第7話 魔水晶のドレス。

アクィがドレスに袖を通した時、若干の問題があった。

「…そうなるわよね。玄関の像を見てるとアクィより背も高かったし…」

「腰がぶかぶかです」


アクィは恥ずかしそうに肩を落として「ノルアさん…お気遣いありがとうございます…胸もスカスカよ…」と言う。

とにかくドレスとアクィはマッチして居ない。


「作り直しにしても退色や日焼けがあるから新しい布は使えないわね」

「同じデザインのドレスをアクィさんに合わせるしか…」


だがアクィは頑として母の遺品を着たいと言う。

ミチトは遠視集音術でそれを見て盛大にため息をつくと「スカロさん、パテラさん、ちょっと出かけてきますからアクィには泊まってもいいし好きにしていいって言っておいてください」と言って嫌々ながら王都を目指す。



真式…オルドスが世話になっている館の前にミチトが現れると「あ、来た来た。待ってたよ〜」と言って真式が出てくる。


「真式?」

「あれでしょ?アクィさんのドレスの件だよね?ゴルディナとコンアイちゃん、後は…」

ニコニコと説明を始める真式にミチトが「俺からしたら金色と紺色と朱色だって」とツッコむ。


「あ、そっか…ごめんね。彼女達の変化術でも破けない服の秘密を知りたくて来たんだよね?」

真式はミチト同様の会話の先読みをするし、真式の力の一つとして願いの具現化の影響で無意識に世界中を見てしまっている。

そしてミチト同様に話の筋道が狂っていていきなり相手が言う前に相手が言いたい本題を告げたり、返事をしたりする。


ミチトもやるが、自分がやられることは面白くないミチトは「ちっ…お見通しかよ」と悪態をつく。


この悪態も同族嫌悪でミチトは真式にのみ手厳しい。

それでも真式は心穏やかな人間で「まあまあ」と言って笑い飛ばす。


「でもミチト君ならもう近いことは散々やって来たから簡単だよ?」

「え?」


「あれ?気づかないの?やっぱりミチト君も大好きな奥さんの為になると余裕無くなるのかな?」

このセリフが面白くないミチトは殺気を出して「…ぶちのめすぞ?」と言う。


「えぇ…、照れないでいいのに。私のこう言う話し方をリミールさんは気に入ってくれてるんだけどなぁ」

確かにシックは好きな部類だろう。

シック自身、ミチトを戦いの神と呼び、そこから闘神のあだ名をつけたり、そもそもはサルバン嬢最愛の冒険者と吹聴もしていた。


ミチトは諸々を諦めて「ったく…、どうしたらいい?」と本題を聞くと「形状変化は魔水晶の形を変えて糸と同化させればいいよ。1から作るなら魔水晶を糸にして布を作れば良いんだけど、前々の服を使うならそうするしかないかな」と説明をする。


聞いている人間には何を言っているかわからない会話だが、真式同士の会話なら問題はない。


「ん?魔水晶と混ぜて粉々になっても魔水晶で服をつなぎ合わせるのか?」

「そうそう。そうすれば元通りだからね。色の方は汚れなんかは水の術を限界まで絞って超微細にして糸の中の糸を作る細かい所まで入り込んで洗えば楽ちんさ、水流操作ならミチト君はアクィさんの為に部屋の掃除もやってたよね?」


いちいち真式の説明はミチトが嫌がる説明が多い。

アクィの為に宿屋を水没させて洗い流した事は今言う必要は無い。

普段のミチトなら怒り出すが、今は頭がアクィのドレス、魔水晶の使い方になっているので怒らないで思案をする。


「…成る程…。色落ちに関しては服に混ぜた魔水晶に術を込めて着色するかな…」

「おお…すごい事を考えたね」


「え?真式は何を考えたの?」

「僕は受肉術を応用して服の表面を新しくしてしまおうとしたんだよ」


「やだよ。受肉術も確定術も覚えたくない」

「そうだったね」


ミチトは聞きたい事を聞くと「じゃあ真式ありがとう」と言うだけ言ってサルバンに行く。

さっさとドレスを直してしまいたかった。

サルバンに行くと言ってもいきなりアクィの部屋に行くわけにはいかない。

玄関に出現をするとアクィは玄関で母の像を見ながらため息をついていた。


まさか玄関でため息をついているとは思わなかったミチトは「アクィ?何やってんの?」と聞くとアクィは暗い表情で「ミチト…、ドレスの事で怒ってどっか行ったかと思っていたの…」と返す。


「アクィなら俺の事を遠視術で探せるだろ?」

「…うん…。でもミチトを見て怒っていたらと思うと怖くてできなかったの…」


「はぁ…、なんで変な事を考えるかなぁ。もう夜になるからやる事やったらさっさと帰るよ?今晩はリナさんの日だから泊まれないしさ」

「うん…」


「怒ってないから早くしようよ。あのドレスはあのままアクィの部屋?」

「うん」


ミチトはさっさとアクィの部屋に行くとドレスの前に立って「んー…イメージは出来てるからやるか」と言って「水魔術。大きな水を凝縮して集める。そして水流を生み出す」と言うと一気にウェディングドレスの汚れを取ってしまう。


それでもまだ経年劣化の黄ばみはあるが先程からしたら随分と綺麗になった。

そして魔水晶を取り出すと「俺の術で姿を変える」と言って「極限まで薄く細く、糸の一本一本まで纏わせる」と言う。ドレス一着に7個の魔水晶を使った後は「俺の術で色も変える…純白だ…」と言って真っ白なウェディングドレスにしてしまった。


出来上がったウエディングドレスは新品にしか見えない。

アクィは目を丸くして「ミチト……これ…」と言ってドレスを手に取る。


「ん?だってアクィはこのドレスが良いんだろ?」

「でも魔水晶を7個も…、究極の模式になった私でも何やってたかわからなかったし真似できないわ…」


「いいんだよ。俺はやれたんだから、ヒノさんとノルアさんを呼ぶから着てみなよ」

ミチトは「え?」と言うアクィを無視してヒノとノルアを呼びつけてアクィにドレスを着させる。


不思議な事にドレスは直前まで大きかったのにアクィが着るとアクィピッタリのサイズになる。


「え…」

「脱げば元の大きさに戻るよ。ある程度は着た人間の体に合うように作ったんだ。流石にメロ達が着た場合には限界はあるけどね」


姿見にうつるアクィを一緒に見たヒノは「あら、ピッタリになったわ。似合ってるわよアクィ」と言ってノルアも「はい。本当、お似合いですよ」と言う。


それでも「本当?」と言うアクィにミチトは「信じられないならばあやさんにだけ見せる?」と言ってこっそり呼ばれたばあやはアクィのドレス姿を見て「本当にお綺麗ですよお嬢様」と言って泣く。


部屋の外ではスカロとパテラが居てドレス姿を見たがったがヒノが睨みをきかせて「楽しみに待ち焦がれて」と言われてお預けを食らう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る