第9話 私よりよほど立派な子供達

 子供達は山菜や薬草を取りに来たとのことだった。

 家計を支えるためだって。私は感心した。こんなに小さいのにもう頑張って働こうとしているのだ。


 ただ、魔物が増えている現状では危ない。親にも注意されていたのだが、気を付ければ大丈夫だと思ったみたい。


 名前を聞くと女の子はカーラ。男の子はアーロットという。

 育ち盛りでかわいい子達だった。


 ホッパーが群れで子供を襲うなんて……何とかしたいけれど、私にそんな力はない。

 普通の冒険者より私はずっと弱いのだ。なんせ自分からは何もできない。


 相手の力を利用するしかないのだ。ハーグ先生は私の事を褒めてくれたけど、彼なら普通の戦っても強いのだろう。王国で一番の武術家だというし。


 私は気持ちを入れ替えて、二人の薬草採取に協力することにした。

 緑色をした薬草がメインで、葉や茎を煮込むと毒や軽い病気によく効くらしい。

 偶に赤い薬草を見つけると子供たちは喜んだ。


 ポーションの素材になるから価値があるらしい。

 青い草は赤い薬草よりももっと少なかったが、子供達は大事に摘んでいた。


 ホッパーやポヨンが寄ってくることはあるけど、守るだけなら大丈夫。自信があるわ。私はポヨンを破裂させ、ホッパーを地面に叩きつけてバラバラにした。

 ポヨンのゼリーみたいな体液も使い道があるらしく、素材になるらしい。袋に入れる。

 ホッパーの足は彼女たちの家でも食べるらしいので、途中で手に入ったのは全部あげることにした。

 焼くと美味しい? 本当に?


 しばらく一緒に探していると、荷物が一杯になった。

 これだけあれば少しはお金になると嬉しそうにしていた。


 私は一緒になって喜んだが、内心自分を恥じていた。

 私は心のどこかで自分をかわいそうな人間だと思っていた。

 しかし彼女たちと比べてどうか。

 確かに使えぬ聖女とそしりを受け傷ついたが、私は生活に困ることは無かった。

 家計を助けるために危険を承知で外へ出よう、などという発想をしたことは無かった。


 食べるものも、着るものも、寝ていたベットも、全て両親が用意してくれたものだ。


 それなのに私は自分を世界で一番不幸な人間だと思っていたのだ。

 彼女たちを見て私はそれを自覚し、恥じ入るばかりだった。


 私なんかよりも、この子たちの方がよほど大人で素晴らしい人間だ。


「ティアナお姉ちゃん。ありがとう!」


 カーラはまぶしいほどの笑顔で私にお礼を言ってくれた。

 アーロットもはにかみながらも姉に続いてお礼を言う。

 ……ただ嬉しい。


 私の心は一瞬で満たされた。


 私は子供で至らぬ人間かもしれないけど、この子たちの役に立つことができたんだわ。

 それがうれしかった。


 私はいいのよ、と言って二人を街まで連れていく。

 二人の馴染みの店であらかた換金する。

 店主のおじさんは豊作だねぇ! と二人を褒めて頭を撫でてやっていた。

 二人とも嬉しそうだ。


 王国銀貨4枚。家族が一週間は暮らせる額だ。

 どうやら少し混じっていた青い薬草が高く値が付いたらしい。


 子供達はお礼にと一枚私に渡そうとしたけど、気持ちだけ受け取っておいた。

 薬草の事を教えてもらったから、それで十分だというと変なのって言われちゃった。


 私ったら本当にモノを知らない。


 随分軽くなった荷物をアーロットが背負う。

 このまま家に送り届けてあげよう。


 彼女たちの家につくと、母親が迎えてくれた。

 子供たちを抱きしめてホッとしている。


 出来れば外には出したくないのだろうが、しかし子供たちの薬草採りも家計の足しになるから強く止められないのだろう。


 偶に咳をしていたから体調が良くないのかもしれない。


 母親は私に何度もお礼を言うと、食事に招待してくれた。

 最初は辞退したのだけど、どうしてもと言われたのでご相伴に預かる。


 持って帰ってきたホッパーの足の事を聞くと、料理したことがあるというので渡す。これで一品作りますね。と母親はホッパーの足をもって炊事場に行った。


 子供たちは水を飲みながら楽しそうに話している。

 父親は仕事に出ているそうだ。


 少しすると、香ばしいにおいがしてくる。


「どうぞ、お口に合うかわかりませんが。ホッパーの足を使った炒め物です」


 母親が出してくれたのは大皿に乗った炒め物だった。

 豆を潰して塩の利かせたソースでホッパーの足を炒めたのだろう。

 赤唐辛子を混ぜてあるのか少し赤い。


 それと刻んだ葉を小麦粉で作った薄い皮で包み、纏めて頬張るのだ。

 私は子供たちに食べ方を教えてもらいながら、勇気を出して一口食べる。


 まだ残っている豆の食感とホッパーの足の食感はぐにぐにとしているが、とても塩が利いていて、辛味も良くあっていた。刻んだ葉っぱが子気味良い音を立てる。


 こういう食べ方は初めてだったがとても美味しかった。

 子供たちは食べ終わると寝てしまった。疲れていたのだろう。

 母親は毛布を二人にかけてあげている。


 私はご馳走になったお礼を言うと、母親は首を振る。


「あの子たちを助けて頂いてありがとうございました。魔物が増えているのは噂で知っているのですが、どうしても甘えてしまって。でも暫くは薬草採りはやめさせるつもりです」

「少し落ち着くまではその方が良いかもしれませんね」

「聖女様が」


 その単語が出た瞬間、私の心臓が脈打った。

 ああ、ここでもまた言われるのかと。

 しかし。


「聖女様が大変御助力されていると聞いてます。何れ良くなると信じています。私達のような庶民には分かりませんが、苦労されているに違いありません」


 私は泣くのを我慢した。不審に思われないように。


 なんだ、私が見ていたのは本当に狭い場所だったんだ。


「良くなりますよ。必ず、良くなります」


 私は誓った。必ず役目を果たすと。

 とりあえずこの辺りの魔物を調べなくては。

 強い使命感が湧いてきたのを感じた。

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