16話 作戦


 その日の夜、ユリはユーキと共に迷いの森に来ていた。未精霊フィオを救う方法を色々と物知りなペン子に相談するためである。ここなら魔物も多く生息しているため、密会してもバレないのではないかと考えたのだ。


『さて、どうやってペン子さんと話しましょうか。』


「あのペンギンならお前が呼べば来るだろ。」


ユーキがそう言うも流石に場所が違い過ぎだと思う。ペン子はモンペンと共にアヴァロンの国の家族の元へ帰省中。自分達がいるここは外界と隔絶された魔法学校の敷地内である。


『ペ、ペン子さんー。相談したいことがありますー。』


--ほう、私に相談とは何かな?


『わあああ!?』


真後ろに黒いペンギンペン子が普通に姿を現す。『転移』してきたようだ。


ペン子が猛烈に頬を擦り寄せてくる。


--ああ、ユリ、無事で何よりだ!君と会わないで3日も経ってしまった!心配で心配で羽が全て抜け落ちるかと思ったぞ!


『あ、まだそれっぽっちしか経ってないんですね。』


外の世界の1日は魔法学校の10日に値する。結構な期間待たせてしまっているのではないかと心苦しく思っていたが、これなら問題なさそうだ。


--ほほう、それぽっち呼ばわりとは君もだいぶ余裕が出てきたようだな。成長が見られて喜ばしい限りだ。君は素晴らしい。それで、相談とは何だね?


『これのことです。』


ペン子に未精霊フィオの卵を見せた。


--貴様アアアアアアアアア!!このムッツリ魔王がッ!!落ちぶれたケダモノがッ!!ペンギンの姿だから安心していたものをそのまま致すとは度を越した異常者だなッ!!貴様のような変態が生きていては世界の調和が崩れかねん!!今すぐ原初へ還れクズがあああああッ!!


激昂したペン子ががっぱりと口を開けユーキに襲いかかった。


「一つに絞れ、鳥。」


程なくしてユーキに片手で取り押さえられた。



 ユリはペン子に未精霊フィオを助けたい旨を説明する。ようやくペン子は落ち着きを取り戻した。


--成程。かなり難しいだろうが未精霊から精霊に進化させる仮説があるぞ。今まで成功した事例はないがな。


『教えてください。どうすれば良いんですか?』


--未精霊が卵になる現象は精霊へ進化しようと試行しているからだ。だが、未精霊は能力が足りないため自力で孵ることができない。


『と、言いますと?』


--つまり、自力では足らない魔力などの能力をこちらが補ってやればいいのだ。


『成程、魔力量なら自信があります!なんせ私は魔力SSですし!』


ペン子は神妙な顔で首を振る。


--いや、君だけでは足りなさ過ぎる。


『え!?』


--未精霊が卵から孵させるには一瞬の間に莫大な魔力を与える必要がある。君ひとりでは存在を維持する程度にしかならない。


『そ、そんな…。』


「ではどうしろと言うんだ。」


--貴様のようなカスでも消えれば魔力の足しにはなる。お別れだな雑魚。


「それは良案だな雑魚」と、ユーキがペン子の頭を左右から拳でプレスする。ペン子は「ギュウウウウーーー」と絶叫した。


『……?』


『消えれば魔力の足しになる』

何かがひっかかり考える。悶着し続けるユーキとペン子。その背景に莫大な魔力の塊が聳え立っていた。



 翌日、ユリはエデン達勇者一行とアルマに共有を図った。


作戦はこうである。莫大な魔力の塊とは魔力を貯める魔道具、魔法学校のことであった。その学校の魔力全てをフィオに移動させることができれば魔力が補われ精霊に進化させられる可能性があった。しかし、莫大な魔力を一瞬で移動させることは最強の魔法使いアルマでも不可能だった。


そこで、魔法学校を破壊し、貯蔵している魔力を一気に解放してフィオに吸収させようと考えたのである。


もっと遊びたいだの酒が飲みたいだの渋る者もいたが、その他の方策は見いだせない。校長バルバトスを説得した後に魔法学校を破壊するという方向に決まった。


魔法学校は魔道具の機能が失われる程に繊細に破壊しなければならない。その役目はいくつもの教室を破壊してきた男、勇者エデンが適任であった。


『と、いうことで、魔法学校の破壊をエデンさんにお願いしたいです。』


「いいけど、ぷっふふふ…」


『エデンさん、どうしましたか?』


「ふふっ、だってさ、勇者である僕に壊せだなんてさ、あはっ、まるで魔王みたいっ。ふふっあはははっはははははっ。」


こいつ、何笑ってんの?


その場にいる全員がエデンを白い目で見た。


この天然勇者に魔法学校の破壊を任せるのはあまりに心配過ぎる。一同はバルバトスを説得する前に、エデンにグランドで魔法の練習をさせることにした。


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