行は魔法学校の弁償をかけて野球をすることになったのだった。
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