6.旧世界資料館の魔女 —筆—
奈落のネザアスは、意外なことに結構字が綺麗だった。
そして、こと、鏡文字を書くのが得意。
それは彼が左利きであることと、無関係ではない。
テーマパーク奈落。
文月のエリアも今は廃墟だが、七夕に関した建物やイベントが多く設定されていたらしい。笹が設置されていて、願いを書いた短冊を結ぶことができるようになっている場所がいくつもある。そのほとんどは壊されていたが、いくつかは無事に残っている場所もあった。
願いを書くための短冊が置かれている一角。そこに置いている筆で、何やらサラサラとかきやるネザアスの手元を見る。
そこも鏡文字で何か書かれていた。しかも長文に見える。
「ネザアスさん、願い事、読めないよ?」
「あたりめーだろ。暗号文だぜ。これは、笹と一緒に流さずに、別途ここに置いていくんだ。もしかしたら、読めるやつの手に渡るかもよ」
彼のそれは、ただの鏡文字だけでなく、複雑に暗号が絡んでいるのだ。
「昔はよくこういう遊びしてたからなー」
テーマパーク奈落の番人であった彼は、当時はもっぱら来場する子供達の面倒を見ていたらしい。このテーマパークは、最終的にフジコのような改造される、才能ある子供達の心を癒す為の場所になっていて、案内人の彼は子供の面倒をみることが多かった。
戦闘用で乱暴で、時に高揚感に酔うようなネザアスだが、子供達の面倒は熱心に見ていたようだ。
「別におれは子供好きじゃねえんだぜ」
言い訳のように彼は言う。
「任務って与えられたから、ちゃんと完璧にしようとしただけだ。餓鬼どもってなー、普通にしてると話聞いてくれねえの。恐怖で抑えつけるだけじゃダメだし、それじゃあ、どうしたら話聞いてくれるかなって、いろいろ研究したんだ」
そうして、どうやら、無意識に自分に好感を向けさせるような言動をとるようになったらしい。が、それはそれで、なんとなく罪深いと思うフジコだ。
そりゃあ、無意識だろうけれど、自分に興味を向けさせるその行動は、年頃の女の子たちには毒だ。基本的に少女達には分け隔てなくお姫様扱いをする彼だ。ちょっとワルっぽいのも、いけないと思う。
そもそもが鈍感な上、フルタイプ製造の戦闘のための黒騎士の彼に、恋愛感情などというものが存在するのかどうかも謎。
そんな彼だと知っていても、フジコのようにその好感が淡い恋情に変わることは珍しくない。
「そういうお前は願い事を何て書いたんだ?」
七夕の願い事は、芸事についての上達を願うものらしい。もちろん、それについても書いたけれど。今、フジコが書いたのは別の願い事だ。
「歌がうまくなるようにか? お前、十分上手いじゃねえか」
「えっ、あ!」
ひょいと覗き込まれそうになって、慌ててフジコは短冊を抱え込む。その顔が赤面していた。
「だめ! ネザアスさんだけは見ちゃだめ!」
「えー? なんでだよ?」
ネザアスは不本意そうだ。
「とにかくダメなの!」
そうやって、短冊を隠した理由すら、奈落のネザアスにはわからないかもしれない。
その短冊には、彼といつまでも一緒にいられるように、とそんなことが書いてあったけれど、彼はだって、この感情を理解してくれなさそうだ。
奈落のネザアスは乙女心がわからない。
*
「
通信相手は、モニターの中で腕を組む。
黒髪の美少女は、長い髪を三つ編みにまとめている。その能力から情報が見えすぎるという理由で、伊達眼鏡をかけているらしいが、特に目が悪いわけではない。証拠に彼女と会うのは、こうした通信端末のモニター越しだが、眼鏡はかけたり、かけなかったりである。
「ええ。そういう事例はないかしら。治療中の騎士とか」
ウィステリアがそう尋ねると、少女は大きな目を瞬かせた。顔はあどけないが、理知的な雰囲気がある。
