5話 風魔法の授業


 次の日、ユリ達低級クラスは風魔法の授業を受けることになっていた。教室の中には上級クラスであったはずのエデンの姿があった。


『マイさん、なんでエデンさんここにいるんですか?』


「エデンは色々やりすぎたからここに落ちてきた!それだけの話だ!」


マイとの会話が聞こえたのかエデンの背に哀愁が漂い始めた。昨日言わなかったのは隠しかったからなのかもしれない。エデンにはできるだけ普段通りに接することにした。



 授業が始まり、翼を持った飛翼族フリューゲルが教段に立つ。


「あたしは風魔法担当の教師クルィーロよ。これからあなた達に風の魔法の中でも、簡単で色々な用途に使える魔法を伝授するわ。」


「了解した!『風の砲弾』」


いきなり魔法を唱えたのは早とちりの女王マイである。砲弾のような風にクルィーロの長い髪が一房弾け飛んだ。


「話は最後まで聞きなさい!」


マイは砲弾のように教室の外へ吹き飛ばされていった。


『風の守り』


クルィーロの周囲に風が纏わる。


「これが風の守り、自分に飛んでくる矢や魔法の攻撃を風の力で逸らすことができる魔法よ。練習してみなさい。」


生徒達はすぐにはやらずお互いをちらちらと見ている。皆失敗を恐れているのだ。


「やってみないと何も始まらないじゃない。失敗を気にせず思いっきりやってみなさい。」


雰囲気が高飛車に思えたが意外に気遣ってくれる。


「あんたは才能あるわね、その調子よ。魔力が少なくてもこの魔法は使えるから諦めないことね。あんたは…まぁ…頑張りなさい。」


クルィーロは生徒達を順番に指導していく。


ユリも風の守りを唱えてみる。何か起きた様子はない。


『先生、教えてください!どうすればできますか?』


クルィーロは何も言わずに通り過ぎる。先生に無視されたと知り、ユリはショックを受けた。


ユーキも風の守りを唱えてみるが、風は吹いたり止まったりと不安定である。


「だめね。風への敬意が足りないわ。」


ユーキは「けいい?」と首を捻る。


最後はエデンである。


「よーし、思いっきりいくね!『風の守り』」


エデンを中心に風が吹き荒れていきたちまちに竜巻が起きた。教室内は物と人が舞い飛び地獄絵図と化する。


「思いっきりやりすぎよ!教室を壊すつもり!?今すぐやめなさい!」


「いやまだいける!あともう少しでいける!多分いける!」


「ひとりで逝けーーーー!!」


その教室は崩壊ししばらく使えなくなった。



 その日の夕方、学校の屋上にてユリはユーキと共に黄昏れていた。


クルィーロは自分を何故無視したのだろう。何も言わなくてもその内できるようになるということなのだろうか。それとも何を言ってもできる可能性がないということなのだろうか。後者は悲しすぎた。泣きそうになってきたのでそれ以上考えないことにした。


『ユーキはいいですよね…風に敬意を持てばできるそうじゃないですか。』


「風などにどう敬意を払えと言うんだ。」


ユーキが身体強化と回復魔法しか使えない理由はそれである。周囲に関心がないために自身以外に影響を及ぼす魔法を行使することができないのだ。


「にゃあ!」


びたん!


お困りかな!と言いながら顔から不時着したのは最強の魔法使いアルマだった。


『大丈夫ですか!?』


「にゃあ!にゃあにゃあ!」


大丈夫!臨時教師として生徒のサポートに回ってる!敬意が足りないなら風の逸話を教える!とアルマがにゃあにゃあ語り始める。


風の精霊は元々エルフの少女だった。ひとりの友達にパンを持っていこうとして殺されてしまい、その友達に会うために必死に努力し風の精霊として蘇ることができた。その後、その少女はその風の力で幾度も戦争を無血で終わらせることができたという。


アルマがということで魔法使ってみて!とユーキに促す。


「単純過ぎないか?『風の守り』」


瞬間、ユーキの周囲に風が纏われた。風の守りが成功したのである。ちびっ子動物であるユリとアルマがパチパチと拍手を贈る。




魔法とは呼びかけのようなもの。風の逸話を聞いたことでユーキの呼びかけに変化があった。『俺に従え、物』から『物じゃないなら俺に従え』に変わったのである。




「単純過ぎないか?」


ユーキが同じことを呟く。


『よーし!次は私の番ですよ!『風の守り』』


ふっとため息のような微弱な風が周囲に一瞬起きる。


「ほう。風の守りを習得できたようだな。」


空からバルバトスが降りてくる。海にでも行ってきたのか大量の魚を生きたまま網に捕えていた。


『私はまだです。』


「今できていただろう。それがお前にできる最大だ。」


『!!』


ユリは酷く衝撃を受ける。どうやら自分はできてもため息程度の風しか吹かせられないようだ。それも一瞬。


クルィーロが無視したのは優しさだったのだ。誰よりも魔法に憧れを持っていたユリは失意のあまりぽてっとその場に倒れ伏した。


「これをやるから元気を出せ。この魚はゴリアテの子供だ。刺身にして肝醤油で食べるといい。酒に合うぞ。」


「もらおう。」


バルバトスからユーキが魚を1匹受け取り無言になる。


「どうした?」


「これだけか?」


もう1匹受け取る。


「どうした?」


「まだあるだろ。」


その後、ユーキは合計5匹の魚をもらうことができた。


「感謝しよう。ユリ、部屋に戻るぞ。」


魚が生きてる間に部屋に戻りたい。バルバトスとアルマにお礼を言い、ユリ達は急いで寮の部屋に向かった。

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