第10話 ホッパーが増えた理由は……
私が何とかするんだ、と意気込んだはいいものの、どうすればいいのかしら。
あれから宿に泊まりながら色々と街の人の話を聞いてみたのだけど、魔物は確かに増えているけど特にホッパーの増加が目立つそうだ。
少し前から増え始めて農作物に被害がでていて、そろそろ人間を襲うかもしれないと宿の主人から聞かされた。
既に襲われていた現場を私は見ている。
私があの場に居なければあの子たちは怪我をしていたかもしれない、怪我では済まなかったのかも。
街の衛兵が見回りをしているし、もっと被害が増えればお父様は公爵軍を動かすと思う。
でもそれは被害が出た後の話だ。
そうなる前に解決が出来たら良いのだけど。
私は公衆浴場からの帰り道、涼しくなった夕方の風に当たりながら考える。
どうしてホッパーだけ増えるのかしら。
魔物の生態についてもっと調べておけば良かったわ。
分からないなら自分の目で見に行くしかないわね。
次の日、私は再び街の外に出る。
門番の人に聞いたのだけど、しばらく子供は街の外に出ることを禁止されたらしい。
あの子達もさぞ残念に思っているのだろう。しかしその方が安全だ。
私の数少ない聖女の力で魔物の気配を調べてみる。
ポヨンとホッパーの気配はもう覚えている。
やっぱりホッパーが目立つ。
これだけ増えるという事は、恐らく天敵がいないのかしら。
私はホッパーを少しずつ退治しながら色々な場所に足を向けた。
私のホッパー退治の効率は悪い。向こうが私に向かってこないと何もできないし、数体居ても、一匹退治するとすぐ逃げてしまうからだ。
私に冒険者は向いてなさそうね。
それでもめげずに、地図の魔物の分布図を頼りに調べてみる。
そうすると妙なことに気づいた。
砂地の辺りまで来たのだが、本来この辺に居る鳥型の魔物が見当たらない。
気配も探したみたのだけど、僅かに反応があるだけで少ない。
住処を変えたのかもしれない。
ホッパーを食べる魔物はいくつもいるけど、主に食べていたのはこの辺に居たはずの鳥型の魔物だ。
その魔物がいなくなってしまったから、ホッパーが増えてしまったのだろうか……。
砂地には手つかずの薬草が生えている。
二人に教えてもらった赤い薬草や橙の薬草も見かけたので私は少し摘んでいくことにした。
少しの間夢中になって毟っていると、鳥型の魔物の死体を発見した。
全身を食いちぎられている。
肉食の魔物に襲われたのだろう。
傷跡から察するに大型犬くらいの大きさだろうか。
もしかしてこの魔物の所為で、鳥型の魔物はここに居られなくなったのだろうか。
しばらくして青い薬草を見つけた後、私はそれをしまう。
あれからも食い散らかされた痕を見つけた。
ホッパーは平気で歩いていたし、ホッパーの死骸は見ていない。
恐らくだけど鳥型の魔物を主食にしていてホッパーには目もくれない魔物がいるのだ。
食事方法から見るにかなり凶暴な魔物だろう。
この魔物がいる限りホッパーは増え続ける。
私は精神を落ち着かせ、集中する。
気配をより広く探る。
――――いる。
私を見ている魔物がいる。
気配を探すのをやめてそちらの方へ顔を向けると、一匹の黒い四足獣が私を見ていた。
目が赤く、口の中も真っ赤だ。
そしてそれ以外は黒い。夜に近づかれたらきっと気づけない。
この魔物だ。この魔物が鳥型の魔物を食い荒らし、そして今私に狙いを定めている。
ポヨンやホッパーとは違う。本能に根差した強烈な殺意が赤い目から伝わってくる。
生き物を殺す為に生きている魔物。悪意をまき散らす魔物に初めて遭遇した。
冷たい汗が背中に流れるのを感じながら、私は魔物から視線を外さない。
この魔物は知っている。特徴からして、この魔物はグモーターに間違いない。
夜に紛れて獲物を襲い、食い散らかす黒い犬型の魔物。
その最大の特徴は必ず群れで狩りをする事。
そう、見つけたのはこの一体だけではない。
近くの此方からは見えない場所に隠れて三体いる。
……私を逃がす気はないのね。
まだ公爵家の領地だから護衛の騎士が見えない場所で見張っているだろうけど、彼等は私の命が危ない時だけ助けに入ることになっている。
私がそう約束した。
負けたら大怪我は避けられない。
騎士達が間に合わなければそれこそ死んでしまうだろう。
私は心を落ち着ける。ラーゲン流武体術は冷静さが大切だ。
右手を少し前に出す。
私を見ていたグモーターは、私に向かって静かに駆け出した。
隠れていた仲間も私に向かってくる。
大丈夫。気を付けるのは口の牙と爪。刃物を素手で受けると力を逃がせない。
そのまま怪我をしてしまう。
先頭のグモーターが噛みついてきたので、私は両手で噛みつこうとする口を押えてそのまま地面に叩きつけた。
手応えがない。四足獣を相手にするのは初めてだからか、うまく力を伝えられなかった。
叩きつけたグモーターはすぐに立ち上がり、仲間と私を包囲する。
ああ、随分とお怒りのようだ。顔が厳つい。
投げ飛ばしても効果は薄い。どう対処しましょうか……。
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