「そういうのは、グリシネに聞いた方が早くありませんか?」
「あの人とは、そういう私語を話せないでしょう」
魔女を統括して管理する立場のグリシネは、しかし、事務的で厳しい女だ。
仕事と無関係な話には乗ってこない。雑談などもってのほか。今のはギリギリ仕事と関係があるが、深く探られたくない。
泥の獣ユーネのことは、当然グリシネ含め中央局には秘密だ。
「それに、イノア。あなたなら、なにか知っているかなと」
文月の魔女、フヅキ・イグノーアは、イノアと通称されていた。
「イグノーアは、ややネガティブな気配を含む名前なので、私のことはイノアと呼んでください」
と、彼女は親交のある相手にそう告げる。ので、イノアと呼ばれている。
彼女は十二月の魔女の生き残りの一人で、ついでにいえば、ウィステリアが直接連絡の取れる数少ない魔女だった。
通常、魔女同士はあまり連絡を取らない。取るとすればグリシネを介することが多い。ただ、イノアは、その性質上、魔女達に情報提供を行う為、中央局に気兼ねなく定時連絡として直接連絡を取れた。
彼女は、その能力と派遣部署のおかげで情報通なのだ。そして、情報処理に長けた彼女との通信は、中央局にも破れない高度な暗号で守られており、監視役のグリシネにすら知られずに行われる。
そんなイノアが首を冷たくふる。
「そんな筈はありません。感染した強化兵士は、治療しなければ囚人、つまり泥の獣になります。初めはまだ理性がありますが、それとて中枢神経まで冒されて、必要以上にハイになり、万能感に支配されて攻撃的になる。肉体より精神の方が先に侵される」
イノアが伊達メガネのズレを治す。
「このことは、貴女も魔女ならご存知でしょう?」
「え、ええ、やはりそうよね」
まあ、親交はあるのだが、フヅキ・イグノーアもなかなか癖のある魔女だ。
あどけない少女の外見に、この生意気な上から目線。
とはいえ、魔女の見かけはアテにならない。実年齢と見かけは違う。
ウィステリアの場合は、運良く大人の姿になれたが、イノアはおそらく少女の姿のままなのだろう。
ただ、ウィステリアが知る限り、それでもイノアは年下だ。その割に大人びた、冷たく事務的な物言いが、ちょっと腹の立つことがないわけではない。
イノアはグリシネを彼女より事務的だと嫌っていたが、若干同族嫌悪の気配がある。
(まあね。魔女は色々あるもの。こういう性格になった理由もわかるから、あたしは怒らないけどね)
魔女の人生は悲哀と孤独に満ちている。同じ魔女のウィステリアにはそれがわかるから、特に年下の彼女を責める気にもあまりならない。
「ありがとう。ちょっと確認したかっただけなの」
「その事例、少なくとも、ここ、旧世界情報資料館の資料にはなさそうですね」
頭ごなしに否定した割に、イノアは気になるのか、ざっと検索を始める。
旧世界情報資料館。
文月の魔女、フヅキ・イグノーアの派遣先は、博物館のひとつだ。電子情報だけでなく、膨大な紙の資料を保管する場所であるが、彼女はその能力を使って、アナログ情報をデジタルに取り込む仕事をしている。
そのアナログ情報には、大変古い資料が含まれているが、それはデジタル上消したはずの機密データを含んでいるらしかった。
イノアがここにいるのは、そうしたデータに、例の"悪意"が含まれている可能性があるからである。汚泥に含まれる黒物質はそうした悪意の命令に染まると凶暴化し、いわゆる
魔女はそうした傾向を察知し、浄化の力で沈静して対処する。そのために彼女はそこにいた。
その忘れ去られたようなアナログ資料館も、この灯台と同じで、誰もいないし、誰も訪れない。ウィステリアには、イノアの孤独がよくわかる。
「ああ、そういえば、灯台の島近くに新しく強化兵士の派遣がありましたね。その件と関わりはあるのでは?」
