第3話 決意
推しと出会ってしまった。
下校した記憶はないが、見覚えのある家にいるということはそういうことなのだろう。
ひとまずお布団に入って眠りたい。パニックになった頭をリセットさせてほしい。
ただいま、私のお布団。起きてから考えるから、おやすみなさい……
───
それから目が覚めた私がすることと言えば、この世界について紙に書き殴ることであった。
頭の中を整理するのには、やっぱり紙に書くのがいいってどこかの誰かが言ってました。
それにしても、ここはゲームの世界だったのか?
あの推しは幻?同姓同名の見知らぬ人?
えぇ?
よくあるやつ?神様とか出てきて、
「あなたの好きな世界へ転生させました」
みたいなの。……出てきてくれないから、わかりませんが!? 誰も教えてくれなかったよ!?
でもここ日本なのに…… 47都道府県だって存在してる。地図帳で見たもの。
日本だけど、私の知ってる日本じゃないってことか……
誰かに当たり散らしたい気持ちでいっぱいだった。そんなことしたって意味ないのに。鬱憤を吐き出すように、深いため息を吐く。
たとえ推しがいる世界だとしても、不安に駆られてしまう。
次はまた、違う世界で目が覚めるかもしれない。そこはここよりもっと、平穏とは言えない場所の可能性だってある。
今はまだ大丈夫だけど、死ねない恐怖に苛まれることもありえるだろう。
不安に思っても仕方がないことだとしても、どうしても考えてしまうのだ。
死にたい訳ではないけれど、ずっと生きていたい訳でもない。永遠に生きることなど、私は願った覚えなどないのだから。
携帯を開き、検索にかける。
画面には『私立鶯森学院』のホームページが表示されていた。
───
昨日は精神的に疲れきっていたのだろうか、もう一度お布団に入ったらストンと眠ってしまったようだ。
推しに出会ったことで思考は宇宙へ飛んでいき、帰宅した後は地下へと叩き落とされた。
私のHPは0状態だったのだろう。
……なにそれどういう状態? やっぱり疲れ取れてないな。それとも元からこんな感じだったのか?
ちなみに、前の私の世界にあった作品を、以前に記憶がある限り探してみたが、見つからなくて少しだけ視界が滲んだ。
でもこの世界にも面白い作品がたくさんあったことで、少しだけ心の平穏を取り戻せた。
まあ、無性に見たくなる時があるのは確かにあるが、どうしようもないのが実情である。
そして、推しの出てくるゲームも探した。案の定見つからなかったけど、当たり前だよね~。この世界がそうっぽいもの。
この世界に、ゲームの中にあった『私立鶯森学院』は確かに存在していた。そしてあのゲームの舞台は高校で、主人公と同学年だと判明している推しがクラスメイト。そこからわかるのは、現在はゲームの話が始まる前で、主人公とも同学年と言うこと。
そこで思ったのが、主人公達の髪色どうなってるの?ということだった。
推しの見た目は紫がかった黒髪で、あんまり目立つことはないけど、ゲーム通りの見た目である。
と言うことは、主人公達も同じようにゲーム通りの見た目をしてるんじゃないかと思うんだけど……
今まで私が出会ってきた人たちは、黒髪、茶髪とかで、たまに染めたっぽい人いたけど、主人公達って染めたのか?
地毛で派手な髪色してるなら目立ちそうなのに、主要人物だからそこら辺は気にされないってことなのかもしれない。
出会ってないから知らんけど。
はぁ。学校へ向かう足取りも、心なしか重く感じる。それでも行かなくては。
ここがゲームの世界だとしても、確かに私は生きている。もうこの世界で何千回と眠り、そして起きてきた。
現実味がなくとも、ここが現実であると私は知っている。これが神様の悪戯であろうとなかろうと、生きていくのだ。
私の名前はゲーム内で出てくることはなかった。どうしたって、この世界では私は主要人物ではないようだし、ストーリーもなにもないだろう。
先の未来がわからないなんて前と同じだ。それならゲームに関係なく生きてやる!
そう決意を新たにして、目の前にあった教室のドアを開けた。
教室にはちらほらと人がいて、声をかけてくれた数人と自己紹介をしていく。
中学でも浮いた存在となってしまうかもしれないが、もう少し友人ができるといいな……
「おはよう」
背にしていた教室のドア付近から聞こえてきた声に、思わず振り返った。
「おはよう。小松さん」
「お、はよう。榎本さん」
推しと挨拶を交わしている……!
いつの間にか他の子達はいなくなったみたいで、推しが真っ直ぐ私を見ていた。
それにしても、推しは挨拶の時に名前(先ほどは名字)を呼ぶタイプなのか……
ゲームでは知り得ない情報を手に入れてしまった。喉から手が出るほど得たかった、どこかにあるであろう設定資料。推しの設定がどこまであるのか気になっていたのに、結局わからず終いだった。
親しくなれば、もっと推しについて理解できそうだけど…… 遠くから見るのも良さそうである。
……あ、ストーカーじゃないです。クラスメイトの域は超えないんで。タイプが合わないこともあるでしょ? 推しと無理に仲良くなる気はないんで、本当に。
誰に弁解しているのか……やっぱり疲れてるんかな。
「ねぇ」
「……はい!」
「紗綾さんって、呼んでもいいかしら。私のことは栞と呼んでもらえたら嬉しいわ」
なん、だと…… 2日目にして名前呼びなんて、展開が早くないですか!?
えぇ?それが普通なのか? 私着いていけないかもしれない……
「……もちろん!栞、さん」
気を抜いたら、推しと呼んでしまいそうです。誰か助けて。
「ありがとう。仲良くなれたみたいで嬉しい」
ぐっ……!ゲームの時より幼い笑顔が可愛い……!
心なしかお花が飛んでいるようです栞さん!
そんなこんなで(?)推しと仲良くなれそうです。
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