第6話 ウエディングドレスの由縁。
ミチトがラージポットをステイブルして5日目、モンスターの進軍とラージポットからのキャスパー派の進軍に備えて南の領土側に配置した第二以下の騎士団の裏をかく形で北からフォーム家の刺客がミチトを殺そうとやってくる。
ゴチャの街、サルバン邸には第一騎士団しか配置しておらず、パテラがレスタ達と出撃をしたが市街地戦で攻め込まれると守るものの多いサルバン騎士団は劣勢を強いられる。
家に火を放つだけで騎士団は消火活動と避難指示をして足止めをされてしまい手も足も出なくなる。
そのままゴチャを抜けてサルバンの屋敷までもう少しと言うところでアクィはミチトとメロを見て、「メロ、ママの言うことをよく聞いて?」と言った。
メロは愛らしい幼女だが「ママ?メロも戦うよ?」と言って頼もしさを見せる。だがアクィは「違うわ。メロ、パパはメロのマスターよね?」と聞く。
「うん」
「マスターからはなんて言われてネックレス…御守りを貰ったの?」
「え?危険が迫ったらロウアンおじちゃんの所にネックレスの力を使って転移術で逃げなさいって…」
これは元々ミチトがメロをスティエット村に帰して虐待の危険なんかがあった時に安全なディヴァント家に逃げられるように用意していたもので、アクィはそれを使ってメロを逃そうとする。
「そう。今がその危険なの。メロ、行きなさい」
「ママ!?」
「大丈夫、敵は兄様達とママが蹴散らすわ。もし向こうにイブ達が着いていたら助けを呼んでね」そう言って微笑んだがメロは首を縦には振らない。一緒に戦うと泣きながら言うがアクィが「行きなさいメロ!」と強く言うとメロはネックレスを握りしめて「転移術!」と言って消えた。
アクィの目線で見ている伝心術。
アクィは泣いていてメロを見た時もミチトを見た時も視界は涙で歪んでいた。
「ミチト…、今までずっとありがとう。
あなたのお陰で兄様達とも和解ができた。
私のせいで損失の出たサルバンに魔物の素材を売ってくれてありがとう。
ごめんなさい。シキョウで助けきれなくてごめんなさい。そしてシキョウで無くした私を迎えに来てくれてありがとう。
あなたのことは何があっても守るわ。
大好きよ。
リナさんの元にキチンと送り届けるわ」
眠るミチトに向けて力強い声で言ったアクィが涙を拭うとスカロが部屋に飛び込んでくる。
そしてメロの事を聞いた後でディヴァントが無事かどうかわからないからとアクィにミチトと逃げるようにスカロとパテラが言う。
アクィは必死でサルバンの為に戦いたいと言っていた。
だがパテラは「バカを言え。例えそれで俺達が助かってもお前に傷が付いたら結局目覚めたスティエットに俺達が殺されるわ。それにお前がウエディングドレスを着るときに傷がついていたら意味がない。だから行け。恥ずかしい事も何もないから逃げろ」と言う。
そしてイブが来て刺客は全て倒された。
もう8年近く前の話。
アクィは照れながら「私はまだまだね、伝心術を使うのにミチトみたいに取捨選択が出来ないわ」と言って誤魔化すように紅茶を飲むとばあやが「お嬢様、奥様好みの展開です」と言いながら紅茶を入れてアクィに微笑みかけて「ね?奥様」と言う。
ヒノは「ばあや…」と呆れた後で「ねえ、ミチト」とミチトを呼ぶ。ミチトはアクィの伝心術で少し放心状態になっていて驚きながら「はい?」と聞き返す。
「ミチトがアクィを妻にするって言いに来た日の姿を見せなさい」
「えぇ!?」
「アクィの嬉しそうな顔が忘れられなくてスカロがとても嬉しそうだったって熊男に聞いたのよ。別にアンタのアクィをくださいは省いて良いわよ」
ミチトはなんとなく断りにくい空気に諦めて「アクィ、見せられる?」と聞き、アクィが頷くとミチトはやれやれと言いながらアクィを妻に迎えに来た日を見せる。
スカロの書斎で4人で座りミチトはキチンとアクィを妻に迎えたいと言う。
確かにスカロもパテラも本当に嬉しそうな顔で、アクィは感極まって泣いていた。
そして笑顔のスカロが「スティエット!結婚式はどうする!?」と聞くと、ミチトは「あ、やりませんよ?」と即答をする。
パテラが泣きそうな顔で「何!?何故だスティエット!」と追求するとミチトは「あー…、後でアクィと2人きりの時に言おうと思ったけどいいか…」と言いながらアクィを見て「アクィ、一応リナさんと話してリナさんは気にしないと言ったけど俺が気にするからこれは守って、結婚式なんかのリナさんにしてない事はしないからそれは受け入れて」と言うとアクィは「当然よ!それくらい余裕で受け入れるわよ!」と言った。
結婚式が無くなった事でスカロとパテラが「良いのかアクィ?」「お前…」と言って追求の構えを取るとアクィは「良いのよ!やめてよ!折角ミチトがその気になったのに…」と言いながらミチトを見るとミチトは「…アクィ、やっぱりやめる?」と言っていた。
ここまでを見たところでヒノが「スカロ?熊男?何を言おうとしたの?」と追求をする。
スカロとパテラがバツの悪い顔で困るがヒノは問答無用で「言って」と言った。
スカロとパテラは普段相当怖い思いをしているのだろう。
真っ青な顔で「は…伴侶のヒノ?」「や…やめないか義理姉殿?」と言うがヒノは止まらない。
「は?今言って許されるのと隠して死ぬのどっちがいいの?」
ヒノに詰め寄られたスカロとパテラは脂汗をダラダラと流しながらお互いを見て困り果てる。ヒノが「熊男、臭いから汗止めなさい」と冷たく言うとノルアが「そんな!凄くいい匂いですよ!」と言い返す。
話が進まない事を確認してからヒノが「アクィ、あのバカ達は何を隠してるの?」と聞くとアクィが困り顔で「え…、その…」と言って言葉に詰まる。
この場ではヒノの言う事に従う流れになっていたが言いにくいアクィにヒノが「言いなさい」と追及をした。
アクィは暫く誤魔化したが最後には「母様の…あの部屋にあったウェディングドレスを子供の頃に見て…それで女は私だけだから欲しくておねだりをしたら、母様も父様もドレスなら新品を用意するって言ってくれたけど私がどうしてもアレがいいって言ったら結婚式で着てくれるならって言われたの…」と話した。
「はぁ?それじゃああのアクィを嫁にくださいってミチトが来た日にスカロと熊男が言いたかったのは母親との約束の為にウェディングドレスを残してあるのに着ないのか?って話?もしかしてアクィも着れる日を夢見てたんじゃないの?」
この言葉にミチトは愕然とする。
アクィ自身気を遣ってワガママは最低限だけで、ミチトとメロとアクィの3人でサルバンに泊まった日は夢が叶ったと泣いていた。
しかもアクィから言い出さずにミチトがメロを想って言い出して偶然夢が叶ったに過ぎない。
「…はぁぁぁ…」とため息をつくミチトにアクィがビクつくとミチトは「アクィ、あれ着れるの?」と言う。
「え?…うん。母様よりは私の方が細身だから…」
「片付けはやっておくから袖通してみなよ」
「え?」
「…後でリナさん達とも式をすれば平等だろ?」
ミチトはお茶を飲んでパークンと少し話をすると部屋に行って残りの家具を全て収納してしまう。
アクィは泣いてヒノに感謝を伝えると「バカね。キチンと言えばミチトならやってくれたわよ?まあここは気のきかないスカロと熊男だから言いにくいわよね。私を頼りなさい」と言ってアクィの頭を優しく撫でた。
その後ろでばあやは「奥様、ありがとうございます」と頭を下げていた。
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