7話 水魔法の授業-親バレ-
次の日、ユリ達低級クラスの生徒は水魔法の授業のため敷地内にある大きい池に集合していた。
魚人が池より顔を出す。
『よく来たな、お前達。我は水魔法担当の教師ゴライアスヒドロキニスムベンガである。』
驚愕しすぎて名前は頭に入らなかった。
『ユ、ユーキ、あれ!あの魚まさか!?』
「ああ、間違いない。あれはゴリアテだ。」
そう、先生の見た目が昨日の部屋飲みで食べた魚、ゴリアテにそっくりなのである。ユーキと勇者一行からごくりと唾を飲む音が聞こえた。
ゴリアテ先生はどこか冷ややかに自分達を見る。
『…まずは水魔法の初歩、水の操作を教えよう。全員、池の水に触れ念じてみろ。』
皆で池に手を入れてみる。
『え!?』
突然水に手を掴まれ池の中に引き摺り込まれた。
池は存外に深い。溺れてしまうとパニックになりバタバタともがいた。程なくして、普通に水面に浮いていることに気づく。
『あ、そっか。ペンギンでした。』
「大丈夫か?」
ユーキが頭の上に救助してくれる。
『あ、ありがとうございます。』
「別に。だが、あの魚、一体どういうつもりだ?」
故意に池に引き摺り込むとは先生は自分達に何かしらの敵意があるようだ。
『水操作・回転』
静かだった池に先生を中心に回転の流れができる。勢いが強く引き込まれた生徒達が流され始める。
『わぁぁぁ!?目が回りますー!せんせーやめてくださいー!何故こんなことをするんですか!?』
『…何故?何故だと?それはこちらのセリフだ。貴様らから息子達の臭いがするのだ。何故なのか教えてくれるか?ああ、嘘はわかるからな?正直に答えた方が身のためだ。』
『!?』
やはり昨日食べたゴリアテは先生の家族だったらしい。
『バ、バルバトス校長です!バルバトス校長が先生の家族を網でいっぱい捕まえてました!私達はその一部をもらっただけです!』
『なんだと!?バルバトス校長がそんなことをするはずがないだろう!嘘をつくならもっとマシな嘘をつくがいい!』
回転の速さが増す。ユリは正直に答えなければ良かったと後悔した。
「違う、私達が食べたんだ!そいつは捌いただけでほぼ食べてない!ほぼな!すまない!あなたの家族とは知らなかったんだ!」
マイが誠実に謝罪する。ユリを庇っているようで庇っていないことには気づいていない。ゴリアテ先生が『そうか…』と落ち着きを取り戻す。
『知らなかったのならば仕方がない。起きてしまったことは取り返しようがないからな…。それで、息子達の最後はどのようだった?』
「生きたまま皮を剥いて捌いて刺身と肝醤油にして食べたよ。」
エデンの言葉にゴリアテ先生は目と口を大きく開け唖然とする。ユリは思わず額を押さえた。
「美味かったな?身も肝もないのにびくんびくん動いてて面白かったよな?」
ボドーが畳み掛ける。
「最後は生ごみに出した。」
ユーキがトドメをしっかりと刺す。ユリは一同の不器用さに涙を流さずにはいられなかった。
情報の処理に時間がかかっているのか、ゴリアテ先生は唖然としたまま固まる。
『……あ?……ああああ?』
ゴリアテ先生は顔を横に振りながら『あー!あー!』と悲鳴を上げ続ける。衝撃と否認を繰り返しているのである。
そして、次のプロセスに移行した。
怒りである。
『この、この人でなしどもがぁぁああああああ!!』
ゴリアテ先生が慟哭し水の回転を全開にする。速度が倍になり生徒達から悲鳴が舞った。
『このままでは皆溺れてしまいます!ユーキ、エデンさんのところに私を投げてください!』
「…あのダークホースに託すのか…仕方がないな。」
ユーキがユリをエデンへ目掛けて投げる。頭の上に器用に着地できた。
「お、君はユーキの使い魔ちゃん。どうしたの?」
『エデンさん!魚先生と逆の回転を作ることはできませんか?』
「できなくもないと思うけどできるかな?初めてだけど。」
『エデンさん以外にゴリアテ先生を上回る魔法を使える人はいません!エデンさんだけが頼りなんです!』
「!」
その言葉にエデンの勇者スイッチが入る。
「おっけぇい!僕に任せて!初めてだけど!」
『水操作・反転』
逆の回転によりゴリアテ先生の流れが相殺される。
ユリや生徒達はすかさず池より上がる。次に起きることは予想できていた。
池にはゴリアテ先生とエデンが残される。
流れが反転し始める。
「あ、止め方わかんない。」
徐々に勢いが増していき、先生以上の回転となった。
『ぬぉぉおおおおおお!?』
「うわぁぁぁあああ!?」
先生とエデンは高速で回り続ける。
(エデンさん、あなたは素晴らしい勇者です!)
ユリは心の中で敬礼をした。
30分後、池には目を回したゴリアテ先生とエデンが浮いていた。
そこにことの発端であるバルバトス校長が白い袋を持ってのうのうと転移してくる。
「ほう。荒ぶるゴリアテを鎮めたか。見事だ。」
バルバトスはエデンに持っていた袋を一つ乗せ転移した。
その日の夜、ユーキの部屋にて。
岩盤浴に入る準備をしていた時、不意に部屋の呼び鈴が鳴る。
『あれ、誰でしょう?』
「勇者達に決まってるだろ。」
しかし、呼び鈴を鳴らしただけで扉を開ける様子がない。合鍵があるはずなのに今日はどうしたのだろう。扉を開けてみると、エデンが満面な笑顔で立っていた。
「やほ!見て見て!これ、バルバトス校長からもらったんだよ!」
『わぁ、すごい量!蟹ですね!』
エデンは袋の中身を見せてくれる。身を膨らませた蟹がぎっしりと入っていた。
マイとボドーがお菓子とお酒を両腕に抱えてにこにこしている。また一緒に部屋飲みがしたいようだ。
「「「いーれーて!」」くれるかな?」
ユリは喜んで勇者一行を迎え入れた。
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