18話 やらかした

 ユリはその黒色の波動を放つ魔法の剣を見た時、全身に鳥肌を立てた。羽毛が広がり1.5倍のもふもふ状態となる。


終末の剣は魔法学校を覆う魔法の『防壁』を少し触れただけで黒く侵食し消し去ってしまった。


『エ、エデンさん、あれは何ですか!?』


「最上級の破壊の魔法『終末の剣』だよ。あの剣には全てのものを無へと溶かす終末の力が内包されててね。この魔力なら世界の半分まで侵攻すると思うよ。」


『ちょ、ちょっと待ってください?世界の半分じゃなくて学校だけを破壊するって話でしたよね?』


エデンがキョトンとした顔つきになる。


「…そうだっけ?」


『今すぐ止めてください!!』


「ごめん、やり過ぎちゃったみたいだね。ユリちゃん、それじゃ操作よろしくね。」


『え?』


「え?」


意味が分からずエデンを見る。エデンは額に魔法陣を出しているが先程のように集中している様子がない。まるで魔法の操作を手放しているかのようだ。それでは今誰が『終末の剣』を操作しているのだろう。


まさか。


『終末の剣』が魔法学校に落ちようとしたため、慌てて魔力で操作し止める。


『なんで!?なんで私が操作することになってるんですかああああ!??』


「なんでって、言ったじゃん。手伝ってって。」


『魔力流してしか言ってませんでしたけどおおお!?』


「そうだっけ?」


世界の命運を握っているのはエデンではなく自分。その責任の重圧に泣いてしまう。


『ぐすんっ…無理っ…無理ぃー!』


「…ごめんね、ユリちゃん。君には過ぎたことをお願いしてしまったようだね…。ところで相談したいことがあるんだけどいいかな?」


(このタイミングで相談!?何なんですかこの勇者は!?人の感情ちゃんとありますか!?)


内心激しくツッコミながらもこの天然とこれ以上話をするだけ無駄であるという結論に達する。ユリは無視を決め込むことにした。


「人に相談するの初めてだなぁ。相談というのはね、SちゃんとMが僕に好意を向けてくれていることなんだ。」


『…できるだけ詳細にお願いします。』


恋愛相談など無視できるわけがない。ついにシロナとマイの気持ちがエデンに伝わったようだ。終末の剣を制御しながらエデンの話に意識を半分向ける。


「Sちゃんは他国の王女様でね、努力家なところがあって一生懸命なところが可愛い女の子なんだ。Mはほぼ毎日一緒なんだけど、僕のことを考えてか気持ちは隠すようにしてるみたい。真っ直ぐな強さを持つ僕の憧れの人なんだ。」


『……!』


ユリは呆気に取られた。他人の気持ちに疎いエデンがそこまで二人のことを考えているとは思わなかった。


思いがけない成長にほろりと感動の涙が流れる。


『…っ…それで、エデンさんはどちらを選ぶんですかっ…?』


「勿論二人とも選ぼうと思う。いいよね?」


ユリはふっと笑った。


『いいわけないだらこの天然二股魔王があああああああああああああああああああああ!!』


「え!?そ、そんな、まさかひとりを選べというの!?残されたひとりが傷つくじゃん!可哀想だよ!」


『二人選んだ方がもっっと傷つくんじゃあああああああ!!返せ、私の感動を返せ!!』


「わっ!目はやめて目は!」


ブチギレたユリは現在の状況も自分のキャラも頭から吹っ飛んだ。全力でエデンの目を突っつきにかかる。


その怒りと嘆きに呼応し、終末の剣は勢いよく魔法学校に落ちたのだった。



 グレイとシロナ、エデンとユリが夢中で喧嘩をしている中、世界の終末は訪れていた。


落ちた終末の剣が魔法学校に溶け込み、触れるもの全てを黒に侵食する。侵食された部位は程なくして砂塵と化し霧散していった。侵食は建物を伝い地面へと、そして生徒達が避難するグランドへと急速に進行した。


それを白い猫アルマは緑の瞳でつぶさに見ていた。目の前の未知なる魔法を命尽きるまで研究したいと思ってのことだった。


       『隔牢』


グランドにたどり着く寸前で正方形の壁が出現し『終末の剣』の侵攻を大地ごと取り囲む。隔牢の中が真っ黒に染まるもそこから侵食が溢れることはない。


「なんとか間に合ったようですね。」


魔法を唱えたのは闇魔法担当の教師だった。異種族が教師をする魔法学校には珍しく、彼女は人間にみえた。


「にゃあ?」


「これですか?これは内と外の空間を切り離す魔法です。本来は生物を永遠に幽閉する時に使うのですが、終末の剣でも空間を越えることはできないようですね。」


「にゃあ、にゃあにゃあ。」


「褒めてくれてありがとうございます。ですが、あなたには及びませんよ。全属性の魔法が使える方なんて、私の世界では見たことがありませんでしたから。」


「にゃーにゃーにゃー。」


「私の力なんて紛い物です。それに、あの子を雑魚とは思いませんよ。」


アルマは雑魚なユリと同じ名前を持つその女性教師としばらく会話を楽しんだ。


気がついたら隔牢の中が澄んでいた。終末の侵攻を止められたようだ。隔牢も消え、魔法学校があった場所にはぽっかりと正方形に抉れた大穴と莫大な魔力だけが残されたのだった。

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