4話 賞品
ユリはユーキと共にバルバトス校長の言う豪華賞品を確認するため、寮の部屋に戻ってみた。
ベッドしかなかった部屋に謎の扉が追加されている。
『何ですこれ!?』
扉を開けてその部屋に入ってみる。薄暗く黒い石でできた空間だった。床が暖かく寝そべりたくなる。看板には『40度 ブラックシリカ 効果:新陳代謝の活性化、こり改善』と書かれている。
さらに扉があり次の部屋にも入ってみる。その部屋は先ほどの部屋よりも温度が高く、床一面に紫の水晶が敷かれている。看板には『50度 アメジスト 効果:治癒力の向上、ストレス軽減』と書かれている。
全部で6室追加されており、一番高い部屋で90度であった。他にも天井から雪が降るクールダウンの部屋やシャワールームまで完備されている。
ユリは理解した。岩盤浴のアミューズメント施設が賞品としてこの部屋に併設されたと。
『うおおおお行きましょうユーキ!!』
振り返るとユーキの姿はすでにない。どこかの部屋ではぐれてしまったようだ。
すぐにでも堪能したいところであったが気持ちよく長居するためにも、飲み水、タオルの事前準備が必要だ。ナンデモヤルキのところへ取りにいこうと寮の扉を開ける。
「はいこれ。」
『ありがとうございます!…え?』
差し出されたタオルと水を受け取り恐怖に固まる。いつからそこにいたのか、エデン、マイ、ボドーが部屋の前に立っていたのである。
扉を閉めようしたらエデンの足がガッと差し込まれ阻止された。
「ごめん、足が引っ掛かっちゃった」と、エデンが薄く笑う。
「ユーキの部屋に岩盤浴ができた気がしたんだ!さぁ入れてもらおうか!」
気の早いマイはすでに岩盤浴着だ。自分の早とちりが間違っていないと確信しているようだ。
「岩盤浴あるよな?友達だし入れてくれるよな?」
確認しながらもボドーの目は笑っていない。有無を言わせぬ雰囲気を纏っていた。
ユリは最後の抵抗に『ペン?』と首を傾げてみた。
勇者一行は部屋の中に突撃し、ユリは吹っ飛んでいった。
ユリはマイに連れられアメジストの岩盤浴にタオルを敷き横たわっていた。
背中がじんわりと暖かく体の芯まで温まっていく。何より熱過ぎないのでサウナが苦手なユリでも心地よく汗をかき安らげるものだった。
「すごく気持ちいいな。疲れが洗われるようだ。ユリがここにいたらさぞ喜んでいたことだろうな。」
『…!』
マイの何気ない呟きにどきっとする。自分はここにいる。ばれていないか不安になり別種の汗が出てきた。
「いや、器用な彼女のことだ。すでにうまく潜入してどこかにいるかもしれないな。」
まんま当たっていてさらにドキッ!とする。さっきから心臓が痛い。真っ直ぐで隠し事ができないマイに気づかれたら全ての人間に知れ渡りかねない。せっかく入れた学校を追い出される訳にはいかない。
唐突にマイがユリのペンギンの体を抱き寄せもふもふし始める。
『ふぎゅ!?』
「すまない。君を一眼見た時からこうやって触ってみたかったんだ。思った通り、君はもふもふで気持ちいいな。」
マイが無邪気に笑う。いつも気丈な彼女とは思えない無防備さに心臓の鼓動が倍増する。
無防備なのは笑顔だけではない。岩盤浴着は下着を取るのである。つまり、マイは今この服の下に何もつけていないのだ。
柔らかい。大きい。良い匂いがする。
同性といえど過激なスキンシップへの耐性はユリにはない。
心臓は今にも破裂しそうな程にドドドド!!と波打っていた。
「…ん、顔が赤いな。照れてるのか?まるで人間のようだ。」
(誰か助けてくださああああい!!)
ユリはマイとの心理戦に大量の汗をかくのだった。
◆
その頃、ユーキはエデンとボドーと共に90度の岩盤浴に入り浸っていた。
他人の部屋に我が物顔で侵入してきたこの二人は常識が通じない勇者一行である。いちいち指摘しても仕方のないことだった。
エデンは全身から汗を吹き出し朦朧としている。元よりサウナのような高温の空間は苦手な印象である。なのに「くそだらぁ…」と底力を出し耐え忍んでいる。何故そこまでして居座ろうとするのかは謎である。
対し、大男ボドーは計り知れない。汗を一滴もかいていなく平然としている。汗をかかないならこの男は何の意味があってここにいるのだろうか。
さらに30分経過。
一度クールダウンを挟もう。すでにことキレたエデンを担ぎその部屋を出る。
「ん?どうした?もう行くのか?」
ボドーはまだここに居座るつもりなようだ。
この熱さの中長時間居座ることが出来る忍耐力。そして意識がなくなった勇者の放置。そんなボドーに戦慄を覚えつつ、ユーキは部屋を退出した。
数分後。
「……うああああ死ぬーーー!?」
ボドーは寒気を感じる程の異常な汗が湧き上がり急いでその部屋を退出した。
色々と遅いボドーは熱伝導性も遅かったのだった。
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