「ああ、新型の? 黒物質を投与の"獄卒"?」
「いえ」
と、イノアは目を細める。
「新型の白騎士です」
「白騎士?」
白騎士は、黒騎士や魔女と違って稼働自体はしている。が、流石に新規作成はされていないと思っていた。
「過去の優秀な強化兵士の複製体を使って、新型兵士を作っているようです。彼等が数名、貴女の灯台の近くに派遣されていますね」
イノアは、ふむとため息をつく。
「もしかしたら、その新型白騎士が負傷したなら、理性を残したまま、囚人化することはあるかもしれません。まだデータがないのですが、かなり汚染対策がなされているとききましたからね。もしかしたら、感染したものの、自我を失う前に助かることも」
「ああ、なるほど。そういうのもあるか」
ウィステリアはうなずく。
「グリシネが白騎士の部隊に行方不明者が出たと言っていたの、それかしら」
「ええ。隊長格に犠牲が出ているので、相手の獣が強いのでしょうね。近々に新しい白騎士の隊長が派遣されます」
「あら、そうなの」
「私は彼を知っていますが、なかなか素敵な男前のおじさまですよ」
「それはいいわね」
ウィステリアが気のない返事をする。実のところ、ウィステリアは大して美男子に興味がない。が。
「でも、いけませんよ、ウィステリア」
ずいとイノアが強めにいう。
「負傷した白騎士とはいえ、安易に男性を匿うと妙な噂を立てられます。そんなものを見かけたからと言って……」
「だ、大丈夫。そんなの、拾ってないから」
嘘は言ってはいない。
ユーネは勝手に家に遊びにくるだけ。拾ったわけでも匿ったわけでもない。
「貴女はすでにそういう良くない噂があります。前線で男性と懇ろになって食い物にしたとか」
「それねえ。本当のところ、あたしに身に覚えはないんだけどね。まあいいわ。あたし、中央局には嫌われてるもの。なんとでも言えばいい」
やさぐれた雰囲気が、周囲にそう思われるのか、彼女は口さがない男達になにかと妙な噂も立てられやすい。
(あたしのオリジナル、フジコ01はアバズレだったもの。あたしだって、そう見られるの仕方ない)
ふとため息をついたところで、イノアが真剣な目をした。
「時にウィステリア。貴女は、何故、魔女をやめないのですか?」
「え?」
いきなりの質問にきょとんとする。
「貴女の噂の真実がどうとか、知りません。しかし、魔女を辞めていったものには、男性と結婚して幸せになりたいという理由で辞めたものも多い。高位の魔女でも、グロリアにロウテシアなどはそうでした。貴女は、魔女の役割を捨てて、幸せになろうと思わなかったのですか?」
そう尋ねられて、ウィステリアはふと無意識にペンダントを握る。
「その島に派遣されるのは、島流しも同然。私と同じで、他のものとの接触はほぼないのですよ? あの優秀なヤヨイ・マルチアですら失踪したような、危険な場所でもある。貴女は何故ひとりでその島にいてまで、魔女を続けるのです?」
「そうね」
ウィステリアは答える。
「あたし、貴女が思うより、魔女としての任務にやりがいは感じているの。あたしがここで歌って、守られる人もいるんでしょう」
と、ウィステリアは、お守りの入ったペンダントを手の内で転がす。
「それにね、イノア。あたしには、忘れたくない思い出があるからかしら。魔女を辞める際、大抵その記憶は消されるというじゃない。あたしは、この記憶を忘れて、幸せになれる自信がないのよ。この記憶だけは、なくしたくない。それを奪われてなお、幸せになれるような相手もいないしね」
ウィステリアは、目を細める。
「ひとりで、思い出に浸る生活だって、そう悪くないの」
「そうですか」
イノアは、ふと微笑んだ。
その微笑みの理由がわからずに戸惑うと、ほんの少しイノアが寂しげに言った。
「貴女、私と同じですね」
