13話 迷いの森②-スライム-


「エデン様ー!どこにいらっしゃるのー!?」


シロナは暗い森の中、逸れてしまったエデンを探していた。


うかつだった。つい自分の印象を悪くしないようにと夢中になりエデンから目を離してしまった。


(この馬鹿がっ!自分のことばかり考えて!エデン様のことをもっと考えなさいよ!)


エデンは方向音痴である。はぐれてしまったら合流は難しい。


もしエデンが帰ってこなかったら。

もしエデンと二度と会うことができなくなってしまったら。


嫌な想像が次々に浮かび、恐怖からその場に座り込んでしまう。喉の奥が熱く、涙が込み上げてしまった。


「私の印象なんてどうでもいい!エデン様あああ帰ってきてぇぇ「ただいまー。」


エデンが上着を手に持った状態でのうのうと『転移』してくる。エデンは方向音痴ではあるが他人の魔力を感知し目の前に転移することができるのだった。


「へ、エデン様!?」


「待たせてごめんね。ちょっと探し物してて。て、シロナちゃん、どうして泣いてるの?」


「これはその、虫がコワクテ〜。」


はい、やりましたとシロナは思った。さっき反省したばかりなのに早速とりつくろってしまった。頭の中で自分を10回殺る。


「はい、これ。」

ふわり


視界が暗くなりエデンの匂いとハッカの匂いに包まれる。頭から掛けられたのはエデンの上着だった。


「…エデン様、これは?」


「被ってなよ。通り道にハッカがあったからすり潰して上着につけてきたの。ハッカの匂いは虫除けになるんだよ。」


虫が苦手だといったのは印象を良くするための咄嗟の嘘だった。それなのに、エデンはそれを信じ気遣ってくれたのである。


(あったかいっ…。)


目頭が再び熱くなる。


「シロナちゃん、大丈夫?ハッカの匂いは嫌いだったかな?」


エデンは天然で相変わらずずれたことを言う。強いところも、優しいところも、どこか抜けて不器用なところも、


やはり好きだった。


その時本心を打ち明けてしまおうと思ったのは、駆け引きも計画性も全くない衝動的な行動だった。


「シロナちゃん?」


「エ、エデン様、聞いてください!私はずっとエデン様のことをお慕いも「ああああ!?」


エデンが大きい声で後ろを指す。


内心舌打ちしながらその先を見る。光り輝くスライムがぽよんぽよんと移動していた。スライムには『レル』と書かれた首輪がついている。


「あれは夜光草の光!?まさかあのスライムが夜光草を食べ尽くしてしまったというの!?」


道理でこれだけ探しても一つも見つからない訳だ。夜光草を大量に取り込んだあのスライムはいわば大量の夜光草の塊だった。スライムはこちらに気がつき、慌てて逃げ去ろうとする。


「追うよ、シロナちゃん!」


「は、はい!」


シロナはスライムを追いかけつつ歯噛みしていた。せっかく勇気を振り絞ったのに、あともう少しで言えそうだったというのに、完全に不発で終わってしまった。全てはあのスライムと兄のせいである。シロナの周囲に電光が舞う。


「シロナちゃん、ごめんね。」


「何がですか!?」


「気持ちは嬉しいんだけど僕はまだその感情がよくわからないんだ。君のこと、ちゃんと考えるから待っててね。」


「ああそうですか!……へ?」



それは会心の一撃であった。



シロナは「へぇぇぇ!?」と撃沈する。夜光草ほにゃららスライムうんたらのことは完全に吹っ飛び行動不能となった。


こうして、シロナとエデンは夜光草スライムを取り逃してしまったのであった。



 その頃、ユーキは途方に暮れていた。


ユーキはこれ以上散り散りにならないように、のろのろと歩いていた大男ボドーを引っ張り、さくさくと先に進んでいくマイの後ろを追いかけていたのである。


「あっちの方向に夜光草がある気がする!急がなければ!」


「待て、少し落ち着け!」


マイペースに突き進むマイに呼びかける。


「ん、そうか?わかったからな?」


マイに言ったはずなのに何故かボドーがその場に留まろうとする。体重が倍になったかと思う程に重くなる。


「違う、お前はもっときびきび動け!」


「ああ、了解した!」


マイが進むペースを上げる。ユーキは「お前じゃねぇ!」と堪らず叫んだ。


この二人の面倒臭さは尋常ではない。この二人と勇者一行として付き合っていけるエデンはある意味尊敬に値する。同時に思わずにはいられなかった。


ユリは予測しない行動をする無謀な雑魚ではあるが、実は手のかからない方なのではないかと。


多大なストレスで思考が鈍麻している時、マイが「見つけたぞ!」と叫ぶ。金色に輝くスライムがどこかからか逃げてきたようだ。


「このスライムは夜光草の塊だ!」


マイがスライムを捕まえようと全速力で突っ込む。しかし、寸前でスライムが石に躓き、マイは通り過ぎ池に落ちていった。


『いま…なにか…いた…?』


スライムは訝しげに周りを観察する。追撃を試みるなら今である。大男ボドーを気合いで持ち上げる。


「やって…」


「お?」


「られるかぁあああ!!」


ボドーをスライムに向かって全力で投げる。ボドーは「おー!?」と叫びながら飛んでいきスライムにぶち当たった。スライムは気絶した。


本来、ユーキは体力筋力Sの剣豪といえど大男であるボドーを豪速球で投げる力はない。しかし、溜まり溜まったストレスがユーキを極限状態にし、爆発的な怪力を与えたのである。


こうして、ユーキ達は連携し夜光草を食べ尽くしていたスライム『レル』を捕獲することができたのだった。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る