第12話 砂地の主

 私は公衆浴場に寄ってお風呂に入り、疲れと共に体の汚れを洗い流しました。

 衛生管理の為に街には必ず公衆浴場があると聞いていたが、こうして利用するのは初めて。

 とても清潔だしお風呂も広くてさっぱりできました。


 着替えは買ってきた古着を着る。

 以前着ていたものより肌触りは悪いが、しばらくすれば慣れるでしょう。


 宿に戻り、簡素なベットに腰かける。

 大きく体を伸ばし、息を吐きだすことで疲れが抜ける気がします。


 そのままベットに倒れこみ、少し出来事を整理してみる。


 天敵が居なくなったホッパーの大量発生。その原因となったグモーター。

 グモーターはあの様子では別のえさ場を探すでしょう。

 ホッパーを餌にしていた鳥型の魔物は随分減っていたみたいだが、グモーターが居なくなった今なら餌の心配もないし、次第にバランスが取れるはず。


 鳥型の魔物は餌があれば人間を襲わない。随分安全になる。


 ここまで考えて、私の希望的観測が随分入っていることに気づいた。

 結果が出るにはしばらくかかるだろうから、見届けるのは難しい。


 私にしては上等な成果を出せたと思うしかない。

 ここからどうしよう。グモーターで得たお金と更にもう少し稼げば路銀には十分なはずだ。公爵領からは完全に出たいと思っている。


 公爵領に居る限り、必ず私の守りの為に人が配置される。

 とてもありがたいけど、それは貴重な人手を奪っている。

 私の為の人員が必要なければ治安に人をまわせる筈だ。


 その代わり、私の安全は私が守らなければいけない。

 元々そのつもりだったのだし、そうしよう。


 いつの間にか強い眠気が襲ってきて、私はそのまま眠りに就いた。


 ――いつの間にかマーカス王子が私の前に立っていました。

 マーカス王子は私の目を見ることもなく、ただ一言どうでもよさそうな顔で口を開きます。


「無能は、要らぬ」


 私は静かに目を覚ました。どうやら、今のは夢だったようです。

 目から涙が零れる。私はハンカチで涙をぬぐった。

 嫌な夢だ。まだ吹っ切れてはいないのでしょう。


 井戸に水をもらいに行き、顔を洗う。

 朝は少し肌寒いくらいで井戸水は冷たい。


 その冷たさがありがたかった。

 今は体を動かしたい。身支度を整えて私は宿を出た。


 ギルドに寄って魔物の情報を見る。

 昨日と違いはない。あまり更新されていないようだ。


 依頼にも一応目を通してみるが、目的に沿うものは……あっ。

 カーラの名前で依頼が出ていた。

 ポヨンの液体が欲しいと書いている。

 確か肥料にもなるのよね。依頼料は安かったが気にしない。

 私はその依頼だけ引き受け、ギルドを出た。


 露店が出ていたので、薄い小麦粉の皮に野菜炒めを包んだものを買う。

 道具入れの袋にむき出しで入れる訳にはいかないので、行儀は悪いけど食べ歩きしましょう。


 門番のおじさんと挨拶を交わし、街を出て街道を外れた場所に向かう。

 昨日とは違う道を通って砂地の様子を見るつもりだ。


 ポヨンは歩いていれば出てくると思う。

 聖女の力を使うまでもなく、ここからでも見える位いる。


 道中に薬草が見えるが、この辺りなら緑の薬草は平和になったら子供達が採るだろうから私は摘まない。

 余り見つからないが、白い薬草と青い薬草だけ摘んでいこう。


 予想通りポヨンはすぐに見つかり、私に体当たりしてきたので地面に叩きつけて、体液のゼリーを空のポーション瓶に詰める。

 3個分ほどあれば十分だろう。


 砂地に着いたが……殆どピクニックのような感じになってしまった。

 ポヨンを歩くついでに退治して、薬草を少し摘み、ホッパーを見つけたら追いかけて体当たりして退治した。意外といける。


 足をむしっていると鳥型の魔物が目の前に来たので、後ろに下がるとホッパーの胴体を嘴に掴んで持っていってしまった。沢山食べてね。


 砂地に流れる川で手を洗って、私は突き出た岩に座る。

 私は荷物入れに使っている袋から水入れを取り出して水を飲む。

 太陽が昇ってきていて少し汗をかいて来た。


 井戸水を組んだ時に一緒に詰めておいたが、まだ少し冷えている。


 周囲を見てみると、鳥型の魔物が歩いているのが見える。

 昨日は死骸しか居なかったが、今日はちらほらと歩いていた。


 やはりグモーターは狩場を移したのだろう。安全になったと判断したから鳥型の魔物はこうして出歩くようになったのだと思う。


 出たのが早かったのでまだ時間がある。

 砂地ではあるが、緑がない訳じゃない。そして緑があれば薬草も生える。


 この辺りなら赤や橙の薬草を摘んでも良いかな。

 私は草むしりに集中する。餌があるから鳥型の魔物も私に興味を示さない。


 そうして夢中になっていると、鳥型の魔物の子供が目の前に現れる。頭に殻をかぶっていて可愛い……。

 その子供は素早く移動すると一度立ち止まり、私に振り返る。

 付いてこいと言っているの?


 私は少しだけ迷ったが、付いていくことにした。

 暫くついていくと、表からでは見えにくい位置にオアシスの入口がある。

 普通に歩いていては気づかなかっただろう。


 オアシスでは大きな椰子の木が生えており、その陰で大きな鳥型の魔物が休んでいた。

 多分、この辺りの主だろう。怪我をしている。


 大きな鳥型の魔物は私を一瞥すると、再び目を閉じた。

 椰子の木の根元には白い薬草と……虹色の薬草があった。


 え、虹色?

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