きょとんとしたところで、イノアが続けた。
「貴女を少し、誤解していました。ウヅキ・ウィステリア。私は、貴女は中央局のいうようなふしだらな女性で、白騎士などと遊ぶのが好きなのかなと。魔女の恋人は白騎士にとっては恐れる相手である一方、ある種のステータスですからね。それを失うと高位の白騎士と出逢えないからかと」
イノアは目を伏せる。
「貴女には悪いことをしましたね」
はっきり言われてウィステリアは苦笑する。
「いいわ。どうせ周りにそんなふうに思われてるの、気づいていたもの」
ウィステリアは目を瞬かせた。
「イノア。それでは、貴女も忘れたくない記憶があって?」
イノアは、そっと腕時計をさわる。それは無機質なファッションを好む彼女にしてはかわいらしい、ピンクのベルトの時計だ。アナログな上、キャラクターのイラストのついた時計盤が、ますます彼女のイメージとそぐわない。
「幼馴染の少年が私にはいました。私の父は創造主つきの研究者でしたが、その少年を父は担当していた。彼と私は親しくしていましたが、やがて強化兵士になりました。しかし、それっきり、彼がどこにいったかわからない。彼は特殊な選ばれた子でした」
イノアは、他人事のように言う。
「しかし、ここに限り、私は彼の痕跡を調べられます。タイムラグはありますが、彼がどこでどうしていたのかわかるのです。ここにはわずかながら新しい機密資料も届きますから。彼が生きていることがわかります」
「貴女はその為に、資料館の魔女になったの?」
「もちろん、私に情報処理能力が与えられていたからですが、ここを希望したのはそうですね」
イノアは、ため息をつく。
「そうなのね。幼馴染さんと再会できるといいけれど」
が、その可能性は低いだろう。相手は特殊な機密扱いの強化兵士。もう時代遅れで不要とされた魔女が、会わせてもらえるとも思えない。
「ああ、それはそうと、思い出しましたよ。貴女に良いものをあげましょう」
突然、イノアは調子を変えてそういうと、画面に細長い古い紙を映し出す。中に書いているのは、不思議な文字。
「これ」
しかし、ウィステリアにはわかる。
「これ、ネザアスさんの?」
「ええ。貴女と任務を共にした、黒騎士奈落のネザアスの残したらしいメモです。資料の中に混ざっていました」
(これ、七夕の短冊でしょ。あの時のかな?)
なにやらびっしり書いてあるのも、当時のままだ。
(あれ、暗号が難解で、結局、何書いてるのかわからなかったのよね)
「これ、あげます。今度の定期便でこっそり郵送してあげますよ、貴女に」
「えっ、いいの?」
ウィステリアは思わず呆気に取られる。
「あたしは嬉しいけど、でも、ネザアスさんのこと、黒騎士のことは、機密性が高いのでしょ?」
「ええ。でもグリシネのおばさまにバレなきゃ大丈夫ですよ」
イノアは、やはりちょっと生意気だ。
「奈落のネザアスは確かに機密事項になっています。あの方のこと、ほとんど公式資料が残されていませんからね。ただ、この資料館には少ないながら情報が存在します。興味深い方です」
といいつつ、イノアはふとにやりとした。
「貴女の、忘れたくない記憶は、きっと彼のことでしょう?」
「え?」
思わずはっと赤くなりかけて、ウィステリアはごまかす。
「な、何言ってるの? イ、イノア、あまりからかわないで」
「ふふ、冗談ですよ。それにしても、奈落のネザアス」
イノア、フヅキ・イグノーアは、ため息混じりに呟く。
「彼、罪深い方ですよね」
その吐息に。
なんとなく。
イノアも彼のことを知っているのかもしれないと、うっすらウィステリアは思った。
彼は、なにせ子供の気持ちを無意識に惹きつけてしまうから。
ウィステリアはちょっとムッとして、心の中で吐き捨てた。
(ネザアスさんの無自覚タラシ!)
