14話 魔法学校の謎
ユリはグレイと共に生徒の出入りが禁止されている魔法学校の資料室で調べ物をしていた。この資料室は危険な魔法書や生徒や教師の個人情報などが置かれている。その他にも何か魔法学校のお宝が隠されているのではないかという期待がなくはない。
(ダメです!今は卵になった少女のことを調べるために来たんです!集中しなきゃ!)
好奇心を落ち着けるべくグレイを見る。グレイは真剣に資料と向き合っていた。卵になった少女のことを調べるべく半ば強引にここに連れてこられたが、臨時教師であるグレイと一緒だからこそ探せる場所を選んでくれたのは彼なりに考えてのことなのかもしれない。
(グレイさんってわりと面倒見がいいですよね。お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな。)
「ユリ、これを見てくれ。」
グレイが見せてくれたのは医務室の記録だった。そこには金髪長髪の少女の顔写真があった。
少女の名はフィオ。魔法学校の時間で20年以上前に病で亡くなっていた。
『この子です!卵になった女の子で間違いないです!』
「決まりだな。お前が見たのは未精霊だ。」
『未精霊?』
「魔法を超越し万象の力を持つのが精霊だ。精霊は死亡した生き物が強い意志と能力を持つことでなるものだ。未精霊は精霊になる能力が足りなかった存在のことを言う。普通は誰にも見えないし魔力が尽き次第消滅してしまう。」
『そうだったんですね。』
きっとフィオは魔力が尽きる前に、自分の魔力を吸収したことでなんとか生き永らえたのだろう。卵になっている姿を見ると精霊に孵ろうと未だに努力しているようにも思える。
何かフィオを手伝う手段はないのだろうか。
そう考えているとかなり低い位置に微かに風が起きていることに気づく。辿っていくと本棚の下から漏れていた。
程なくして隠し扉を発見する。
『「キターーーーーーー!!」』
当初の目的は一瞬で吹っ飛んだ。グレイは先ほどの真剣さがカケラもなく軽快なスキップで階段を降りていく。ユリも共感できるためグレイの頭にしがみつきながら合唱した。魔法学校に隠された秘密の通路。期待はもう爆上がりだった。
『「キタ!キタ!キタ!キタ!」』
階段をしばらく進むと目の前に一際大きい扉が立ち塞がる。グレイが「キタァア!」と一気に開け放った。
『あらやだぁーかわいい坊やたちっ!』
「キタアアアアアアアアア!!」
ねっとりとした裏声にグレイはすぐさま踵を返す。しかし、大きな手にむんずと捕まってしまった。
その手の持ち主は10mを超える巨体の魔人であった。小太りで服は露出が激しい。化粧をし女性のように着飾っているが男である。広い空間で膝を揃えて座っていたようだ。
『はじめましてぇ〜。アタシは精霊、時空の女王クロノスよ。誰もここに来ないから寂しくてつい呼んじゃったの〜!来てくれて嬉しいわぁ!』
「時空の王の間違いだろ…」
『ヤッダ照れてるの〜?カワイイ〜!ニギニギしていい!?』
「やめろおおおお!離してくれえええ!」
グレイは抵抗虚しくにぎにぎされる。がっしりと掴まれ首だけ出ている状態ではどんな抵抗も無駄だった。
『時空の女王であるあなたが何故魔法学校の地下にいるんですか?』
『アラ、アタシのことが知りた〜い?高いわよ〜?』
「ユリ、やめておけ!これ絶対やばい流れだ!」
『教えてください!どうすればいいですか?』
時空の女王クロノスは『ん〜』とわざとらしく悩む仕草をする。
『それじゃあ、とびっ〜きりあっま〜いキスしてくれたら教えてあ・げ・る♡』
『転移』『転移』『転移』『転移』『転移』『転移』
グレイが転移の魔法を連発する。しかし、何も起きない。
「何故だ!?どうしてだ!?」
『だってこの学校の敷地は私が支配しているようなものだもの。逃がさないわヨォ〜。』
クロノスは魔法学校の敷地内なら他人の魔法にも干渉できるようだ。そうこうしていると、『ン〜』と目を閉じたクロノスの顔が迫ってくる。
『わあああ!グレイさん、はいどうぞ!』
「いやいやお前に譲る!遠慮するんじゃねぇ!減るもんじゃないだろ!?」
『減るんですよ!大事なものが!』
「同性だからノーカンだ!」
『同性はグレイさんの方じゃないですかー!』
争っているとはたとあることに思い至る。クロノスの手に捕まってるのはグレイだけだ。自分は自由である。ユリはすぐにグレイの頭から脱出した。
『それでは!』
「ユリ、行くな…!行くなあああああ!!」
( ※自主規制音)
その後、ユリはクロノスと話をすることになった。
『あれはそう、20年位前のことになるわね。』
クロノスが当時のことを語る。
◆
20年以上前のこと、時空の女王であるクロノスの元にエルフの男バルバトスが現れる。バルバトスは「俺が勝ったら学校の敷地内の時間を止めてほしい」とクロノスに精霊の勝負を持ちかける。クロノスは負け力を貸そうとしたがバルバトスはクロノスを制御するには能力が不十分であった。クロノスの時空を操る力を発揮するには莫大な魔力と魔法の才能が必要なのだ。
「問題ない。それを見越して学校にありったけの魔力を貯めてある。」
学校に通う生徒達が身につけているブレスレットは魔力を吸収する鍛錬道具であり、吸収した魔力は学校に貯められていた。こうして、クロノスは学校に宿り時の流れが遅く歳の取らない魔法学校ができたのだった。
◆
『アタシはバルバトスが精霊の契約を解除しない限りここから離れることはできないの。もっといろんな可愛い子とアソビたいのに、ほんっとワガママなんだから〜!』
頬を染めながら体をくねらせるクロノス。ぴたっと動きを止めて部屋の隅で悲愴に暮れるグレイを見た。
『契約から解放されたらまずあなたのお城にアソビに行こうかしら。ねぇ、アタシのオ・ウ・ジ・さ・ま!』
「バルバトス頼む。絶対にこいつを世に解き放たないでくれ。頼む頼む頼む頼む頼む頼む…!」
グレイは切に願うのだった。
0時になり、ユリはグレイと共に、迷いの森の入り口に行き、無事エデン達と合流することができた。
「エデン様、上着を貸していただきありがとうございました。洗ってお返ししますね。」
「え、今ここで返してくれればいいよ。それか、グレイに…」
「私がまた会いに行きたいのです!」
「え、そうなの?」
どこか良い雰囲気のエデンとシロナ。
その隣には光るスライムを捕まえているボロボロなマイとボドーの姿があった。ユーキもまた大変やつれた様子である。
何があったんだろう。状況がわからないでいると、ユーキが頭に乗せてくれる。
「夜光草は手に入った。もうここに用はない。行くぞ。」
『あ、はい。あの、ユーキ、もう怒ってないんですか?』
「別に最初から怒ってない。」
(いやあれは絶対怒ってました!)
何はともあれユーキはもう気にしてないようだ。皆で寮への道を行く。
『ユーキ、お酒を毎日飲むのは飲み過ぎだと思います。今日はもう遅いしお酒はお休みにしましょう?』
「…明日は魔法薬学の講義か。朝の10時からだったか。」
『あの、聞いてます?』
「薬を作る演習もあるらしいな。何の薬を作るのだろうな。」
『お・さ・け!や・す・み・ま・しょ!』
「少し予習する。眠いならお前は先に休めばいい。」
不自然に勉学にやる気を出すユーキ。二人は平行線なまま部屋に帰ったのだった。
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