第3話 醤油みたいな味に
「さっさと、手を引っ張りなさいよ! このクズ」
「………」
コイツ。
何故、自ら立ち上がろうとしない。僕と正面衝突しただけだ。トラックや車ではない。見た所、怪我も無い。目に見えない所は分からないが、こんな元気に喚いているヤンキーに、優しくする義理が何処にあるだろうか? 真摯に謝罪で、終了のお知らせではないのか?
ってかこのオネェヤンキー。いつまでそのキャラを押し通すんだ。
もういい加減、吐き気がして来た。
もうツバを吐き掛け、逃げて良いんじゃないのかと、思い始めている。
いや、ここは真摯的に、手を差し伸べるか。
こんなオネェヤンキーでも生きているんだ。
多様性の時代だから、こんな奇天烈で奇っ怪な存在でも必死に生命を繋ぎ止めているんだ。
それを異物と割り切って、腹にナイフを刺して、抉る行為は止めよう。
手を差し伸べれば、良いんだ。
そして、謝ろう。
謝れば良い。
同じ学校で、案内があーだーこーだと、のたまわっていたけど、謝罪の後で実行する訳が無い。謝罪の後は、金輪際、関わらない。旅先ですれ違った人くらい、どうでもいい存在に成り下がる。
そうと決まれば、手を差し出そう。
僕は恐る恐る、手を出す。
「ほんっとクズ。こんなか弱いガールを放置し過ぎだわ。もうプンプン」
コイツがか弱いガール?
そんな事を恥ずかしげも無く、言うのか? もうコイツは頭がバグっている。関わっていけない生物だ。
早く、立たせて、立ち去ろう。
「掴まって」
「ふん。言われなくても、掴まるわよ」
手が握られた。
なんだこの感触!?
まるで、厚い革手に握られている感触だ。多分、ゴリラやオランウータンに手を握られてたら、こんな感じなんだろう。
握られた瞬間、人生の終わりが過ぎった瞬間だった。
僕は恥ずかしながら、死を受け入れた状態になり、全身の力が抜けてしまった。なので、コイツに引っ張られる様に、倒れ込んでしまった。
「「!?」」
そして最悪な事に、僕はコイツと唇が重なってしまった。
こんな状況なのに、僕はコイツとのキスを味わっているのか、ほんのり醤油の味がする事に気が付いていた。
続く。
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