2話 魔法学校とは


 ユリはユーキの使い魔のペンギンとして魔法学校に入学することができた。


門をくぐると、不思議なことに外からの見た目とは全く違う世界が広がっていた。


広大で自然豊かな敷地。見たことのない形状の草木。


空を見ると誰かの使い魔なのか、ドラゴンやガーゴイルが空を飛んでいる。空を飛ぶ練習をしている生徒の姿もみられた。


そんな非日常的な光景にユリは心を躍らせる。対しユーキはそれに関心を示さずに学校の中に進んでいった。



 新入生は礼拝堂にて学校の説明を受けることになっている。新入生は全員で20名程。その中には勇者一行のエデン、マイ、ボドーの姿もみられた。


ユーキを見るなりエデンが駆け寄ってくる。


「やほ、ユーキ!ユリちゃんはどうしたの?」


「ユリならここ『ペン!』…不合格だ。」


「あちゃーやっぱりだめだったか。ユリちゃん雑魚だもんね。」


エデンが苦笑いするのを見てユリはむくれる。エデンは自分が入学できると期待していなかったようだ。誘ってもらえて嬉しかったのに。


「ユーキ、このペンギンちゃんどうしたの?無愛想な君に似つかわしくない程かわいいね。撫でて良い?」


伸ばされた手にがぶっと噛みつく。


「…なるほど。無愛想な君にピッタリな使い魔じゃん。」


ユリは『ペッ』と鳴き捨てた。



 説明会が始まる。まず始めに魔法学校の校長が挨拶すべく新入生の前に立った。強面のエルフの男である。髪は金髪の長髪でその佇まいから十分な貫禄が感じられるも顔つきはまだ若く現役に見える。


「私が校長バルバトスである。諸君、精進したまえ。」


驚きの短さで校長の挨拶は終了した。


次に、勇者一行の猫アルマが臨時教師として挨拶をする。


「にゃあ!にゃーにゃーにゃー!にゃんにゃんにゃんにゃんにゃあ!にゃおにゃおにゃお!」


その場の全員が首を捻る。


「ちっ!」とエデンが舌打ちをしながら手に魔法陣を出す。魔法陣とは魔法を使う際に出現するもので魔法の才能を表している。


「なに、わからないの?『こんにちは。アルマだよ。不器用だけどがんばります。よろしくね』って不器用なアルマが一生懸命挨拶してるんだけど。」


エデンの魔法により校内に不安定な風が吹き荒れていく。エデンは魔法が破壊的に強いが壊滅的に下手なのである。マイとボドーが一生懸命宥めてくれなんとか大事には至らなかった。


「言っておきますが」と話し始めたのは基礎魔法担当の教師セレスティアだった。


「学校の敷地内での戦闘行為は禁止しています。武器もこれから預からせていただきますので。皆様事なきようお願いいたします。」


そのままこの学校について説明があった。


①魔法学校の敷地内は外の世界よりも時の流れが遅い。魔法学校での10日が外の世界の1日に当たる。また、敷地内にいる間は歳を取ることはない。思いがけないトラブルにならないよう、敷地内と外の世界の横断には十分注意する必要がある。


②戦闘行為は禁ずる。ただし、身を守る必要がある場合はこの限りではない。


③在学期間は各自の判断に任せる。


④在学中は学生寮に宿泊することになる。寮で必要なもの、食事については共同スペースにある『ナンデモヤルキ』に注文すれば大抵もらえる。


⑤魔法学校ではなんか不思議なことがいっぱいあると思うけど魔法学校だし深く考えないようにする。


以上。


『最後の何です?』


ユリの疑問に答える者はいなかった。


「ユーキも低級クラスだろ!私と同じだ!よろしくな!」


勇者一行の剣士マイも低級クラスなようだ。ユーキは「よろしく」と短く返す。ボドーは中級、エデンは上級のクラスに振り分けられたとのことだ。


説明会が終わり、ユリはユーキと共に寮へ向かう。共同スペースに一際大きい木『ナンデモヤルキ』があった。『何でも言ってみろ』と挑戦的な紙が貼られている。


『では、寝心地の良い布団をください。』


「ビール。」


木の上から布団とビール缶が落ちてくる。雑魚に受け取れる訳もなくユリは布団の中に埋もれる。ビール缶についてはユーキが上手くキャッチした。


「ほう、なかなか便利だな。」


まあまあ機嫌の良くなったユーキにユリは布団の中でほっと安堵した。



 ユリ達はそれらを持って割り当てられた寮の部屋に向かう。部屋はベッドと収納が少しあるだけでこざっぱりとしていた。


『必要なものはナンデモヤルキに注文すればいいみたいですね。』


「そのようだな。」


ユーキはビールを飲みながら窓の外を眺める。ユリも肩によじ登って外を見てみた。誰かが水の魔法を練習しているのだろう。水の球体が複数浮かんでいて夕陽に反射し幻想的な光景であった。


相変わらずユーキはそれらに興味を示さない。ユリは寂しく思う。自分の我儘に付き合わせているのはわかる。だが、彼は以前より物事に対して関心が薄いのである。


ただの田舎娘だった自分が彼と旅ができて心から幸運だと思う。雑魚ひとりでは知ることができなかった広い世界、愉快な仲間達との出会い。毎日がきらきらと輝いてるように感じる。


でも彼はそうではないのだ。


『魔法の勉強、頑張りましょうね。』


「そうだな。」


自分を狭い田舎から広い世界へと連れ出してくれた。そんな彼の世界に彩りをつけてみせる。ユリは密かに決意するのだった。






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