第4話 仲良くなりたい
あれから数日が経ち、中学校という環境に慣れてきた。
数日の内で特筆することと言えば、給食のことだろうか。
ゲームで推しの食事シーンなんてないが、食堂とかで優雅に食事をする姿を想像していたためか、なんとも違和感があると言うか……
決して給食が悪い訳ではないのだ。むしろ好き。大人になってから食べる機会がなくて悲しかったため、今、もう一度中学生になっても食べることができて嬉しい限りであります。
ありがとう、太陽と大地といった自然よ。そして食材を育ててくれる農家さん、献立を考えてくれている方々、作ってくれている方々に、食べさせてくれる両親よ。関わる人達に感謝でございます。おいしいです。
ただゲームの中にいる推しが現実にいることが不思議で仕方がないのだ。
それに給食を配膳してる推しって──
可愛いよね。ちょこまかしてて。
なんだか親のような気分になるよ。子ども産んだ記憶も、育てた記憶もないけど。
言うなれば、親戚の子どもとかこんな感じだったのかもしれないが、そこら辺の記憶はおぼろ気なのだ。推しとか趣味の記憶ばっかり残っております……
ただ、推しを見ていて実感した。ゲームと実物だと違うことを。
中学生と高校生だからってこともあるだろうけど、思ったよりも親近感がある。
普通に笑うし、ご飯も食べる。きっと泣いたり怒ったりすることもあるだろう。
そんな当たり前なことを、実際に目で見て感じて、やっとわかった。いくら言動が大人っぽくても、推しも同い年の女の子なんだ。
これが現実だとわかっていても、いまだに推しが現実にいることに慣れることはないし、推しは推しとしか見れていないが、時は無情にも過ぎていく。
ちなみに、私は推しの友人枠に入ることができたようで、よく行動を共にするようになった。それで必然的に、推しの新しい情報も自然と手に入るようになったことは嬉しい限りだ。
推しとは小学校は別だったらしい。同じ学校でも出会えたかどうかは定かではないが、違う学校なら出会えなかったのも無理はない。
あと、私の家と推しの家はそこまで遠い訳ではないが、近い訳でもないとのこと。推しの家ってどんな感じなのだろうか。全く想像がつかないが、いつか行ってみたいものである。
そのためにも、少しずつ仲良くなりたい。
「ねぇ、栞さん。部活はどうするかもう決まってる?」
「そうね……美術部が気になっているの」
「わ!私も美術部気になってた!」
「本当?なら一緒に行きましょう」
同じ部活なら接点が増えるし、より仲良くなれそう!
この学校は特別な理由がない限り、生徒全員が部活に入ることになっている。
運動系と文化系があって、文化系は吹奏楽部、合唱部、美術部などがある。私は以前からイラストを描くことが好きであったため、美術部であればそういったこともできるのではないかと思っている。それに、たとえイラストといったことができなくとも、デッサンなどをすることでイラストを描く上でも参考になるだろう。
そうして私と推しは、見学と体験入部を経て、美術部に入部することになったのだった。
───
「栞」
「
放課後、帰り支度をして部活へ向かおうとしていると、ひとりの男子がやってきた。
え、誰だ? 推しの知り合いみたいだけど……
何だかとっても親しそう。どういう関係か気になる……
と言うか美男子なこともあって、目の保養だよ。美男美女……
思わずじーっと見つめていたら、視線に気づいたのか、目が合ってしまった。
「はじめまして。榎本弦です」
「はじめまして……小松紗綾です」
「栞がお世話になってます」
お世話?
「紗綾さん。弦は双子の弟なの」
「双子……」
新たな事実が発覚した。推しに双子の弟がいたなんて………
通りで親しげだし、名字が同じで美形なんだ!
男女の双子はほとんどが二卵性だと聞くけど、ふたりは似てるかも……
それにしても笑顔が似てて、推しがふたりいるみたいでしんどい……
ここはどこ……天国ですか……いやゲームの世界でしたね。
「栞さん、双子だったんだね」
「ええ、可愛げのない弟だけどね」
「今からでも姉さんって呼んだ方がいい?」
「遠慮しておくわ」
「でしょ?」
言い合いしてるけど、仲は悪くないっぽい……?
「あぁ、そろそろ行かないと。じゃあまたね、小松さん」
「あ、うん。また」
時計を見てから、爽やかな笑みを浮かべて嵐のように去っていった。イケメンだ……
「モテそう……」
「そうかしら」
「わ!」
思わず呟いた言葉を聞かれてしまった。恥ずかしい……
「いや!ふたりとも美人だなって思って!」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ。それにしても……」
推しはふふふと楽しそうに笑っている。
えぇ?何それ可愛いんだけど……
あとお世辞じゃないです。あなたは私の推しなんで……
「どうしたの?」
「何でもないわ。さぁ、私達も行きましょう」
絶対楽しそうにしてたのに……
教えてくれなかったため、よくわからないが、何か上手く誤魔化されたような……
これが推しの弟に懐かれるきっかけとなり、彼と関わりが増えていくのだが、この時の私は思いもしていなかったのであった。
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