*
「へくしゅ」
入江の棲家で、金魚のようなノワルと話をしていたユーネはくしゃみをした。
「なんだロ、おレ、風邪ひカないノニ?」
というか、不定形なユーネには、多分鼻もないのだが。謎にむずむずした。
ノワルは黒い金魚に似ている黒物質の塊で、相変わらずユーネに懐いていた。
ぱきん、と口と左のひらひらで掴んで割ったのは、ウィステリアからもらった強化兵士用エネルギーチャージサプリメントだった。
普段はユーネは、同じ泥の獣を狩って、その溜め込んだエネルギーをいただいているのだが、それを話したところ、ウィステリアが倉庫にあったこれをくれた。
「ノワルにもあげル。コれ、アイツらのエネルギーより美味イ……気ガすル!」
美味いかどうかは、実のところユーネには良くわからないのだが、舌触りが格段に違う。まったりして、より体がぽかぽかする。
「ウィスが言うニハ、アイツらのエネルギーと、コレ、ホトンド同じラシい。新型兵士用さぷリめントてやつ」
倉庫に段ボール箱何箱分もあったらしく、当分困らない。ウィステリアは、これをジャックの餌にしていた。
「ま、そレでも、ウィスのタメ、アイツら狩るケドな!」
ユーネは売られた喧嘩は買う主義だし、この島の周りは綺麗にしておきたい。よほど綺麗に"掃除"しても、前みたいに彼女に襲い掛かる不埒ものが出ないとも限らない。
しかし、食べるのはあんまり気が進まないのだ。コアにあるエネルギーはともかく、あのチップが混じっているのは、どうも気持ちが悪い。同じ食べるならこっちの方が楽でいい。
ノワルにあげた残りを、大きな口に流し込む。ゲル状のゼリーのようなもので、まったりした舌触りがなかなか良い。
「今日、ノワルも一緒ニウィスのトコいこウ。ここ、オれ、留守だと危なイし。お前、小さくテ可愛イカラ、アイツらニたべられないか心配。デ、それ言ったラ、ウィスが、部屋に置いテイイって」
水槽でノワルがすいーと一周する。
「ん。お前ト似たジャックテのもいるし、イイと思ウ」
ユーネは頭の耳のような突起をゆらゆら揺らしつつ、
「ノワル。タナバた、わかルか?」
と聞く。
「この間、ジャックガ、七夕せっと、見つけテきた。モーすぐ、七夕ラしい。デ、オれ、貰ってきた」
ほら、と、ユーネは、短冊と飾りの入ったセットを見せる。
「この島、ササ、あるシ、ウィスが飾っテいいって。楽しミ。ウィス、タナバたの歌歌ってクレるみたイ。ウィス、人魚違ウて言ってたケド、ウィスはドーみても人魚ダカラな。歌トテモ良いゾ」
ウィステリアの歌は、ユーネの毎日の楽しみだ。
「デ、なんて、書こうカナ? 確か願い事、書ク。本当はなんかウマクなるヨウニ」
んー、と彼は目を閉じる。
「おレなら、強くなルようニかなー。あー、デモー」
その辺の枯れ枝をひろって、砂浜に文字を書いてみる。彼の書く文字は鏡文字だった。
「ソーダ。なんか思い出しタ。昔書いたノ、字ガもっとウマクなるヨーにだ。オれ、まあまあキレーな字だケド、もっと驚かせルくらいうまくなりタイよな」
あと、と彼は目を閉じた。
「それト、……誰カに、おレのトコ、キテ欲しかったナ。ダカラ、手紙カイたんダ」
その誰かの名前が思い出せないが。
「マ、いいヤ」
と、ユーネは枝を捨てて、水槽を頭に乗せた。
「さ、行こう。ウィス、そろそろ待ってル」
そう言って、ユーネはウィステリアのもとに出かけていく。
*
『この暗号を解けるのは、アマツノお前だけだ。なあ、お前なら読めたよな? お前とおれだけの知る鏡文字の暗号文。
おれの毎年の願い事は、ここが昔みたいに綺麗になって、お前が遊びに来てくれることだった。
しかし、それも叶わぬことと知っている。
だから、せめてウィステリアとスワロとの旅が細く長く続くことを願っている。そして、おれがこうお前に伝える意味を、どうか理解してくれ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます