第10話 結婚式~アクィ~01。
翌朝、トウテに戻ったミチトはローサの所にモンアードの礼を言いに行く。
ローサは嬉しそうに「ふふ、もう出来たの?」と聞く。
ミチトはヘトヘト顔で「はい。なんとか合格点を貰えました。すごく勉強になりましたよ」と言って笑う。
その顔が見られて嬉しかったローサは「勉強は大事よ?良かったじゃない」と言った後で「これからも装飾は?」と聞く。ミチトは困り顔で「無理ですね。俺には独自性とかセンスが無いみたいで模倣とかは良いみたいですが、オリジナルは苦手でした」と言う。
「折角の知識と技術と経験なのだからキチンと続けるときっと良い事があるわよ」
「はい」
このままミチトはローサと結婚式の相談をする。
「ドレスはもうすぐよ。ミチトさんの希望は?」
「4日使いたいんです。アクィはサルバンで、リナさんはサミアで、ライブはトウテで、イブはここがいいです」
これだけでミチトの意図を察するローサは優しい笑顔で「ふふ。了解よ。サルバン嬢だけは予測ができていましたからサルバン嬢経由で頼んであるわ」と言う。
ミチトもローサならやってくれていると思っていたので「ローサさんは話が早くて助かります」と礼を言う。
「参列者はどうするの?」
「サルバンはある程度アクィに任せます。俺からの要望はアクィとの日はメロとラミィとフユィとトゥモです」
「ふふ、わかったわ。それと私達母親は出ますからね」
「まあ、妻達は喜びますけど4日も良いんですか?」
この問いにローサは頷いて「送り迎えはよろしくね」と言った。
ミチトが「はい」と言うとこのままドレスを見せて貰う話になり、仕立て屋に行くとローサのセンスに感謝をする。どのドレスもミチトの希望と妻達の希望に沿っていた。
ローサは布の切れ端を持ってきて「これ、捨てるの勿体ないわね」と言う。
「別に…あー、切れ端とか糸って残ってるんですか?」と言ったミチトは集まった切れ端に術を流してまた一枚の生地に戻す。
「本当、なんでもアリね」
「はい。俺は器用貧乏ですからね」
「そう言えばこれだけの為の魔水晶?」
「いえ、お見通しだと思いますがコレです」
ミチトが術を流すと生地は虹のように赤からいろんな色になって青くなりまたいろんな色を経て赤に戻ってから白に戻す。
ミチトは一応「最初は純白で、その後は奥さん達の好みの色に変えます」と説明をするとローサが「…売る気は?」と聞く。
ミチトは首を横に振って「ありませんよ」と言う。
結局のところ、売っても魔術師によっては色の変更が出来ずにトラブルの種になりかねない。
「メロさんのドレスとかには?」
「まあメロが欲しがれば喜んで用意します」
「今度私にも頼める?」
「はい」
このやり取りに仕立て屋は目を丸くして今作っているイブのドレスを手に持って透かしてみたり擦ってみたりしていた。
ミチトはローサを送って母達に一声かけてから大鍋亭に帰ると一番に出迎えてくれたリナに「リナさん、明日から4日間、1日ずつください」と言う。今日も変わらない眩しい笑顔でリナは「うん。ありがとうミチト。楽しみにしてるね」と言うと「全員で参加するの?」と気になっていた事を聞く。
「いえ、1日ごとに分けます。全部出るのは俺とメロとお母さん達です」
「わぁ、お母さん達驚いていたでしょ?」
「はい。ティナさんなんて「やっと?」って言ってました」
「ふふ。順番は?」
「初日だけアクィにします」
「そうだね。アクィが楽しみにしていたからね」
「それで2日目がリナさん、3日目がライブで4日目がイブです」
イメージの出来たリナは「じゃあ4日目はご馳走作っておくね」と言ってくれる。
ミチトはリナをそっと抱きしめて「はい。ありがとうございます」とお礼を言った。
夕食後、丁度アクィとの日という事でミチトは2人きりになると「明日、サルバンで結婚式をしよう」と言う。
アクィは目を潤ませて「うん。ありがとうミチト」と言う。
アクィの顔が本当に嬉しい時の顔なのでミチトは変な冗談は言わずに「いいよ。ったく…。まあ俺も良い経験をさせてもらったし、ただライブ達のフォローはしてくれよな」と返す。
「うん。勿論よ」
「後……」
「後?」
「ごめん。アクィの気持ちをもっと考えるべきだったよ」
この言葉にアクィは泣いて喜んで「ううん。ありがとうミチト」と言って抱きついていた。
式当日。ミチトはアクィに「メロとサルバンに来て」と言って、自分はラミィとフユィとトゥモを連れて母達を迎えに行くとサルバンに先に入ってヒノ達に子供達を任せる。
スカロとパテラに頭を下げて「結婚式の事…遅くなってすみませんでした」と謝って場所を借りた事にも感謝を告げるとスカロとパテラは「いや、すまんなスティエット」「アクィは果報者だな」と言ってミチトに感謝をする。
そしてミチト自身はすっかりと失念していたがミチトの礼服も用意されていて「あ…忘れてた」と言う。
これに呆れながらスカロとパテラは「まったく、お前という男は」「本当に仕方のない奴だ。ローサ殿の根回しでアクィがリミール様の所から持ってきてくれたのだぞ」と説明をする。
シックが何着もミチトとアクィのパーティー用の服を用意して保管してくれている事は知っているが今見た服は初見で「え?シックさん?え?俺こんな服持って…」と言った所で部屋に来たローサが「やあね、シックには何着も作らせてますよ」と言って笑う。
驚いたミチトが「ローサさん?」と聞くとローサは返事をせずに「ふふ、別の色が良ければ取りに行ってね」とまだまだ服が用意されている事を告げる。
ミチトは目の前の黒の礼服を見て「いえ、黒で十分です」と言った。
話中にアクィはメロと来る。
メロはここ数日の非日常の流れから何かある事はわかっていたが聞かないようにしていたのでこの場の空気を不思議がり。そこに駆けてきたパテラが「おお!メロ!来たか!お前のドレスも用意してあるぞ!今日はピンクだ!」と言う。
「パテラお兄さん?」
「ん?まさかメロは今日の日のことを聞かされていないのか?今日はアクィとスティエットの結婚式だ!」
一瞬の思考停止の後でメロが目を丸くして「え!?ママ!?パパ!!?」と言ってミチトとアクィを見るとアクィとミチトは「うん…内緒にしててごめんねメロ」「メロ、明日はリナさんとで明後日はライブ、明明後日はイブなんだ。メロだけは毎日出てくれないかな?」と言う。
メロはミチトがアクィを一番にした事が何より嬉しいし、全員の結婚式に自分だけが出られることに喜んで「うん!出るよ!ありがとうパパ!」と言うとアクィに抱き着いて「やったねママ!ママが1番なんだね!」と誰よりも喜ぶ。
アクィはそれだけで感極まって泣いてしまいながら「ええ、ありがとうメロ」と言った。
ラミィ達はあまり良くわかっていないが用意された服を着てホールに通されるとアクィの子供だけあって堂々としている。
メロはパテラの用意したピンク色のドレスを着て現れるとティナ達がこれでもかと褒めちぎる。
この場にヒノ達がいない事をメロが気にすると「伴侶のヒノはアクィの化粧をしている」とスカロが言った。ノルアは戦力外だがまずは参加をする事が大事だと言われて立会っていた。
アクィはヒノと使用人の手で綺麗に化粧をされる。母のドレスを着て化粧をされ鏡に映る自分に向かって「母様、このドレスで結婚式を迎えました」と言うとばあやが泣きながら「お嬢様、本当にお綺麗ですよ。旦那様が見ていたら枯れるまで泣いておられましたよ」と言う。
その言葉に嬉しそうに微笑んで頷いたアクィは目を潤ませてしまうとヒノが「ほら、出来たわよ。アクィ、アンタはノルアと違って泣かずに最後まで頑張りなさいよ」と釘を刺す。
慌てて涙を抑えたアクィは「ええ、ありがとう姉様」と言い、横に立っているノルアは自身の結婚式を思い出して「…すみませんでした」と謝った。
ノルアはパテラとの結婚式で、化粧に喜び、ウエディングドレスに喜び、参列者を見て喜び、喜ぶたびに泣いて泣き続けてその都度皆で化粧をしたが最後には皆が匙を投げる始末だった。
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