第8話 ミチトの手作り。

再度の「アクィ、似合ってるわよ。良かったじゃない」と言うヒノの言葉にアクィは「ありがとうございます姉様」と言って泣きつく。

人嫌いのはずのヒノは困り顔で「なんか娘を嫁に出す気分だわ」と言って笑い、ノルアも「家族感がグッと増しましたね!」と言う。



「それで?アクィはワガママ言わないの?」

「ワガママ?」


「ドレスだけじゃなくて結婚式には指輪が必要でしょ?」

「え…」


ヒノとアクィの会話を聞いてミチトが「ふぅ」と言いながら「アクィ、明日モンアードに買いに行けば良い?」と聞く。


アクィが「え……っと……」と言って困っているとノルアが「遠慮しないで良いんじゃないですか?闘神様なら買ってくれますよ?」と言う。


それでも「…うん……」と歯切れの悪いアクィにヒノが「何アクィ?言いなさい?」と優しくも強く言う。


「え……でも…」

「言いなさい」



この流れでアクィはようやく「…うん…、ミチトの手作りのが欲しいな…」と言った。



「…、……、………はぁぁぁっ!?手作り?それっていつもみたいに術を流して複製するのとは違って、炙って叩いて形整えてって奴だろ?普段ならレイピア貰いたがるくせに…」

「それはそうよ。頼めるのなら指輪より装飾までバッチリにした私の為だけのレイピアが欲しいけど悪いから…」


「は?アクィ?あなた何言ってるの?」

「指輪は確かに嬉しいけど戦いになると傷つけそうだし、だったらいつも肌身離さないレイピアが欲しいかなって…」


照れて本気で真っ赤になっているアクィにヒノが「そうね。それも良いわね」と言って微笑む。


「…うわ…、決定って顔したよ」

「わかってるじゃない。頑張りなさい」


この言葉で指輪作りやレイピア作りが決まったミチトは肩を落として帰る羽目になる。



「パパ、ママ、遅かったね〜」

メロはミチトとアクィが長時間2人で居ると喜ぶ。


肩を落とすミチトの「本当…遅かったよね」の声にアクィは照れ臭そうに「もう…ありがとう」と言う。

ミチトの顔とアクィの顔で何かあったと察したリナは後で聞こうと思い、ライブは「何あったの?ずるいよ!」と言う。

ライブの声に合わせて子供達もヤキモチを妬く中、イブが「ふふふ、後でお父さんとアクィお母さんにワガママ言っちゃいましょう!」と静かにヤキモチを妬いていた。


リナとの夜、行為後のひと時に今日あった事を告げると「ああ、そう言うことね。ヒノも年下の女の子に甘いんだから」と言って呆れながら「ミチトお疲れ様。疲れたでしょ?」と言う。


「はい。服を直すとか苦手すぎます」

「バカ、それじゃないでしょ?私に気を遣って結婚式をしなかった事でアクィに悲しい思いをさせていた事に気づいて辛かったでしょ?だから疲れたでしょ?」

リナの優しい言い方にミチトは嬉しそうに「やっぱりリナさんは凄いや…バレました」と言って抱き着くとリナも「ふふん。奥さんだからね」と言って抱きしめ返す。


「なのでリナさん、俺と結婚式をしてください」

「へ?」


「アクィとする事はリナさんともしたいのでよろしくお願いします。後はライブとイブの事もあるのでそこら辺もやります」

「ええぇぇぇ?私もやるの?」


「はい。アクィの為にもよろしくお願いしますね」

「…えぇ。私37だよ?」


「それでもリナが1番綺麗ですよ」

「…もう。上手いんだから」


翌朝、ミチトはアンチ領の視察事務所の仕事をサクッと片付けるとローサのところに顔を出す。


「あら、今日は孤児院でお勉強の日なのにどうしたの?」

珍しがるローサにミチトは今回の結婚式の件を話す。

ローサはからかう事も冷やかす事もなく真面目な顔で「はい。お手伝いしますよ」と言う。


ミチトも普段の感じとは違い、キチンと「すみません」と頭を下げる。


そして「私は何をしたらいいのかしら?」と言ったローサに会場の用意、ドレスの用意、そして彫金師を紹介してもらう事を頼んだ。


「手作りが欲しいからねぇ…。任せなさい。モンアードに書簡を出しますから納得するまで習いなさい」

「すみません」


「ドレスに希望や要望はあるかしら?」

「あ、そこら辺はお任せします。ただ3人分の生地だけ先に見せてもらえませんか?」


「え?生地って言ってもウェディングドレスなのだから純白にしないの?」

「いえ、白ですけどそこは少しやりたいんです」


ローサはそれならとミチトと共にダイモの仕立て屋に顔を出す。

ローサのプレゼントしてくれるドレス達は全部ここで用意されていて最新のリナ達の採寸も済んでいて作る事は何の問題もない。


ミチトは生地からリボンの材料まで全て出してもらうとまた大量の魔水晶を取り出して生地と同化させる。


「ありがとうございます。是非これでドレスをお願いします」

「ミチトさん、何をしたの?」


「アクィにやったのと同じです。色味を整えたりやサイズ調整をやりやすくしました」

「…金色様のお洋服と同じ原理かしら?」


「ええ、真式に教わって、俺なりの解釈を加えました」

「やるならキチンとやるわね。任せなさい。ミチトさんはモンアードに行ってらっしゃい」


ローサはそのまま仕立て屋にドレスの指示を出す。

3人分のドレスは10日欲しいと言われ、ミチトは10日で指輪を作る事を目標にした。

「ローサさん、帰りの為に執事長さんには声をかけましたからね。後、指輪も困ったら相談に乗ってもらっていいですか?」

「勿論よ。でも大筋はミチトさんが決めるのよ?」


ミチトは書簡を持ってモンアードに行く。

モンアードは快くミチトを招いて彫金師の元に連れて行く。


まさかだったが彫金師の名前がモンアードだった。

モンアードはミチトを見て「噂の闘神様か…。まったく、気軽に人の作品を複製したのに今度は修行か…」と言いながらも丁寧に教えてくれる。

初日は炙りと叩きの基礎を教えてくれるので従う。


ミチトは剣を打つ事が出来るので飲み込みは早いが気を抜くと武器を打つ感覚になるのでモンアードが呆れながら手を止めさせる。


夕方まで休みなく指輪を炙って叩くミチトに「休まないのか?」と聞くがミチトは時間がもったいないと言って訓練を続ける。


そして帰る直前にモンアードに合格だと言われた指輪を見てキチンと覚えたミチトは残りの不合格を引き取って溶かすとまた鉄の塊に戻してしまう。


「…職人泣かせな奴だな。職人達が自信を無くすぞ?」

「そうですか?でもまあ、この塊貸してください。練習してきます」


普通の弟子達は今日はここまでというと外に出て大の字に寝転がってしまうがミチトは更に練習をするという。


「何?休まないのか?」

「完成まで10日でやる事が5つあるから休んでいられませんよ」


「は?何言ってんだ?無茶苦茶だぞ?」

「平気ですよ。だって俺は器用貧乏ですからね」



ミチトは今晩が誰とも寝る日ではない事を活かして一晩中指輪作りを復習する。


翌朝50個の指輪を見せるとモンアードは呆れながら「やったのか?凄い奴だな」と言う。


イブ達はリナとアクィからミチトが結婚式の準備をする事になって修行中だと聞くと視察事務所の仕事を代わりに終わらせてしまう。

ミチトは申し訳なく謝るがイブもライブも笑顔で「マスター、期待してて良いですよね?」「私とイブにもあるんだよね?」と言って10日間は視察事務所には行かなくなる。


ミチトが快調だったのはここまでで、ここから先がキツかった。

とにかくモンアードに言わせればセンスがない。


モンアードは呆れながら石膏の指輪を用意してナイフや細工用の刃物を渡すと「練習だ、見本を真似るんだ」といい、沢山の指輪を真似させていく。


「本番とは作り方は違うがお前さんは指輪の細部を理解していないからまずはいろんな形を作ってみろ」

この指示に従ってミチトはこれでもかと形を真似ていく。

石膏が足りなくなると土の術で石膏と同じ指輪をひたすら作って削っていく。


「…なんなんだまったく」

モンアードは呆れながらミチトに可能な限りの指南をしていった。

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