17話 勇者、本気
ユリはユーキとエデン達勇者一行と共にグランドに集まっていた。魔法の制御が下手くそなエデンに魔法学校を破壊する魔法を練習させるためである。
広いグランドには人も魔物の姿も見られない。先日のバルバトスイベントでの惨劇が尾を引いており、誰も近づかないのだ。
ユリはエデンの頭の上に乗せられていた。
『エデンさん、これは?』
「魔法をコントロールする自信がないからユリちゃんに少し手伝ってもらおうと思って。僕に魔力をいっぱい流してくれるかな?」
『成程、こうですか?』
言われた通り魔力を全開で流してみる。普段なら手に出るはずの魔法陣がエデンの額に現れた。エデンの体が不自然に宙に浮き始める。
『えっ、ど、どうなってるんですか?』
「大丈夫だよ。ほら、集中して。」
『むぐぐぐぐぐ…』
「その調子。途中で止めたら魔法が暴走しちゃうから、魔法が発動してる間は魔力を流し続けてね。それじゃ、始めるよ。」
エデンがグランドの中央に向かって手を掲げた。
『
突如、本命の魔法学校に向かって十を超える巨大隕石がいっせいに降り注いだ。
「にゃあ!?」
アルマが『防壁』の魔法で学校を覆い、間一髪のところで隕石の爆撃から守った。
「エデン!?これは練習でいいんだよな!?まだ学校に人がいることはわかってるよな!?」
「ああうん。」
ボドーが必死に確認するもエデンは生返事を返す。集中してしまっており、話が耳に入らないようだ。
(え、私、どうすればいいですか?魔力流すのやめていいですか!?)
しかし、魔力を流すのをやめることで魔法が暴走しても怖い。結局半泣きしながらエデンに魔力を流し続けるしかなかった。その間も隕石は魔法学校目掛けて降り注ぐ。
「アルマ、間もなく学校が破壊される!学校を守りながら生徒達を避難させるんだ!」
「にゃあ!」
マイが早とちり、否、未来予知を授かる。アルマが学校にいる生徒、魔物、教師達を『転移』させ脱出を試みていく。
グランドに強制転移させられた魔物達は何かを思い出しすぐさま恐慌状態に陥る。生徒達、教師達もまた魔法学校が謎の襲撃を受けているのをみて動転していた。
周りが大混乱となっている中、エデンに向かって『雷』の魔法が弾ける。
「エデン危ない!うあ!?」
マイが咄嗟に庇い雷を食らってしまった。意識を失い倒れ伏す。
雷を撃ったのはアヴァロンの王子グレイであった。グレイが物凄い剣幕で叫ぶ。
「何の真似だお前らあああああ!!」
「いや、お前こそ。」
ユーキが突っ込みなからボドーと共に対峙した。
友人関係であるはずのグレイが自分達に向かって攻撃を仕掛けた。その事実にユリは激しく動揺していた。
(え、なんでですか!?なんで私達を攻撃するんですか!?グレイさん!)
◆
『契約から解放されたらまずあなたのお城にアソビに行こうかしら。ねぇ、アタシのオ・ウ・ジ・さ・ま!』
◆
『あ。』
ユリはグレイが必死に止めようとしている訳がわかった。魔法学校を破壊するということはそれに宿る時空の女王クロノスも世に放たれるリスクがあるのだ。
『スタン』
グレイが『スタン』の魔法を唱える。スタンは相手を麻痺させ一定時間行動を奪う状態異常の魔法である。地面から湧き上がる電撃をユーキはボドーの頭の上に飛び乗りかわした。頭を踏まれスタンにも当たったボドーであったが何もなかったかのように突っ立っていた。
「グレイ、話を聞け。これには事情がある。」
「俺の事情を無視すんじゃねえよッッッ!!」
グレイは容赦なく『雷』で攻撃してくる。ユーキはそれをボドーを盾にするように捌いていた。
ユリはグレイに土下座して謝りたかった。彼の事情を失念していたことを。何の相談もなく魔法学校を壊そうとしてしまっていたことを。
「ボバババババ!?」
「!?」
散々盾に使われていたボドーがいきなり感電して倒れる。蓄積された電撃が今更回ったようだ。盾を失ったユーキの背後にグレイが『転移』する。
『スタン』
「ぐっ!?」
ユーキも麻痺し戦闘不能となった。グレイがユリ達に手を掲げた。
『わああああ!グレイさん、やめてくださいーー!』
「お前らこそやめやがれえええええええ!!」
その絶叫は悲鳴に近かった。
『雷』
『雷』
自分達に向かって撃たれた雷に、同等の雷の魔法が別方向から撃たれ衝突する。自分達を守ってくれたのはグレイの妹シロナであった。
「クゥゥゥソォォォアァァァニィィィガアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
雄叫びのようなシロナの怒声。相当キレているのか、体の周囲には電光が激しく弾け、黒く長い髪の全てが逆立っていた。
「そこをどけシロナアアアアア!!」
「ワタワタワタシノエデンサマニヨクモコロコロコロコロコロススコロロススス」
グレイとシロナが雷の魔法を全力で撃ち合う。雷が衝突する度に電光が弾け視界が真っ白に眩んだ。
そこにバルバトスも転移されてくる。魔法学校が多数の隕石に襲撃されているのを見て「おお」と目を見開いた。
「これは…何事だ?」
『すみません、校長、事前に相談しようと思ってたんですっ… フィオを助けるために魔法学校を破壊できないかなと思ったんですっ…もうエデンさんをコントロールできそうもありませんっ…今日は…本当に…ただの練習のつもりだったんですーーー!』
泣きながらバルバトスに事情を訴える。バルバトスは面を食らったようだったが、噛み締めるように強く頷いた。
「わかった。学校の破壊を許そう。ついでに書類の処分も頼む。」
「にゃあ!」
アルマが全員の脱出完了と叫ぶ。
校長の許可は得られた。魔法学校の人々も全員脱出できた。後は魔法学校を木っ端微塵に破壊するだけである。
『エデンさん、もういいです!思いっきりぶっ壊しちゃってください!』
「いいけど。」
エデンの額の魔法陣が激しく光った。
『
黒く禍々しい波動を帯びた剣が魔法学校の真上に召喚された。それは魔法学校どころか世界をも滅ぼしかねない剣であった。
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