9話 雷魔法の授業
次の日、ユリ達低級クラスは雷の魔法の授業を受けることになっていた。
低級クラスには何故か中級クラスであったはずの勇者一行の格闘家ボドーが加わっている。
『マイさん、どうしてボドーさんがここにいるんですか?』
「ボドーは何もしなかったからここに落ちてきた。それだけの話だ!」
指示されても気づかずにぼーとしているボドーの様子が想像される。ユリはボドーにもできるだけ普段通りに接しようと心に決めた。
教壇にアヴァロンの国の王子であるグレイと王女のシロナが立つ。グレイとシロナは雷魔法に特化した兄妹であり、色々あったが現在はユリ達の友人である。
「この度雷の魔法について特別講師をすることになった、グレイだ。よろしくな。」
「お、同じく僭越ながら講師を務めさせていただきます、シロナです。未熟者でございますが精一杯尽力致します。ど、どうぞよろしくお願いいたします!」
グレイは適当に会釈する。対し、シロナは緊張した面持ちでぺこぺことお辞儀する。美少女の畏まった姿に男性生徒は頬を緩ませた。
「お、グレイじゃん。やほー。」
エデンはシロナを無視しグレイだけに手を振る。
「クソが。」
可愛らしい笑顔を浮かべたまま妹から出た低い声に、グレイは身震いしながら授業を進める。
「き、今日は『磁力』という魔法をお前たちにやってもらおうと思う。磁力は自分と物に磁力を纏わせその物を自在に動かせるというものだ。練習すればその内大剣も動かせるようになるぜ。」
『磁力』
鉄の棒が浮かぶ。生徒達が歓声を上げる中、エデンは吐きそうな顔でそれを見る。
「まずは自分に磁力を纏わせてみろ。磁力を纏うことができているかどうかはお互いに手を合わせてみればわかる。」
生徒達は二人ペアになり磁力を纏う練習を始める。
「ボドー君、一緒にやろうか!」
「…ん?マイか?俺でいいのか?」
「無論だ!『磁力』!」
マイがボドーの手を握る。
「おおおお!?手がくっついたぞ!?やったな、ボドー君!」
「……。」
ボドーは呆然とする。呆然としているのは外面だけで思考は状況を把握しようと忙しなく働いていた。
グレイの説明は磁石同士を合わせると引き合うか反発し合うように、お互いの手を合わせることで磁力が発生しているか確認を取れるという意味合いだ。マイは魔法を唱えたが自分はまだ唱えていない。あと、別に手がくっついているわけではない。彼女が握っているだけだ。彼女の魔法が成功しているのか、それはわからない。教えた方がいいのだろうか。この笑顔を守るためにはどうすれば。
ボドーは答えを見つけられずにぎにぎとマイに手を握られ続けた。
◆
周囲がペアを見つけて練習する中、エデンはひとりぼっちでいた。魔法の威力が強く下手であるため周囲に一線引かれているのである。
シロナはグレイと険しい表情で頷き合う。
ここまでは計画通りである。今回の授業は磁力の魔法を扱い、シロナは練習と称して自分とエデンに引き合う磁力を纏わせ手をくっつける。その後は離れないと偽り一日中エデンと恥じらいながらデートする。そのようにして他人の好意に疎い天然勇者にまずは女性として意識させるという作戦だった。
エデンの元へ行き声をかける。
「エ、エデン様?よ、よろしければ私がお相手致しましょうか?」
「あ、シロナちゃん。ありがとう。よろしくね。」
『『磁力』』
シロナは絶対に離れるものかとエデンと自分に引き合う磁力を全力で纏った。
◆
その頃、ペンギンのユリはユーキと手を合わせて試行錯誤していた。
『うーん。全然くっつきませんねー。何ででしょう?』
「特に何も起きていないようだな。」
ヒントを得ようと観察しているとユーキの髪が普段よりふわっとしていることに気づく。自分の羽毛も広がっている。
お互いに磁力ではなく静電気を纏ってしまっていたようだ。そのことに同時に気がついたようで苦く笑い合う。
バキッ!
ドガガガガガン!!
ユーキが目の前から消え、豪快な破壊音が響き渡る。
『え!?』と音の先を見ると教室の壁に大穴ができている。その奥の教室も突破し5つの壁を壊した先に二人の男が折り重なるように倒れていた。ユーキとエデンである。
磁力は引き寄せ合う力にもなるが反発し合う力にもなる。エデンはシロナの引き合う磁力すらも平然と塗り替え、シロナと自分に最大級に反発する磁力を纏わせた。
最大級の磁力の反発は凄まじい威力だった。エデンは強く弾かれ後方にいたユーキを巻き込み壁を突き抜けていき、シロナは都合よく空いていた窓から放り出され噴水に突っ込んだ。
「クソ天然ザルが!いきなり何しやがる殺す気か!?」
「生きてるからいいじゃん!でもありがとう!クッションになってくれて!」
ユーキとエデンは大ダメージを受けているにも関わらず喧嘩を始める。周りの生徒達が慌てて引き離そうとするが、二人はまるで磁力でくっついているかのように離れなかった。
それを見ながらグレイは後退りをする。
「どういうことだ!?エデンの魔法にシロナが負けたというのか!?雷特化の俺の妹が!?」
グレイは狼狽える。雷特化の妹が雷の魔法で力負けをするなど信じられないことだった。
しかし、直ぐに勇者エデンという男を測りきれていなかったことに思い至る。エデンは常軌を逸した天災なのである。
作戦の失敗を悟った時、その背後に水浸しとなったシロナが『転移』してくる。
「ひぃ!?」
背にバチバチと電光が感じられる。シロナの矛先は必然的に、作戦を考えた兄に向くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます