第9話 しゃちほこばる。

3日目の夜になり、ようやく形も及第点になる。

出来た指輪を見ながらモンアードは「普通なら2年くらいかかるってのに…」とボヤいていた。


次にモンアードが渡したものはミチトにとって1番厳しいものだった。


作りたい指輪のラフ案。


「え…絵ですか?」

「ああ、イメージを書いてみろ。そんで厳しそうなものは手を入れてやる」


そう言われたが1日使ってもうまくならない。

落ち込むミチトをお茶に誘うモンアードはミチトに今回何があったかを聞く。


「国王陛下から一夫多妻を命じられて嫁さんが4人居て、その4人と結婚式をすることになって、嫁さんの1人から手作りの指輪をねだられた…」

「ドレスの完成に間に合わせたいので後6日なんですよ。それに全員平等にしたいんで4個作るんです」


「…延期すれば良いのではないか?」

「嫌ですよ。俺自信せっかちですし、後に回すと苦手を理由にやらなくなります」


休憩後、モンアードは時間がないからとラフ画を諦めさせてミチトの作った石膏型を手に取って「術でやれんだろ?嫁さんに似合う形をイメージしてみろ」と言われる。


だがどうやっても上手くできない。

ミチトは焦って「あれ?」「なんで?」と言っている。


モンアードも自分の作品をこれでもかと複製しているミチトの噂は聞き及んでいたので複雑な細工の指輪を渡して複製させるとそれはなんの問題もなく出来上がる。


この結果に「ふむ…」と言ったモンアードは厳しい顔でミチトを睨んで「何をしゃちほこばってんだ?」と言った。


「え?」

「お前さん、格好つけすぎなんだよ。嫁さんが好き過ぎるのもいいが、格好つけてばかりじゃなくてありのままを見せろって」


「格好…」

「つけてんだよ。だから嫁さんの事を…違うな、嫁さんの評価が気になって身動きが取れなくなるんだよ。嫁さんは嫁さん好みの奴をくれって言ったか?お前さんの作る指輪が欲しいんだろ?」


「俺の作る…」

「私は説明下手なんだよ。料理ならわかるか?美味しいって喜ぶモノを作るのと食べて欲しいモノを作るのの違いだよ」


「あ…それならなんとか…」

「指輪も同じだよ。とりあえず気分転換してこい」


ミチトは散歩してこいと放り出されると気分転換に無くなった魔水晶の補充も兼ねてファットマウンテンに行って魔物の素材と鉱石を採り尽くす。


モブロン家にはいつもの量を渡してミチトはそれを持ってモンアードの所に戻る。


「早いな、どこに行ってきたんだ?」

「ファットマウンテンに行って鉱石を採ってきました。お土産です」


ミチトは金銀白銀を出してモンアードにプレゼントをする。


「いいのか?」

「ええ、お礼です」


「じゃあもう少し指南してやるか、嫁さんの指を思い出しな。それと表情。それを思って付けて欲しい指輪を意識してみろ」

「指…顔…」


ミチトの中にはリナの笑顔と料理を作る時の指、アクィの感情豊かな顔とレイピアを握る指、ライブの甘えてくる時の顔と抱きついてくる時の指、そしてイブの溌剌とした笑顔と指で生クリームを舐めた時の指、そしてアイリスの憂いが消えてきた顔と指を絡めて見つめてくる姿が思い浮かんだ。

ミチトが「あ…」と漏らすとモンアードが嬉しそうに「見えたか?」と聞く。


「はい!」と言ったミチトはあっという間に石膏で5つの指輪を完成させた。


リナはシンプルだが細かな装飾が入った指輪。

アクィは目力に負けないような豪華な指輪。

ライブは好みに合わせた装飾は少ないが存在感がある指輪、イブにはこれぞ結婚指輪と言う感じの指輪でアイリスには大人の雰囲気に似合った指輪を用意する。


「すげぇな。でもこれ作るの手間だろ?」

「いえ、頑張ります!」


ミチトはそのまま指輪を作るがモンアードに一度思い切り怒られたのは凡ミスした際に術で修正をした時で「だから言っているだろう!格好つけるな!失敗して嫌なら失敗するな!嫌なら一からやり直せ!」と怒鳴られたミチトはスイッチが入って気に入らなければすぐに溶かしてやり直す。

50回近くやり直してようやくリナに用意したい指輪を生み出す。


あまりの集中力と結果にモンアードが「お前さん、寝てんのか?」と心配をするとミチトは「あ、俺、器用貧乏なんで本気になれば眠らないでもなんとかなるんですよ」と言って笑った。


「なんだそりゃ…。まあプロ未満だが確実に初心者以上の出来だな。地方なら売れるレベルだ」

モンアードのお墨付きを貰ってホッとしたミチトはそのままの勢いで残りの指輪を作る。


「それで?宝石はどうする?ヤミアールは隠れた名産地だから買うなら目利きの出来る仲介人を呼ぶぞ?」

「あ、それは考えてあるんです」


ミチトは魔水晶を取り出す。

「なんだそれ?クリスタル?」

「魔水晶です」


「魔術師が使うやつか?」

「はい…俺の術で姿を…色も変える」


ミチトの術で小振りの魔水晶は爪の先くらいまで小さくなり、色は深い緑色になった。

それをリナの指輪に取り付けると「出来た!」と喜ぶ。


残りの指輪にも思い思いの魔水晶を取り付けるとアクィに作った指輪を見たモンアードは「彫り込んだ装飾に這わせるなんて真似できない」と呟いていた。


「だが、これだとサイズ調整はどうする?」

「あ、それは問題ないんですよ」


再び魔水晶を出したミチトは指輪と融合させてしまう。

「何したんだ?」

「ある程度のサイズが自動で変わるようにしました。そうしないと怪我して腫れた時とか大変です」


これによりミチトのモンアードでの修行は終わり、モンアードも「まあ非常識だったが良い刺激になった」と感謝を告げられた。



ミチトは帰る事なくシキョウへと向かい、工房に顔を出して剣を打たせてくれと頼む。


親方はひさしぶりと言ってから「でも君って術で剣を作るって評判だよ?今でも打つの?」と聞かれる。


「はい。打つ方のが信頼感が違う気がするんです」

「成る程、でも見てみたいからこれを真似してくれないかな?」


出されたのはミチトがエクシィに頼まれて複製してる金の装飾剣で「これ…俺が作ったやつです」と話す。

目を丸くした親方は目の前で複製を見て更に目を丸くした後で場所代として貰った軽神鉄に感動していた。


ミチトは隕鉄と軽神鉄を目の前に置いてアクィの姿を思い浮かべる。


今のアクィからすれば隕鉄レイピアも遜色なく振るえるが実は手足の長さに合わせると隕鉄は若干重い。身体強化無しでオーバーフローの制圧は難しい。かと言って軽神鉄レイピアだと軽すぎて他の剣を使う時に重量差に泣かされるし、身体強化をして本気で振るうと折れる可能性もある。


ミチトは本気になり、全てを知る妻相手だから出来るギリギリの配分で隕鉄と軽神鉄を融合させて打ち付けていく。

そして親方に宝飾をした剣を何振りか見せてもらいアクィにあわせた装飾を行うと、魔水晶を宝石に見立てて散りばめつつ、全てに術を流して色をつける。

そして最後に全体に魔水晶を融合させて1本のレイピアを作った。


「奥さんにあげるのかい?」

「はい。結婚指輪より結婚レイピアだと言われました」


「装飾も覚えたんだね?」

「この1週間ずっと彫金師の先生の所で教わりました」


「1週間?」

「はい。ずっと寝ないで時間の許す限り練習したんで流石に疲れました。今日は帰って寝ます」


この会話に親方は笑いながら「まったく…熱が入ると止まらないのは変わらずだね」と言う。「は?」と聞き返したミチトに「うちの仕事もバイト以上にやってくれたし、あの彼女の事も熱心に尽くしていただろ?」と言う。

思い当たる節のあるミチトは「あー…」と言いながら渋い表情で親方に礼を言ってトウテに帰った。


リナは一目でミチトがやり切った事を理解して「お疲れ様」と迎える。


モンアード達にはわからないがミチトは疲れているので「はい。今日はメロとの日なのでぐっすり寝ます!」と言うがリナが申し訳なさそうに「あー…、それ無理かも」と言う。


ミチトは「はい?」と言いながら視線を感じて振り向くとジト目で見ているのはタシア、ラミィ、シア、フイュにジェードで、この数日間子守りもしないで熱心に指輪を作り続けていた事で子供達もミチトに甘えたくてたまらない。


「あ…、リナさん、今晩頼めます?」

「どうするの?」


「別荘でメロも入れて8人家族で寝ませんか?」

「ふふ。いいよ。でも私が居るからコードも含めて9人だからね」


これでやる事が決まって夕食後は別荘に引きこもって9人家族をして過ごした。

タシアは何回も来ている別荘だが外には出たことが無い。

ミチトが消音術まで使っているので王都の喧噪は聞こえてこない。


いい加減気になったタシアが「ねえお父さん、なんで別荘の外にはいかないの?」と聞くとミチトは真剣な表情で「タシア、別荘の外は危ないんだ」と言ってタシアを黙らせていた。

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