第13話 片鱗と、約束と言う名のお裾分け
11月。秋も深まり、朝夕は冷えこむようになってきた今日この頃。
2度目の人生でも、やっぱり憂鬱なテストがまた近づいてきた。
もはや恒例らしい勉強会も4名全員参加らしく、いつもの図書館に来ていた。
初めは推しとだけだったはずなのに、いつの間にか2倍になっている。
確かに人数が増えたから賑やかにはなっているだろうが、全員賑やかなタイプでもなく、黙々と勉強している。
前にも思ったが、ここにいる推しと推しの弟、藤堂くんの3人は、テストに焦ることもなく落ち着いていることから、成績良い人達なんじゃないかと考えている。
それか、成績なんて気にしないぜ、という心の持ち主かもしれないが、めちゃくちゃ勉強ができない……という感じでもなさそう。
藤堂くんに関しては、今回も参加していることに驚きを隠せない。
誘われたから律儀に参加しているのだろうか。他のクラスで関わりもなくそれほど親しくはないため、いまだに彼がわからない。
本当に、喜怒哀楽のどこにも当てはまらない、無表情や呆れた顔とかしか見たことないんだが……?
私としては、ちょっぴり気まずい。
そんな私の気持ちも知らず、彼らは勉強を進めている。
気にした方が負けってやつか……?
そうしている間に時間が過ぎていくため、私も勉強に取りかかることにした。
それから、お昼ご飯を食べている時に今まで気になっていたことを少し聞いてみた。
「3人は、今回のテスト大丈夫そう?」
「そうね……悪い結果にはならないんじゃないかしら」
いつもの微笑みを浮かべて、そう言った推し。さすがです。
「僕も大丈夫だと思うよ」
「……僕はもう少し勉強するよ」
推しの弟も何だか余裕そう。一方で、藤堂くんは遠回しの言葉だけど、少し不安なのか完璧主義なのか……
でも、人間味あっていいよ。
いつも無な感じだからこそ、余計にその態度が親しみを感じさせて、むしろ私の好感度が上がった。
「小松さんは?」
先ほどの笑顔のままの推しの弟に聞かれた。
「私も、もう少し勉強しようかな」
私がそう言うと、推しの弟が1度頷き、「じゃあ後少し頑張ろうか」と言った。
それからご飯を食べ終わり、また勉強を始めたのであった。
それにしても、やっぱり推しと弟の姉弟は、勉強ができる人達なのだと再認識した。大体のことに動じないし、もはやあの2人には人間味を感じておりませんので、羨ましさは感じません。
藤堂くんにはそのままでいてほしいものである。
……あ、でも、もう少し笑顔とか増やしていただけると私の心の安定には良いかもしれない……
その日は、藤堂くんにちょっぴり親しみを感じ、推しと弟には親しみとは逆の、私とは違う世界を生きているような、そんな片鱗をみた日でもあった。
───
今回のテストも無事終わり、もう11月も終わりそうだ。
と言うことで、お菓子を作りませう。
喜ばれるとやっぱり嬉しいもので、また作ろうと思った訳であります。
推しの弟にもほしいと言われましたし、ふたりのお返しにさらにお返ししなくてはいけない気がするので。
約束は忘れないうちに、早いうちに。
なんて思っていたものの、後僅かだった11月はとうに終わり、実はもうすでに12月になっているのだか、そんなことはどうでもいいんだ。
まず、冬になると畳み掛けるようにイベントが続くではないか。日本人はイベントが好きな人が多いのか?
……いや、日本人関係ないな。ただ海外のイベントをやることで購買意欲とか高めたいとかそんなことかもしれないし。
イベントが好きな人もいるかもしれないが、私はイベントが好きな訳じゃなくて、イベントを通して何か食べるのが好き。だから、ハロウィンやクリスマスなどは、そんな私にとっては素敵なイベントなのだ。
まぁそんなことは置いといて。
問題は何を作るかなんだけど、前と同じクッキーにするのも何か違うような……
プレゼントしやすそうなマフィンにしようかと思っていると、カップケーキが目に入った。
見た目は似ているが、マフィンはパンの一種で、カップケーキはケーキの一種らしい。
今回は、馴染みのあるマフィンにしようと思うが、いつかカップケーキにも挑戦してみたいものである。
私の中で定番のマフィンは、チョコチップが入ったプレーン、ベリーが入ったココアのもの。
そう言えば、推しの弟に苦手なものとか聞いてないな……
携帯でささっと聞いてみると、推しと同様に特にないようだ。比較的早い返信で、今日作りたい私としてはありがたいことである。
あまり気にせず作ろうとは思ったが、初めは無難に行きたいので、チョコチップマフィンに決めた。
マフィンを焼いている間、他のお菓子のレシピを調べてみる。
パウンドケーキもアレンジがきくお菓子だが、マフィンと同様に型がなくては作れない。型を代用して作ることはできるし、紙製の型も売られている。頻繁に使用するなら金属製の型を買っても損ではないだろうが、まだ作ったことはないため、紙製の型で作ってみるのがいいだろうか。
それ以外にも気になるレシピを見ていると、焼き上がったため取り出してみる。
調べるのに夢中で、様子を見ることができていなかったが、いい感じに焼き目がついているようで安心した。
マフィンはクッキーと違って重量感があるし、たくさんはいらないと思って、そんなに作っていない。
ひとり1個になるが、特別な日でもないからそれでいいかな。
ひとつ味見をして確認した後、ラッピングをする。今回も凝ったものではなく、シンプルなもので行く。面倒くさい訳じゃないよ、うん。
後日、お裾分けと言って推しと弟に渡した。ついでにはなってしまうが、推しの弟と一緒にいた藤堂くんにもあげた。
「ありがとう。約束覚えててくれたんだね」
「まぁ……お裾分けだけどね」
「うん、ありがとう」
推しの弟がまた嬉しそうに頬をほころばせるから、私はどうすることもできないのだ。
そんな私を、また無表情で見てくる藤堂くんがいるけど。
ちなみに藤堂くんは、差し出されたマフィンに不思議そうな顔をしてから、無表情で「ありがとう」と言って受け取った。
それから、推しと弟に美味しかったと言ってもらえたところまでは良かったんだけど、また高そうなお菓子をもらってしまった。
おすすめだとか、美味しかったから食べてほしいとかで渡されるのだから、断りづらく、結局もらってしまっている。
これは誰かが断ち切らない限り続いてしまう予感がしたし、もはや餌付けされているのかと疑問を抱いてしまった。
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